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春の光

春はすぐそこなのかもしれない。

またすぐ冷え込むとわかっていながら、心は踊ってしまう。やさしい日差しを受けて自然と足取りが早くなった。電車の中には、前の開いたダウンとトレンチコートが半分ずつ。私は冬物のコート。マフラーは家でお留守番。

なにもかも許せてしまいそうになる。なにもかも、それでよかったことにして、ちょうどいいくらいに鈍くなろうとしてしまう。別れと始まりは瓜二つの切なさを背負って、この季節に必ず顔を出す。桜なんて咲いたときには、胸がきゅっと締まる感覚は最高潮になる。春の美しさと物哀しさは縁遠くなれない。

長い間誰にも話せなかったことがふと口から出たり、自分自身の知らない一面を知ったりした。特定の誰かと特別に親しくなることが、得意と苦手の両方であることにも気がついた。ここ最近の発見が、近く私を変化させるような気がしている。どうしてそんなことを考えるのかはわからない。でも、私にとって春とはそういうものなのだ。

宇多田ヒカルのOne Last Kissが耳を通っていく。真っ白な部屋のなかで、陽の光が乱射するイメージがいつも浮かぶ。静けさの中にある眩しさが、今の私の気分と調和する。

春は、すぐそこなのかもしれない。

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