【密着ドキュメンタリー】マーケターの1日・広告代理店20年目編
このnoteは、「マーケターに興味はあるけど、どんな仕事をするのか分からない」という就活生に向けた、「マーケターとして働く」連載記事の第3弾。
第1弾と第2弾は、こちら。
天才になれなかった全ての人へ
広告代理店が舞台の『左利きのエレン』という漫画(ドラマ)のキャッチコピー。人類の99%が刺さるのではないだろうか。
子どものころは「サッカー選手になる」「メジャーリーガーになる」と無邪気に夢を語れた。
しかし、大人になるにつれて、自分は天才ではないと、現実を知り始める。就職活動をしている頃には夢なんか無くなっている。
ただ、働いてから、いや、働いたからこそ見えてくる夢があるのだと思う。このnoteは、映画監督を目指していた広告代理店勤務のあるマーケターの1日である。
このnoteでは、マーケターに”本当の”本音の話を聞き出したいとの想いから、マーケターの名前や顔、企業名を全て伏せさせてもらっている。
就活と転職
井上には幼少期のころ、ふざけた仲間たちと、よく大喜利をして遊んでいた。その影響か、いつしか面白いことをするのが好きになっていた。
大学時代は仲間とバンドをしたり、映画(邦画)を見漁ったり、バイクで全国をツーリングしたりと、自分が面白いと思うことを素直にやってきた。
こんな生き方をしていると、クリエイティブな仕事がしたい、と思うようになった。
就職活動をする頃には、映画監督、テレビマン、新聞記者、バイク雑誌の編集者など、様々なクリエイティブな職業に興味をもってみていた。元々、好きなものにはとことんのめりこむタイプだ。好きなことを仕事にするんだ、全力で人生を楽しむんだ、そう思っていた。
多彩な趣味の中でも、特に好きな映画を仕事にしようと、本気で映画監督を目指そうと考えたこともあったが、なかなか思うようにはいかなかった。運やタイミングだけでなく、才能の限界もあったのかもしれない。
最終的には、書くことへの興味から、コピーライターとして働くことを決め、小規模の広告代理店へと新卒で入社した。そこでは、広告やキャンペーンなど、様々な会社の、何かしらのコピーを毎日14年間書き続けた。
次第に、こう思うようになった。
「もっと大きい規模で働きたい」「もっと待遇を上げたい」「他の会社でも自分のスキルが通用できるか試してみたい」
そこで、違う環境へ飛び出してみた。今の中規模の広告代理店だ。
現在はここで7人の部下を率いるディレクターとして6年間働いている。
前職とは異なり、右脳的なクリエイティブな感覚だけでなく、左脳的なロジックが求められる。企画書を作る段階で、市場分析を徹底的に行い、「誰に届けるのか?」と考えること(ペルソナ設計※)に重きを置くようになった。
※マーケティングや製品開発において、理想的な顧客やユーザーの架空の人物像を作成すること。この架空の人物像は、実際の顧客のデータ、行動、ニーズ、悩み、特性などを基に構築する。ペルソナを作成することで、企業は顧客の購買行動についての理解が深まり、製品やサービスをより効果的にマーケティングし、顧客にとっての価値を高めることが可能になる。
マーケティングを行うことで、その後のクリエイティブ(制作物)が、より必要としている人へときちんと届くようになるのだ。
1日の流れ
平均的な1日はない。
1日のおよそ3割以上は流動的な仕事だという。
プロジェクトは、複数を並行して行うのが普通だ。大きさにもよるからその数は一概には言えないが、およそ3〜10個のプロジェクトを並行している。
会社で扱うプロジェクトの規模は様々だが、井上が主に担当するのは、予算が数百万~となる比較的大きめのプロジェクトが中心だ。最終的に制作するのは1本の映像や、1つのWebサイトだとしても、規模が大きくなると少なくとも2ヵ月はかかる。まずは大まかにスケジュールを立て、進行していく。
アンテナシェアでメンバーの得意を可視化
朝会では、メンバーの今日のスケジュールを確認し、会社からの連絡事項を共有する。
井上考案のアンテナシェアというものも行う。
それぞれの興味に関する「面白いと思ったもの」をみんなに共有するのだ。これを井上は毎回ドキュメントに記録している。
今日のアンテナシェアでは、AIで曲を作るニュースを共有してくれた人がいた。自分のアンテナではキャッチできない情報を手に入れることができるから楽しい。さらに、メンバーの得意を可視化できるので、チームビルディングにも役に立っている。
マネージャーとしての葛藤
井上はマネジメントをする立場になった今も、現場の仕事が大好きだ。
今回の新聞広告の案件は4人で進めているが、自分も含めたメンバー全員が対等な立場で意見を出し合い、企画やコピーを決める。
会社の中での出世とは、プレイヤーとしての仕事(クリエイティブ制作)からマネジメントの仕事(後輩の育成、予算管理、進捗管理など)への移行だ。
しかし、クリエイティブをずっとやっていきたいという人も一定数いる。ここに葛藤を感じる同僚は多い。
井上自身はプレイヤーとマネジメントの両方をやっていきたいと感じているため、現場の仕事もするし、マネージャーの仕事もするのだ。
マーケティングは「木の幹と根」
井上は前職ではコピーライティング一筋だったが、今の会社に移ってからはオールマイティーなディレクターとして、プロジェクト管理やマーケティング戦略立案業務も行っている。
クリエイティブ制作におけるマーケティングを木の幹と根と井上は例える。
マーケティングだけが価値があると思えない。
マーケティングをもとに何をするか、どんなアウトプットをするかが大切。しかし、そのアウトプットの根幹となるのがマーケティングでの設計だ。
だから、木の根と幹(マーケティング戦略)をしっかり作ってから、葉っぱ(クリエイティブ)を作る。
どんな案件でも、クライアントは、その目的や期待される成果について、上司や関連部署から、いちいち承認をもらわなければならない。予算が大きくなるほど、様々な立場・考え方をもつ何人もの相手に承認をもらわないといけないので大変だ。その時、「なぜそれを作るのか?」と、クリエイティブ制作のロジックがしっかりしていた方が説得しやすい。つまり、案件に繋がりやすいのだ。
逆に、クリエイティブありきで作ってしまうと、個人の感性に寄ってしまう。すると、好き嫌いで、企画の善し悪しが判断されてしまう。
代理店は事業会社よりも立場が弱い?
