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サンゴにも肌にもやさしい日焼け対策とは?【日焼け止めと環境問題】

突然ですが「リーフセーフ」という言葉を知っていますか?

リーフセーフとは、リーフ(Reef:サンゴ礁)+ セーフ(Safe:安全)で「サンゴ礁に有害とされる成分を含まない、海の環境にやさしい日焼け止め」のこと。その他には「リーフフレンドリー」「ビーチフレンドリー」「オーシャンフレンドリー」「コーラルフレンドリー」などと呼ばれています。

日本ではあまり知られていませんが、日焼け止め成分がサンゴ礁に与える影響について近年多くの研究が行われており、ハワイやパラオなど一部の国や地域では特定の成分を含む日やけ止めの持ち込みや販売などを規制する動きがあります。

海に流れ込んでいると考えられる日焼け止めは年間約1万4000トンといわれている ¹⁾

今回は、日焼け止めがサンゴ礁に与える影響海外の日焼け止め規制サンゴや環境にやさしい日焼け対策のポイントについてお話しします。

海に出かける予定がある方もない方も、私たちが普段使っている日焼け止めがサンゴや海の環境に与える影響について、考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。


日焼け止め成分がサンゴ礁に与える影響

日焼け止め製品に使われる紫外線防御剤には、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、紫外線を吸収・反射・散乱させる紫外線散乱剤があります。

紫外線吸収剤と紫外線散乱剤の違い

紫外線吸収剤のサンゴ礁への影響

紫外線吸収剤は紫外線を吸収し、熱などの別のエネルギーに変えて放出することによって紫外線が肌の奥まで到達するのを防ぎます。

紫外線吸収剤にも種類がたくさんあり、すべてがサンゴ礁に悪影響とされているわけではありません。サンゴ礁への影響について、特に注目されている成分は「オキシベンゾン」「オクチノキサート」です。

オキシベンゾン(ベンゾフェノン)「オキシベンゾン-3」「オキシベンゾン」と表示される成分で、紫外線から肌を保護する紫外線吸収剤としてだけでなく、製品の品質低下を防ぐ安定化剤としても多くの製品で使用されています。

オクチノキサート「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」「パラメトキシケイ皮酸オクチル」などと表示される成分で、現在最も多くの日焼け止め製品に使用されている紫外線吸収剤の一つです。

オキシベンゾンやオクチノキサートがサンゴの生育に悪影響を与えることを示した研究の一例として、Danovaroらの2008年の研究があります。この研究では、紫外線吸収剤のオクチノキサート、オキシベンゾン-3、 4-メチルベンジリデンカンファー、防腐剤のブチルパラベンサンゴの白化を引き起こす可能性が示されています³⁾。

一方で、サンゴの成育阻害や白化の主な原因は、気候変動の影響による海水温の上昇や海洋の酸性化であるとの考えもあり、紫外線防止成分のサンゴ礁への影響と、特定の日焼け止めを禁止することによる人々の健康への影響については、専門家の間でも意見が分かれ、議論と研究が続けられています⁴⁾。

紫外線散乱剤(ナノ粒子)のサンゴ礁への影響

日焼け止めの紫外線散乱剤として使用されるのは、主に酸化チタン酸化亜鉛などの粉体原料です。紫外線散乱剤はミネラルの粉体が紫外線を吸収・反射・散乱させることによって紫外線から肌を守ります。

従来の紫外線散乱剤は、紫外線吸収剤と比較して白浮きやきしみを生じやすいという欠点がありましたが、製造技術の進歩によって超微粒子粉体の製造が可能となり、白浮きせず紫外線防御効果も高いナノ粒子の紫外線散乱剤が開発されています。(※ナノメートル(nm)とは「1 mmの100万分の1の長さ」を表す単位。ナノ粒子(ナノマテリアル)とは一般に大きさが100 nm以下の小さな物質をさします。)

一方、ナノ化技術の進歩にともなって、酸化亜鉛や酸化チタンなどのナノ粒子を含む「ナノマテリアル」が環境や健康に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。酸化亜鉛や酸化チタンのナノ粒子がサンゴの白化を引き起こすという報告もあり、さらなる研究が求められています⁷⁾⁸⁾。

