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【第2回 後編】自分自身・周囲と調和し、相乗効果による好循環を生み出す。(キャリアオーナーシップ探索ダイアローグ)

パーソルキャリアと特定非営利活動法人ミラツクが中心となりスタートした「キャリアオーナーシップ」という概念を探索するキャリアオーナーシップリビングラボ。アカデミアや実践者をお呼びするダイアローグの第2回目は、キャリアオーナーシップ5つの中心概念のひとつ「自分自身・周囲と調和し、相乗効果による好循環を生み出す。」についてディスカッションを行いました。

こちらの後編では、京都大学准教授の塩瀬隆之さんと島根県雲南市役所の光野由里絵さんのお話を中心にお届けします。

(前半はこちら

キャリアオーナーシップ探索ダイアローグ第2回

「はたらく」と「学び」を近づけたい | 塩瀬 隆之(京都大学総合博物館 准教授)

塩瀬さん  僕も山崎さんと同様に、「自分で決めること」の大切さを伝えています。今はワークショップや講演会を通して、子どもや学生向けに学びとキャリアの話、社会人向けにはたらき方とクリエイティブデザインに関する話をしながら、自己決定の重要性を話します。

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例えば、どのケーキも自由に選んでいいとか、旅行先を自由に選べたりしたらうれしいのに、「自由研究」と言われたらみんな顔を背けるのはなぜか、ということですね。この違いは自由と自己決定の考え方です。自分で決めたいことかどうか、自由に決めていいよと言うのに決めたくなる段取りもされないと、決めたくないことを「決めさせられる」と戸惑うものです。

ワークショップでは「はたらく」の反対語や類義語を考えてもらうことがあります。これまでに7万人くらいの人に聞いてきましたが、この質問から見えることは、それぞれの勤労感です。以前、役所に勤めてる人たちと、グーグルに勤めてる人たちとこのワークをしたときは、グーグルの人が「はたらく」の類義語として「遊ぶ」と「研究する」を挙げた一方で、役所ではたらく人は「説得する」と「説明する」でした。その人の仕事が現れますよね。はたらくことが、ポジティブにもネガティブにも揺れるものだとも言えると思います。

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2020年はコロナ禍になり、学生たちが進路や就職について考えるべき時期に大人たちの元気がないことが気になりました。本来なら子どもたちの不安を払拭しなければならない大人も、みんな下を向いてオロオロして。学生たちが元気な大人に会えない状況をなんとかしたいと思い、元宇宙飛行士の山崎直子さんや、ノーベル賞受賞者の山中伸弥さんのような、めちゃくちゃ元気にがんばってきた大人たちにお願いをして、中高生向けにがんばり方について話してもらうことをオンラインで積極的に開催したんです。

なぜなら、少し前までは跳ねっ返りの若者が簡単に突破できた大人の壁も、人口動態から考えると、今はもう中年層が多すぎて突破できないようになってしまった。なんとかして若手を助けることが必要だと思っているからです。

内閣府が行う若者の意識調査が発表されると、特に気になる項目が2つあります。ひとつは「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」こと、もうひとつ「社会現象が変えられるかもしれない」という意識についてで、この2つは、他の国の若者と比べて日本の若者はとても低いんです。

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ということは、日本の若い世代の多くが「うまくいくかわからないことへのチャレンジに消極的で、社会を変えられるかもしれない自己効力感が小さい」ということ。そこに答えがあるときは一生懸命取り組めるけど、答えがないと自分で決められないし身動きが取れなくなることを示しています。僕はどうにかしてこの意識を上げたい、せめて諸外国並みに引き上げたいんですよね。

将来的にロボットや人工知能に仕事を取って代わられる恐れを語る人もいるのですが、元々ロボットの研究をしてきた僕の結論は、ロボットには「自己決定」と「聴く力」がない、ということです。仕事についても、自己決定権があればロボットに取られることはないのですが、自己決定をしないで誰かの命令や指示を待つだけの人は、ロボットや人工知能に取って代わられる可能性が高くなります。そのためにも「自己決定力」が必要だと思うんです。

もうひとつ問題意識があって、東日本大震災の後、石巻の雄勝で教育支援をしていたときの気づきです。当時はまだ大学教員でしたが、退職しようと考えたきっかけにもなったことです。震災のあった3月に中2だった子たちを担当したので、彼らは翌月から中3の受験生になる子たちです。しかし学生たちも、また保護者や先生たちでさえも、今受験勉強をしてもこの町が元に戻るとは到底考えられない、という状況でした。子どもも大人も誰も信じてない、それなのに勉強させていることは、僕はひどいことだし、変えたいと思いましたね。