代理店という立場上、「これをしたい!」と思ってもできないことはよくある。特に、大企業の商品やサービスのブランド戦略といった上層の部分に関しては、企業経営の根幹でもあり、かつ多くの部署が関わっているため、中小の代理店が踏み込むのが難しい。
しかし、いつも事業会社の言われたことをやっているだけでもない。
クライアントの商品の担当者は2~3年で変わる。一方、井上の働く広告代理店は基本的に商材の担当者はいつも同じだ。彼の会社の哲学に「商品主義」というものがある。担当する商材を知り尽くしたうえで、広告を作るべきだという考え方のことだ。
これらから、広告代理店という立場の自分たちのほうが商品のことをよく知っていることも多い。この商品主義という特性を活かして、クライアントの気づいていない商品の魅力や、顧客にとっての新たな価値を見い出したりと、クライアントをリードすることもよくあるという。そのためにも、オリエン(※)を疑う、ということも意識している。
※クライアントが広告代理店などの委託先企業に、依頼したい内容(どの商品やサービスをどうやって広めていきたいか、など)を説明する会議。
人間は、お願いした通りのものが、そのまま仕上がってきたらつまらないと感じる。想像していた以上のものが出てくると、その人を頼っていきたいと思える信頼関係が生まれるのだ。
このように考えると、依頼する側とされる側との序列はつきにくい、と井上は言う。
将来の夢
「若い人の成長に携わりたい」
自分1人で出来ることは限られている。
だから、今は自分の出世よりも、後輩を育てていきたいのだという。
そこで、日々のアンテナシェアや面談などを通じて、各メンバーの得意分野の可視化を行っている。
メンバー各々の得意ジャンルにおいて、それぞれ皆が「先生」になることで、お互いの学びを交換できるようになる。それが、井上の考える、理想的なチームだという。
社外でも、若い人の成長に貢献する運動を行っている。
実は、井上は数年前からとある芸術大学で非常勤講師としてコピーライティングを教えている。生徒の力が伸びていくのを見るのが楽しい。
就活生に向けて
どうやって企業を選べばいいのか?
考えるべきことは2つあるという。
1つ目は、勤務地を考える。
東京か、それ以外か。この2択で考えるといいらしい。
井上曰く、東京とそれ以外の地域で、広告代理店の性質が大きく異なる。
東京は「特化型」が多く、それ以外の地域では「万能型」が多い。
東京にはたくさんの企業が集中している。それゆえ、広告代理店の数も膨大になる。そこで、他の代理店との差別化を行うために、東京の代理店は何かに特化していることが多い(SNSマーケティングに特化、交通広告に特化、など)。
一方、東京以外の地域には、東京ほど多くの会社がない。だから、広告代理店は、何でもする万能型の企業が多くなるのだ。
したがって、自分が「特化型」になりたいのか、「万能型」になりたいのかで、勤務地を考えるといいそうだ。
2つ目は、伸ばしたい2つのスキルを考える。
AIが台頭してきている今、1つの企業に執着するのは危険。だから、2つのスキルを持っておく方がいいのだという。
井上は野球で例えた。
ストレートがとても速いだけのピッチャーだったら、ストレートが対策されたらすぐに打たれてしまう。だが、ここに曲がるボールも投げれたら、かなり強くなる。
ただ、いきなり2つのスキルを同時に上げるのは難しいから、自分の生命線となる1つのスキルをまずは磨き上げる。その後で、それとは別のスキルをもう一つ磨き上げる、これが大事だという。
とは言っても、自分の得意なことに気づくのは難しい。井上は、得意を考える上で苦じゃないことを考えるといい、と言う。
人が苦に思えることでも、自分にとっては全然苦じゃない(特に好きでもないが、、)ことが意外とあるものだ。これが実はその人の得意なことである。
自分にとっては苦じゃないから、やり続けることができる。やり続けると自然とそのスキルはついてくるのだ。
さいごに
本記事を読んで、就職先・転職先としてマーケティング職に興味がわいた人もいるかもしれない。現場の実態を知ってイメージと違うと感じた人もいるかもしれない。これは、あくまでも一人のマーケターの例であるが、嘘のないリアルでもある。ぜひこの記事を通じて、マーケティング職やマーケティングとは何か、について考えるきっかけになれば幸いだ。
もっとマーケティングのことが知りたい、マーケターやコンテンツクリエイターの現場を詳しく知りたいといった方におすすめなのが、12月4日から12月10日まで開催される「CONTENT MARKETING DAY2023」だ。
ここでは、すでに様々な業界で活躍しているマーケターの話が期間中ならいつでも聞くことができる。このnoteの読者におすすめのコンテンツがある。
さらに、マーケティングに興味のある学生に向けたコンテンツも充実している。これもいくつか挙げてみると、
効率的に多くのマーケターの話が聞けるチャンスだ。
企業選びにおける自分の切り口を見つけよう。
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