現在、ナノ粒子を含む紫外線散乱剤の使用についての規制は海外でもほとんどありませんが、研究が進むにつれてナノ粒子の使用を制限する動きが出てくる可能性があります。研究はまだ進行中ですが、ナノ粒子を含む日焼け止めがサンゴの生育に悪影響を与える可能性を考慮して、ナノ粒子を含まない「ノンナノ」の日焼け止めの使用が推奨される場合があります。

海外での日焼け止め規制

ハワイやパラオなどの一部地域では、日焼け止めがサンゴ礁に与える影響を考慮して、特定の成分を含む日焼け止めの使用や販売を禁止する法律が定められています。

ハワイの規制

ハワイは、サンゴ礁保護のために最も先進的な措置を行なっている地域の一つです。ハワイ州では、以下の規制が施行されています。

  • 規制対象オキシベンゾンオクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)を含む日焼け止めの販売・流通を禁止(※認可された医療機関からの処方箋がある場合は対象外)

  • 施行開始:2018年に承認、2021年1月1日から施行​(ハワイ条例

また、ハワイ州マウイ郡(マウイ島・ラナイ島・モロカイ島)では2022年10月1日より、オキシベンゾンとオクチノキサートだけでなくすべての紫外線吸収剤を含む日焼け止めの販売・流通を禁止する条例が制定され、ミネラルベース以外の日焼け止めの販売が違法になりました。(マウイ郡HP
さらに、2022年12月1日からハワイ島でも同様の条例が施行され、規制の強化が進んでいます。(ハワイ州観光局

パラオの規制

パラオもまた、環境保護のために厳しい規制を導入しています。対象となる成分が多く、販売だけでなく使用も制限されているため注意が必要です。

  • 規制対象オキシベンゾンオクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)オクトクリレンなど10種の化学物質を含む日焼け止めスキンケア製品輸入・販売・使用を禁止。輸入販売した業者には1,000ドル以下の罰金が科せられ、観光客が持ち込んだ場合は没収される。

パラオで禁止されている10種の成分

タイの規制

  • 規制対象オキシベンゾン、オクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)、メチルベンジリデンカンファ、ブチルパラベンを含む日焼け止めの国立公園への持ち込み、および国立公園での使用が禁止。違反者には最大10万バーツ(日本円で約40万円)の罰金が科せられる。

  • 施行開始:2021年8月4日から施行(タイ国立公園HP

その他の地域での規制

その他にも環境への影響を考慮し、特定の日焼け止め成分を禁止する国・地域は少しずつ増えてきています。

特定の紫外線吸収剤が禁止されている地域

またメキシコの一部観光地など、法規制はなくても環境に影響を及ぼす可能性がある日焼け止めの使用を控えるよう観光客に呼びかけている地域もあります。

日焼け止めの規制が導入されている地域では、旅行者や観光業者も規制を守り、環境保護に協力することが求められています。
今後も規制される地域や対象となる成分は広がっていく可能性があるため、海外に旅行する際には、各地域の法令やガイドラインを確認しましょう。

自分が持っている日焼け止めが大丈夫か判断が難しい場合は、現地で販売されている日焼け止めを使用するのが安心かもしれません。

サンゴや環境にやさしい日焼け対策のポイント3つ

①サンゴや環境に配慮した日焼け止めを選ぶ

普段使いの日焼け止めもシャワーなどで洗い流した水は下水から海へと流れ込むため影響がないとは言えませんが、少なくとも海水浴をする際は、成分表を確認し、できるだけサンゴや環境に悪影響とされる成分が含まれていない製品を選びましょう。
成分表を見てもよくわからないときは「リーフセーフ」「ビーチフレンドリー」などと表示された製品を使用するのがおすすめ。明確な基準があるわけではありませんが、何も書かれていない製品よりは環境に配慮されている可能性が高いです。
ただし「リーフセーフ」と表示されている日焼け止めも、オキシベンゾンとオクチノキサートのみを排除しているものから、全ての紫外線吸収剤とナノ粒子を排除し、ノンナノのミネラル成分のみで構成されているものまで、製品によって基準は様々です。こちらの基準については、みなさまのご要望が多ければ今後モノサシを当ててみようと思います。