具体的には「はたらく」と「学ぶ」ことを近づけたいと考えています。はたらくために学ぶわけでも、学びがすべてはたらきに直結するわけでもないですし、学びで身につけた知識よりも、知識の身につけ方がはたらくことに結びつかなければ、学ぶ時間を使ってる子どもたちに失礼だからです。

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そこで学校をやめて経産省に入りました。教育に近い文科省ではなく経産省にした理由は、本当にこの国ではたらくことの現状や、仕組みついてより知るためです。経産省では人材活用を目的にした流用化や成長戦略の組み立てに関わってきました。

そのとき、一時期とてももてはやされた半導体業界の人たちが、リーマンショックでリストラにあったり、また業界自体が新興国に取って代わられてる状況を理解しつつも「同じ会社にい続けたい」と答える人が7割を超えていることに触れて、これは危機的だと思いました。

沈むと思ってるのに、解決策も考えられずにその船と沈むことしか考えてないとは、なんとかしなきゃと思ったんです。そこで、フランスの事例をお手本にして、副業や兼業をゆるめる仕掛けをつくりました。

今日のテーマである、「周囲と調和して好循環を生み出すこと」にもつながることですが、高齢者や障がい者、または外国人など、これまではデザインプロセスから外されてきた人たちを巻き込むインクルーシブデザインを研究している中で、提供されるデザインを変える重要性を痛感しました。はたらけない、学べない、何もできない、と考えられてきた人たちも、提供側のデザインが変わることで、みんなはたらけるし学べる人になるという課題解決方法です。

インクルージョンやダイバーシティという考え方は広がってきましたが、女性と外国人を一人ずつ採用したら解決したかのように捉えるなど、ある種の条件付きダイバーシティになってしまっている組織もあります。しかし組織がすべきことは、みんなを同じ形のタイルに揃えて並べることではなくて、それぞれの形のまま全体をデザインする、ステンドグラスに仕上げるような力をつけることでしょう。

そうした事例のいくつかを紹介すると、南埼玉にある町立の笠原小学校は、卒業するときに自分で和紙をすくんです。その和紙をそれぞれの卒業証書にしてくれる取り組みをしていたり、そもそも校舎も「象設計」による大変素敵な建築です。

また、京都の菱創高校という単位制の高校では、時間割を自分でつくる。大学ではそういう仕組みもありますが、高校でも自分で決められたら良いですよね。それと僕は今、岐阜市で不登校の学生のための高校づくりにアドバイザーとして参加してるのですが、そこでは生徒が先生を選んで、時間割も選んで、成績表も自分でつくれるという自己決定を優先する仕組みを採用しています。これも私学ではなく公立でつくることに意味があると思い取り組んでいます。

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山崎さん  学校も変わってきてるんだなぁと思って拝聴しました。私も、早くひとつの学校だけに入学して勉強する仕組みをやめたらいいと思っていて、その地域で普通校に通っていても、今日は農業高校とか明日は工業高校とか、また、地域にいる大人を先生にして学べるとか、そういう自己決定できる仕組みができたら良いと思いますね。

光野さん  授業が選べるのも良いですよね。学生たちと話すと「え、そんなことしていんですか?」と聞く学生が多くて、選択肢がたくさんあるんだとわかってもらえるような環境づくりも大切だなと思いました。

塩瀬さん 僕も以前、「学生も授業がつくれます」というワークショップを行いました。それは学生だけでなく先生も対象にしたんです。今の学生の多くは、朝8:30から学校に行って、放課後の塾も含めて1日中、自分で何も変えられない授業を幼稚園から高校まで続ける。それで大学行って、さあ自分で決めていいよと言われても簡単にできるわけないんです。

コロナ禍で学校が休みになったとき、その後で授業を取り戻すために遠足や放課後や週末を潰して必死に取り戻そうとしていましたよね。僕は本当にあれに腹を立てていて、もっと生徒と一緒になって授業をつくるべきだと思いました。あまりにも腹が立って、教員研修の類はすべて断りましたね。

ムハマド・ユヌスさんが日本に来たときも、いろんな学校で子どもたちと対話の場をつくろうとしたんですが、実現したのはたった4校でした。その理由は、こちらの申し出に対して「うちの生徒には無理です」と勝手に可能性を制限して、どんなに説明しても無理だと言う。子どもたちのチャンスを奪ってしまった大人がたくさんいたんです。

以前ワークショップをしにある総合高校に行ったときも、その学校では大学受験する学生が3割、専門学校が2割、あとは就職活動などをすると教えてもらった後で、なんとなく序列のような意識が生徒にも染みついていると聞きました。それで、ワークショップではその意識を壊すことを目的にしました。

