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臨床心理士と公認心理師、何が違うの?|ココカリ心理学コラム

まず、臨床心理士とは、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格です。1988年に免許番号第1号が誕生し、以来、3万人超が認定されています。1995年度からは旧文部省が開始したスクールカウンセラー事業における心理職専門家として規定されました。

ヒトの問題を「生物・心理・社会モデル」と呼ばれる多角的な視点からアプローチする時代に移行するなかで、生物学的観点をもつ「医師」「看護師」、社会学的観点を持つ「精神保険福祉士」「教師」などが国家資格であるのに対し、心理学観点を持つ専門家のみ民間資格であるというアンバランスさが指摘され始めました。

こうした背景をうけて、2015年立法、2017年施行という流れで、国家資格 公認心理師が誕生しました。厚生労働省と文部科学省が管轄しています。

公認心理師には「名称独占」はあるものの、「業務独占」はありません。当然ですが、民間資格の臨床心理士にも独占業務はありません。例えば医師には、患者を診察し治療するという独占業務がありますが、公認心理師と臨床心理士には、資格を持つ者以外が行ってはいけない業務、というものはありません。つまり、心理検査や心理療法は法的には誰が実施してもいいのです。

しかし、両資格者が実施する心理検査や心理療法は、信頼に値するものであるとは言えるでしょう。なぜなら、資格を取得するには、大学院 臨床心理学課程の修了が必須だからです。例外的に公認心理師は、今年実施された第5回公認心理師資格試験までは、大学院修了者でなくとも5年以上の現任経験者であれば受講可能という措置がありましたが、いずれにしても両資格者は、心理臨床の相当な訓練を受けた者であるということは間違いないです。

さて、臨床心理士と公認心理師のそれぞれの背景と同じ部分を説明しました。次は違いに着目してみましょう。大きく2点あります。

診療報酬

まずは医療において診療報酬が付くか付かないかです。

診療報酬とは、医療保険から医療機関に支払われる治療費のことです。1点10円で、すべての医療行為について点数が決められています。病院は診療に対する報酬として、1〜3 割を患者が支払う自己負担分、残りを患者が加入している国民健康保険や健康保険組合・全国健康保険協会などの保険者から支払ってもらいます。

2022年診療報酬改定において、公認心理師が実施することで、病院が診療報酬を得られる項目が追加されました。逆にいうと、臨床心理士が以下の医療行為を行っても、病院は診療報酬を得られないということです。2020年の改訂で、医師の指示の下とはいえ、心理職が単独で行う心理カウンセリング(小児特定疾患カウンセリング)が診療報酬上初めて規定されたことを皮切りに、この動きは今後ますます加速すると推察されます。

●新設で公認心理師が含まれたもの
 患者初期支援充実加算
 生殖補助医療管理料1
 総合周産期特定集中治療室管理料
 依存症入院医療管理加算
●既存の項目の算定職種に公認心理師が加わったもの
 がん患者指導管理料
 療養・就労両立支援指導料
●公認心理師が配置されている既存の項目の名称変更・対象追加
 依存症入院医療管理加算

現状としてしばらくの間、診療報酬上は、公認心理師資格を持たない心理職者も公認心理師としてみなす<みなし規定>が取り決めらていますが、<みなし規定>は「公認心理師が一定程度養成されるまで」の措置であるため、今後医療でカウンセラーとして働きたい場合は、公認心理師を取得していることが求められそうです。「公認心理師資格を持っていないと出来ないこと」は、医療だけではなく、福祉、教育、司法、産業すべての領域の多くの分野で出現してくるでしょう。

研究者か否か

公認心理師は、法律上で、「心理査定(アセスメント)」「心理面接(カウンセリング)」「関係者への面接」「心の健康に関する教育・情報提供活動」の4つが業務として定められています。

臨床心理士は「臨床心理学的査定(アセスメント)」「臨床心理学的面接(カウンセリング)」「地域援助」「研究(臨床心理学)」の4つがその業務として定められています。

2つ目の違いとして、臨床心理士には、研究者としての役割が求められます。研究とは主に、心理検査の開発や、心理療法の効果検証などを指します。この研究の部分は公認心理師には課せられていません。

では、公認心理師は研究しなくていいのかと言われれば、それは違います。

臨床心理学とは、心理的な問題を抱える人々への援助の実践と、実践のための技法・理論の研究です。この「科学者ー実践者モデル」の姿勢は、公認心理師にも求められるものだと感じています。これがなければ正しい「心の健康に関する情報提供」ができないですもんね。

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臨床心理士と公認心理師の相違について整理してみました。相は、独占業務がない、心理業務における信頼性の点でした。違は、診療報酬など制度適応、研究者か否かの点でした。

やることは同じです。心理的な問題を抱える人々への援助、これを精度高く遂行するために、他職種や地域と協働しながら日々努めている人、それが臨床心理士・公認心理師です。