②海辺ではスプレータイプの日焼け止めを使わない

スプレータイプの日焼け止めを海岸で使うと、肌にかからなかった日焼け止めが砂浜に落ちて海に流れ込んでしまう可能性があります。
海辺で日焼け止めを塗り直す際は、スプレータイプの日焼け止めは使わず、乳液やクリームタイプの耐水性が高い日焼け止めを使用しましょう。

③物理的な日焼け対策を併用する

環境にやさしい日焼け対策として、物理的な対策が有効です。
帽子シャツ長袖のラッシュガードなど、紫外線を遮る効果のある衣類を身につけることで、必要な日焼け止めの量を減らすことができます。
また、日傘やテントを使って日陰を作る、午前 10 時から午後 2 時の紫外線量が多い時間帯を避けるなど、できるだけ紫外線を浴びない工夫をしましょう。

きれいな海を守るために私たちができること

今回は日焼け止めがサンゴ礁に与える影響と、海外の日焼け止め規制サンゴや環境にやさしい日焼け対策のポイントについてお話ししました。

日焼け止めが環境に与える影響について、日本ではまだあまり知られていませんが、日本でも海洋環境保護のための研究に取り組む化粧品企業が増えてきています¹⁰⁾¹¹⁾¹²⁾。

美容や健康のために私たちの肌を紫外線から守ることはもちろん大切ですが、サンゴや海の生き物たちを化学物質の悪影響から守ることも大切です。
私たちも、サンゴや海の環境を守るために、できることから一歩ずつ取り組んでみませんか?

日焼け止めについてもっと知りたい!という方は、以下の特集記事も読んでみてください。

これからも世の中に溢れる曖昧な情報に「モノサシ」をあてる正しい美容情報を発信していきます!美容にまつわる気になるウワサや、取り上げてほしい美容情報があれば、ぜひコメントで教えてくださいね♪

(執筆:なな)

【参考文献】
1)サンゴにやさしい日焼け止めを選ぼう、人も地球も守る選び方は?,ナショナル ジオグラフィック(2023.6.17掲載)
2)Toxicopathological Effects of the Sunscreen UV Filter, Oxybenzone (Benzophenone-3), on Coral Planulae and Cultured Primary Cells and Its Environmental Contamination in Hawaii and the U.S. Virgin Islands. , Archives of Environmental Contamination and Toxicology,Volume70, 265–288 (2016)
3)Sunscreens Cause Coral Bleaching by Promoting Viral Infections , Roberto Danovaro , Environmental Health Perspectives , Volume 116, Issue 4, 441 - 447(2008)
4)米ハワイ州、サンゴに有害な日焼け止め禁止へ,BBC NEWS JAPAN,2018.5.4
5)新たな内分泌攪乱化学物質:化粧品中の紫外線フィルター ,マルグレート シュルンフ(スイス チューリッヒ大学),環境省 第5回 内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウム報告書
6)Toxic effects of UV filters from sunscreens on coral reefs revisited: regulatory aspects for “reef safe” products , Ingo B. Miller , Environmental Sciences Europe volume 33, Article number: 74 (2021)
7)ナノマテリアルについて,日本化粧品工業会
8)Alarming the impacts of the organic and inorganic UV blockers on endangered coral's species in the Persian Gulf: A scientific concern for coral protection,Hamidreza Sharifan,Sustainable Futures Volume 2,( 2020)
9)Impact of inorganic UV filters contained in sunscreen products on tropical stony corals (Acropora spp.),Cinzia Corinaldesi 1, Francesca Marcellini 2, Ettore Nepote 3, Elisabetta Damiani 3, Roberto Danovaro,Sci Total Environ, 637-638:1279-1285.(2018)
10)資生堂、株式会社イノカとの共同研究に向けた連携協定を締結,資生堂ニュースリリース,2023.4.18
11)日やけ止め剤型にて 製品がサンゴ成育に与える影響の評価法を確立,KOSEニュースリリース,2022.4.13
12)日やけ止め製剤のサンゴ成育への影響評価法を新たに確立,ロート製薬研究開発リリース,2024.3.5

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