学生たちには、「大学と専門と就職、キャリアを形成するためには3つ全部が必要です」と話して、この3つをどの順番に並べるかを考えてもらうんです。ただのキャリアパスであって上下ではない、という認識をちゃんと持ってもらうこと。周りの大人がなんとなく思っていることは、学生たちにもどんどん刷り込まれちゃうんですよね。そうした大人を退けるのが大事だと思っています。


考え悩み、比較対象のおかげで自分がブラッシュアップ | 光野 由里絵(島根県雲南市役所 政策推進課)

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光野さん  私はもともと岐阜から名古屋大学の法学部に入り、最初は法律家を志していました。しかし家族のことや自分の意識が変わり、銀行に就職してファイナンシャルプランナーをしていました。ところが5年ほどして、私はなぜこの会社ではたらいてるのか、と考え出したら意味を見出せなくなってしまい、「リクルート」に転職したんです。はたらいている理由を考え続けながらはたらきたいと思っているときに周りの人に勧められたのが「リクルート」でした。キャリア教育支援の担当として、高校生に向けて進路選択に関する講演を年間50〜70校くらいしていました。

全国の高校を回るとき、先生方には事前に、どういう話をしてほしいかとヒアリングするんですね。すると、例えば東京23区にある学校だと、「高校2年でも経済学部か法学部かは決めなくていいと言ってほしい」と言われたんです。その理由は進学率に影響することを考えて、今から決めずに受験前の成績で入れる学部を決めてほしいから、と。

また逆に、ある田舎の学校に行ったときは、「やりたいことを見つけて、といったことを言わないで、ほしい」と言われました。例えばカフェのバリスタとかトリマーのような華々しい仕事を目指してもその町では生きていけないから、と。「なんだこれは?」と思いましたね。もちろん全員じゃないけど、こういう大人たちの壁を越えなければ子どもたちまで声を届けられないと痛感したんです。

それで、もっと現場に近い環境を探しているうちに島根県の教育委員会に関わることになって移住しました。移住後半年ほどして「NPO法人おっちラボ」ではたらき、2017年からは地域・教育魅力化プラットフォームでもはたらいてるので、移住当初からパラレルワークです。

しかし、教育だけに関わっていても未来はないかも、と思い始めました。もっと地域の現場に入ってもっと知るべきことがあると思って、一旦全部やめてから現在の本業である、雲南市役所に入り直すことを決めました。パラレルワークについては、自社を含めて4社ではたらきながら、多拠点キャリアでもあります。

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県ではなく雲南市を選んだ理由は、まず雲南市が自らを「ソーシャルチャレンジバレー」とうたい、日本でいちばんチャレンジをしやすいまちづくりをしようと努めていることでした。また、今の上司に出会えたことも大きかったです。その上司がよく言う言葉は、「行政の役割は転ばぬ先の杖と失敗したときの尻拭いである」ということでした。「行政よりも市民の皆さんの方が課題に気づいて努力をしてるんだから、我々はハレーションを恐れずにスムーズに進行できるよう調整に努めるべき」という考え方を持っていて、「失敗のない人生は失敗だ」という矜持がある人。あ、このスタンスと一緒なら、もしかしたらオセロの端っこからひっくり返せるかもしれない、と思ったんです。

現在は企業チャレンジとして、都市部の企業と一緒に課題解決に取り組んでいます。例えば竹中工務店さんは建物ではなく地域の笑顔を測定していたり、ヒトカラメディアさんも商店街にコワーキングスペースをつくってくれました。

それともうひとつ、「地域・人材共創機構」というところで事務局長をしています。掲げているビジョンがまさにキャリアオーナーシップの概念に重なることで「都市と地域の垣根をなくし、すべての人がオーナーシップを持って、自らの人生を切り拓くことができる社会」としています。さらにミッションとして「ローカルキャリアがキャリアたることを証明し社会に実践する」としていますが、これにたどり着いた背景にも、地域での活動が影響しています。

地域・人材共創機構」は岩手県釜石、石川県七尾、長野県塩尻、岐阜、島根県雲南という5つの地域で協働しているのですが、どこでも抱える問題意識として、ローカルでもちゃんと暮らせると考えているUIターンの人たちがいる一方で、世の中の大半はいまだに、ローカルに住むことを都落ちのような、二度と都会のキャリアには戻れないとでも思ってる人が多いと感じたことです。

そこで、ローカルキャリアもキャリアであることを証明することができれば、住む場所や仕事に対するオーナーシップが持ちやすいのではないかと仮説を立てて、アンケートなどをまとめた『ローカルキャリア白書』を2019年・2020年とつくりました。これはインターネットでどなたでもダウンロードできるようにしています。

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地域・人材共創機構」は、私を含めて事務局がみんなパラレルワーカーで運営されています。多拠点やパラレルワーカーをしてみて得られたことは、「チャレンジしても死なない」と実感したことが大きかったです。それは自分にとって自信となり、また、やってみたいことは言葉にしてみることで突破口になるような感覚もわかるようになりました。セクターを超えたパラレルキャリアを重ねたことで、業界ごとの言語もわかるようになったと思います。

