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夏がきてくれてよかった

いやはやどうやら真夏がきている。暑い、とにかく暑すぎる。昨年の今頃は引っ越しを終えて自分の家に慣れた辺り、「今回の家は涼しいぞ」と気がつき、かなり遅くまでクーラーの出番がなかった。確かに風通しのいい家には違いないのだけれど、なんだか昨年と様子が違う。記憶の斜め上をいくのが湿度の面倒くささなのか。

アイスコーヒーの消費スピードに買い物が追いついていない。荷物が増えると帰路がさらに億劫になる、けれど茶色いペットボトルを持ち帰らなければ明日の私が渇いてしまう。諦めたり腹を括ったりの日々。熱のこもりやすい身体を持つせいで、風呂上がりのような顔で手洗い場に立つ。

それでも、陽の高い時間が長くて嬉しい。仕事のあと、まだ明るいうちに駅を出るとやさしい気持ちで空を見る自分がいる。胸がしわくちゃになる日もあるけれど、なんとなく、孤独じゃないんだという実感が生まれる。好きなように生きていいし、明るい夕方に包まれていい。電車の音を聞きながら、静かな夜ふかしを楽しんでもいい。ぺたぺたする肌の表面に嫌気がさしながらもなんだかよい心地がするのは、妙な陽気さがこの季節にはあるからだ。暑さで細かいことがどうでもよく思えているだけかもしれないけれど。

そのうち買い換えようと思っていた日用品をいくつか購入した。メイクボックスや料理用の木べら、そのほか私の毎日に当然の顔で暮らしている諸々。贅沢なものはひとつもないけれど、くらしを整える作業は心の安全につながっていると思う。部屋はまた雑然とした状態になっているけれど、おおきな袋一つ分断捨離をした。

季節の陽気さに乗っかって私は自分をメンテナンスする。そうやって、取り戻したり慣らしたり、許したりしてこの先もやっていくつもりだ。五月病のど真ん中では見通せなかった今がある。夏がきてくれてよかった。

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