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【シリーズ最終】パーソナリティ理論⑤「再統合のプロセス」編



ロジャーズの「パーソナリティ理論」をシリーズで解説してまいりましたが、今回が最終回となります。
パーソンセンタード・アプローチの意味がわかる理論と題してお送りしてきましたが、今回の「再統合のプロセス」にもその要素が含まれています。(1)

ここでは、共感的理解(感情移入的理解)と、無条件の肯定的配慮を伝達する方法が示されています。
また、クライアントとの対話が、どのようなことを目指して発展していくのかも、わかってきます。


1.再統合にいたる条件

再統合の条件を確認する

自己概念に反する実際の行動や欲求があるという不一致の状態が、意識に上がってしまうと、自己構造が崩壊して「解体」状態になってしまいます。また、意識にあがらないよう「知覚の拒否」や「歪曲」といった防衛的プロセスが働きます。
防衛が働いている状態では、はっきりと不安を感じることになります。

ここまでを前回の記事『パーソナリティ理論④「防衛と解体」編』で、解説しました。

パーソンセンタード・アプローチでは、この不一致の状態や解体状態のパーソナリティ(自己構造)に「再統合(reintegration)」や回復が起きるよう関わっていきます。

ここでいう再統合を端的に説明すると、実際の欲求など自身の感覚を伴っている事柄が、価値の条件を含んだ自己概念と食い違っているため、自身の感覚を受け入れることが脅威となっている状態から、価値の条件を減らして自身の感覚を受け入れることができる自己概念を新たに作り、自己構造に統合することを指しています。

それではパーソナリティの再統合は、どのようにして起きるのでしょうか。
ロジャーズは、再統合が起きる2つの条件を挙げています。

1.防衛過程を転換させるためには、すなわち習慣的に脅威となっている経験が意識の上に正確に象徴化され、自己構造のなかに同化されるためには、ある条件が存在しなければならない。a.価値の条件が減少しなければならない。b.無条件の自己配慮が増加しなければならない。

(2)

まず、価値の条件の減少について、みていきます。

実際にある自身の感覚を意識化することで、自己構造が崩壊する脅威となるのは、自身の感覚を否定する価値の条件が、自己概念に含まれているためである、ということを『パーソナリティ理論③「価値の条件と不一致」編』でみてきました。

このパーソナリティの状態が変わらなければ、価値の条件に反する自身の感覚は、いつも脅威を感じさせるものとなります。
そのため、原因となっている価値の条件が減少していくことが、再統合の一つ目の条件となっています。

そして、価値の条件は「この条件を満たしている限り、自分は自分を大切にすることができる」という条件つきの自己配慮を作るので、価値の条件が減少することと同時に、無条件の自己配慮を増やしていく必要があります。これが二つ目の条件になっています。

2.価値の条件を減らし無条件の自己配慮を増やす方法

それでは、価値の条件を減らし同時に無条件の自己配慮を増やしていくためには、どうすればいいのでしょうか。

そのヒントはすでにご紹介した『パーソナリティ理論②「自己の発達」編』にあります。
おさらいしながら、詳しくみていきます。

2-1.無条件の自己配慮を増やす

価値の条件を減らして無条件の自己配慮を増やす

自己配慮は、「自分になにかあっても、他者が大切にしてくれて安心させてくれる」という体験を意味する「肯定的な配慮positive regard」を、重要な他者との関係性で何度も感じていくことで養われるものでした。

そして、ここで条件となっていたのが、無条件の自己配慮を増やしていくことなので、必要となるのは「無条件の肯定的配慮」です。

心理支援のシチュエーションで整理すると、クライアントにとって無条件の肯定的配慮を感じる関わりを支援者が行っていくことで、支援者はクライアントにとっての重要な他者になり、さらに支援者は同様の関わりをしていくことで、クライアントは無条件の自己配慮、つまり、無条件に自分の感覚を受け入れていけるようになるのです。


2-2.価値の条件によらない自己配慮

無条件の自己配慮を増やす関わり

ここまでで、クライアントにとって無条件の肯定的配慮を感じる関わりを支援者が行っていくことが肝になることがみえてきました。
それでは、どのようにしたらそのような関わりができるのでしょうか。