「周囲と調和して相乗効果による好循環を生み出すこと」についても、そうした比較対象があるからこそ、自分がやりたいことや、大切にしたい価値観を常にブラッシュアップできてきたと思います。

こうして私がキャリアについて考えている背景には、「自分に何ができるんだろう?」「私はどう生きたいんだろう?」と悩んでいたことがあります。

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実は、大学を出て銀行に入るときには全然考えたことがなかったことです。しかし、いざ好きに生きられるという状況になったとき、初めて「自分はどう生きたいのか」と考えた。そのときにしたことは、誰かがお勧めすることには乗ってみること、それと、信頼している人には素直に考えを話してみること、また、興味を感じたらすぐに行動してみるといったことです。

NPOを立ち上げたり、リクルートの仕事とは別に教育フォーラムを始めてみたり、と、思い切って飛び込んでみたら世界は広がって、だんだんやりたいことの道筋が見えてきました。別に、次の仕事をつくろうとしていたわけじゃないけど、いろんな人に関わっているうちに自分のキャリアも築けた気がします。でもできれば、社会に出てからではなくて、もっと早いとき、例えば高校生のときにこうしたことを考えられる機会がほしかったなと思って教育に関わるようになりました。

「周囲と調和して好循環を生み出すこと」については、パラレルワークや地域活動がそもそも調和だと思っています。何かと何かがカチッと合うのとも違って、うまく整って見えるような均衡のことだと思うんです。いろんな人と関わることによって、自分自身が定義されていくし、チャレンジしてみることが誰かの助けになったりして、均衡が広がっていくように思います。

塩瀬さん  周りの大人を巻き込んだり抑えたりしながら、子どもたちにはたらき方のアドバイスができることはとても大切ですよね。

光野さん  先ほど塩瀬さんのお話の中で、総合高校の序列意識に触れていましたが、島根の場合、東京〜静岡間くらいの広い県にたった38校しか高校がないので、距離的に通える子が決まっていき、必然的に全部総合高校になっちゃうんです。県外から募集する県外留学に毎年200名くらいの学生が島根に来てくれるんですが、島根の学校は偏差値で区切らないことがいい、と言われたこともあります。

また結果としてさまざまな学生が同じ高校にいるので、結局、学力以外のいいところを見つけられるようです。島根は塾も少ないので、学生たちは学校が終わった後そのまま学校に残って先生に勉強を教わることも多いんです。全国的な学歴社会にはもしかしたら遅れをとっているのかもしれませんが、回り回って最先端っぽい感じがしますね。

西村さん  進学先選びについても、本当は放っておけることがいいんでしょうね。

光野さん  将来苦労しないように、とよかれと言ってくれているとは思いますが、でも先生という職業の人は大抵就職活動をしたことないので、その人たちだけにアドバイスを受けるというのはけっこう怖いことでもありますよね。

塩瀬さん  僕もよく講演で話すんです、先生も親御さんもみんなのことを愛してるからいろいろ言うけど聞くのは半分でいいよって。子どものことを思っていても、わからないことは事実わからない。愛情だけはもらって、評価軸や意思決定はもらわず、学生が自分でみつけることですよね。

山崎さん  うちは保護者からクレームがきたことが何度もあるんですよ。「Ryukyufrogs」に参加するまでは言うこと聞く子だったのに何してくれたんだ、とか。でも逆に、部屋でゲームだけしていた子がリビングでニュースを見て質問してくるようになったけど何があったのか、という質問もありました。

子どもたちのそばにいる大人が、もっと視野を広く持って子どもたちと接してほしいので、研究成果を発表する「Leap Day」は、教員という職業の人は無料で参加いただけるようにしました。

塩瀬さん  いいですね。僕は『問いのデザイン』という本を出させてもらったんですが、問いによって仲間が増えると思っているんです。今の社会は誰にとってもどうでもいい問いを押し付け合うようなことが多いので、良い問いをつくれる人を増やしたいし、いろんなことを許容できる大人はそうあってほしい。その上で、学生たちもキャリアオーナーシップを出せる場所ができていくと思います。

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ディスカッションはここまで。第3回目となる次回は、東京都市大学の板倉杏介さん神戸市企画調整局の秋田大介さん、「TimeLeap inc」の仁禮彩香さん、「株式会社ヒトカラメディア」の高井淳一郎さんという4名をお迎えします。

【第3回 前編】 2021年6月後半公開予定

【第1回 前編】はたらくことは生きること。キャリアオーナーシップ 探索ダイアローグを開催

・キャリアオーナーシップ リビングラボ


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