「老年期の喪失感」 臨床心理士への随録 心理学
10月上旬、埼玉県のある地域で行われた高齢者対象の健康検診に、MMSE認知症検査のテスターとして参加した。一人あたり約15分で、20名ほどから検査をとらせて頂いた。貴重な体験に感謝している。
被検査者とは検査終了後に軽くおしゃべりをするのだが、水を向けると多弁になる方が多い。当たり障りない世間話から、昔と違って少し歩くだけで息がきれるとか、伴侶の具合が悪くなり外出の機会が減ったとか、最近物忘れが酷くてさなど、そこはかとなく悲しみの感情をまとった話題が混じりはじめる。
高齢者に迫られる時間性・関係性・自立性の危機。 老化に伴い変化していく状況に適応するにはパワーが必要だ。
人は過去と将来に支えられて、現在の意味と存在を成立させている。少なくなってきた人生の残り時間をどう了解するのか。また、人の生の存在と意味の成立には、他者との繋がりが必要である。周りの同世代が亡くなっていったり、住む場所が変わり旧来の友人との付き合いが希薄になっていく環境で、新たな繋がりをつくることは簡単ではない。人は自立し生産的であることに最も重要な価値をおくとされるが、色々なものが喪失していく感覚の中で、どのように自分の価値の転換を図れるかがQOL向上の鍵となる。
エリクソンの社会発達理論における老年期の発達課題は統合である。お爺ちゃんお婆ちゃんは楽でいいよね、なんて思っている人は、認識を改めなければならない。困難に真向かっている状況を理解し、リスペクトを持って接すれば、彼らは皆、穏やかな顔で迎えてくれる。