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「傾聴ボランティアと心理面接〜とあるエピソードから」 臨床心理士への随録 心理学

外科手術で身体の一部を喪失した高齢者との対話で教えてもらったのは、特養で行う傾聴ボランティアと、大学院心理相談室で行う心理面接の相違についてでした。

傾聴ボランティアは受容的な関与

傾聴ボランティアのゴールは、傾聴スキルを活用しながら施設の利用者とおしゃべりをすることです。施設利用の満足度とご本人のQOLの向上を目的とします。ボランティアと利用者の間には心理治療同盟がないので、ボランティアは利用者の心理的困難を探るような試みはせず、また心理療法を用いた支援という観点も持ってはいけません。基本的に受け身の姿勢で、利用者が話したい話題についておしゃべりをしていくことになります。こちらからつつき過ぎてはいけないのです。

心理面接は積極的で支援的な関与

一方、心理面接には上記の心理治療同盟が存在し、つまりクライエントは料金を払って自ら心理的困難の改善を求めて来室するので、この点において絶対的な違いがあります。セラピストが心理支援に繋がると見立てれば、積極的にクライエントのこころの問題を取り上げ、踏み込んでいくことになります。

共通なのは、寄り添う姿勢

先日、傾聴ボランティアの立ち位置から冒頭の方と世間話を始めたところ、ブツリブツリと話が途切れます。座る位置をこまめに動かすので「痛かったりするんですか?」と聞くと、手術前に抱いた不安や喪失体験の衝撃を、言葉数少なめに目を潤ませながらつぶやかれました。どう返していいのか、私は戸惑いました。

心理面接であればそこに焦点を定めて深めたでしょう。しかしこれは傾聴ボランティアです。逃げないことだけ自分に言い聞かせ、じっと傍に寄り添ってご本人を待ちました。何か言いたげな雰囲気とは裏腹に、言葉はありません。時々視線が触れ合う沈黙という会話をしたのち、話題は別のところに移りました。

覆水盆に返らずよろしく、失ったものは戻ってきません。喪失体験をどう捉え、今後どう生きていくのか。悲観は、こころの麻痺→切望→混乱と絶望→回復という推移を辿ると言われますが、人によって変遷の仕方やタイミングなどは違います。個人差に粘り強く付き合っていくのが心理屋の本分なのでしょう。

傾聴ボランティアと心理面接。こちらがとるアクションは違えど、逃げずに向き合い寄り添うという一点は共通していると感じたのです。