ロジャーズは「無条件の肯定的配慮の伝達」という言い回しで、これを説明しています。

2.ある重要な他者からの無条件の肯定的な配慮が伝達されることは、この条件を達成する一つの道である。

a.無条件の肯定的な配慮が伝達されるためには、それが感情移入的理解の文脈のなかに存在しなければならない。

b.人がこのような無条件の肯定的な配慮を知覚する時は、今まであった価値の条件は弱められるか、解消する。

c.もう一つの結果は、彼自身の無条件の肯定的な自己配慮が増加することである。

d.このようにして、上の2aおよび2bの条件が満たされると、脅威は減少し、防衛過程は転換され、習慣的に脅威となっている経験は、正確に象徴化されて自己概念のなかに統合される。

(2)

上記内容を解説していきます。

まず、クライアントの語りは、クライアントの認識する事実として、そのままを支援者は理解していきます。
この時、支援者は自分の認識とは別物として、クライアントの体験を理解していくので、支援者がクライアントの語りを批判することはありません。
当然のようにクライアントの語りを受け入れているといえ、これを受容的態度と呼びます。

クライアントの語りを、一貫してクライアントにとっての事実として理解するので、支援者はその内容を想像しながら理解を進めることになります。これを「感情移入的理解/共感的理解」と呼びます。

このことについて、ロジャーズは以下のように明言しています。

無条件の肯定的な配慮を十分に伝達するためには、感情移入的理解が常に必要である。

(3)

支援者は「こういうことだったんですね」と、理解を確認することを、温かい姿勢で行います。

この姿勢は、クライアントにとって良いことであっても悪いことであっても、一貫して保たれています。

このあり方こそが、無条件の肯定的配慮を伝達する方法ということになります。

そして、クライアントの語りには、価値の条件が含まれる内容も表れますが、ここでも一貫して温かく受容的な姿勢によって、理解の確認をしていくことで、無条件の肯定的配慮の関わりをしていきます。

条件つきだった自己配慮も一貫して理解されることで、クライアントは無条件に自身の感覚を捉えていけるようになります。

そうして価値の条件によって否定されていた自身の感覚を受容していくことで、自分の感覚にもとづいて穏やかに価値の条件をほぐしていくような内省も進みます。

このようにして、価値の条件によらなくても、自分を大切にできる感覚である無条件の自己配慮が養われていきます。


3.価値の条件が減って無条件の自己配慮が増えると起きること

自分の感覚を軸にする十分に機能する人間

価値の条件が減って、無条件の自己配慮が増えると、どのように変化するのかも、おさえておきます。

まず、価値の条件に反することで脅威を生み出していた背景が、価値の条件が減少した分、脅威がなくなります。

そのため、防衛的プロセスも生じないので、事実を歪めて認識する必要もなくなり、丁寧に物事を捉えやすくなるともいえます。
また、価値の条件が減少して自分の感覚を受容した分、自分を認めた自己概念による認識が増えます。

これは、建設的に自身の感覚にもとづいて現実に表現できるようになることを指しており、自分らしい発言や行動選択が可能になることを意味します。

この状況は、自分を現実に表していくという意味合いで、自己実現と呼び、心理適応がうまくいっている状態といえます。

そして、自分を大切にできることで、認識する他者に対しても、大切に思えるようになります。つまり、他者への無条件の肯定的配慮です。

以上のように、自分の感覚を大切にできるパーソナリティになっていることで、生きやすく活かされやすくなっていきます。

ロジャーズはこのようなパーソナリティ変化した人のことを「十分に機能する人間」と表現しています。
ロジャーズは十分に機能する人間についての説明を簡単にしたあとに、下記の注意をしています。

以上の言葉は、このような人が、“すでに到達してしまった”かのように、何か静的なひびきを与えるので、このような人の特徴はすべて過程的な特徴であるということを強調しておきたい。十分に機能する人は、“過程のなかの人間”(person-in-process)』であって、絶えず変化しつつある人である。

(4)

ちなみに、十分に機能する人間についての私見になりますが、社会でさまざまな事柄について、歪めて認識することなく体験していくことで、社会的矛盾も体験し、新たに価値の条件がパーソナリティに組み込まれていくことになります。

そのことから、また不一致となりますが、支援者という受容的他者とのパーソナリティ変化の体験を経験している以上、自分の感覚にもとづいて再度その行動選択を取ることも考えられます。

この意味においても、自分の感覚にもとづけるようになった経験は、パーソナリティに残っているので「過程のなかの人間」であっても、無駄にはならないように思えます。


【引用文献】

(1)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,パーソナリティの理論,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,pp,238-239.
(2)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,パーソナリティの理論,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,p,238.
(3)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,パーソナリティの理論,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,p,239.
(4)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,十分に機能する人間についての理論,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,p,245.

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