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【読切】なんでもない記憶。

大切なものを売ってしまった。

「記憶コレクター」
そいつに大切な私の記憶を
売ってしまったんだ。

なんでもない記憶だった。

でも、
それが大切なものだって
今更気づいたんだ。

その記憶がなんだったかは
思い出せないけど……

その記憶を買い戻したい。
なんでもない記憶。
でも大切な記憶。

記憶コレクターは言った。

「金では買えない。それ相当の記憶でないと、交換できないな。
それをあなたが自ら体験し記憶として差し出すなら交換しよう。」

10年。

そいつの望む記憶を
私は10年かけて作った。

地球の反対側ブラジル。

リオのカーニバルでの優勝。

踊ったよ。
踊り狂ったさ。

常人では成し遂げられない快挙

それを私は成し遂げた。

それと、ブラジルで恋に落ちた彼。


記憶が戻る。
忘れていた感覚。

夕暮れの誰もいないブランコ
どこからか美味しそうなカレーの匂い
「おかえり」が返ってこない一人きりの家
時計の音
ママが置いてくれた大福饅頭
あんこの味
優しい味
ママを感じた味
寂しくてもママを感じた味

なんでもない
でも、大切な記憶

あれ?私、10年何してたんだっけ?
とても大切なことを忘れた気がする。

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(あとがき)

なんでもない記憶が
今心を慰めることがある。

どんな記憶も今の私を作っている。

だから、どんな記憶も大切。

ちなみに交換にする記憶が「意外なもの」
ということでリオのカーニバル優勝。

調べてみたら、日本人で
成し遂げた人がいた!!

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