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「フレデリック・ショパン その情熱と悲哀」フランツリスト著(2021年8月刊行)

「ショパンは自らの舞台をそれら(弦楽器、フルート、トランペット)よりずっと不毛なものに見えても不思議のない<ピアノ>という一つの楽器に限定したのだから、その判断の裏には、幾度とない熟考を経てたどり着いた、きわめて強固な確信があったに違いない!一見すると荒野のようでさえあるピアノ音楽の分野に身を尽くして、そのやせた土壌に望むべくもないほどの豊穣な花々を咲かせるまでにはどれほどの才能と情熱が必要とされたことか!」(byフランツリスト)

 本著は、作曲や演奏をこなしながら、多くの随筆文を残した音楽家リスト(1811‐1886)が同時代の友人フレデリックショパン(1810‐1849)について語った熱いエッセイ。当時のパリのサロンは、ジョルジュサンド、ベッリーニ、ベルリオーズ、マイアベーア、ユゴー、バルザック、ドラクロワなどが集い、リストやショパンらの共通の友人となり、ロマン主義芸術を昇華させた。このエッセイの中にもリストやショパンと関わった多くの友人とのエピソードが出てくる。

 ただこのエッセイでは、リストはショパンのポーランド人としての特性であるポロネーズとマズルカについて最も熱弁する。ポロネーズを聞くと、強靭な肉体、繊細な知性、不屈の勇気、深い信仰心、高潔な礼儀、仲間への思いやりなど、騎士道的性質を感じる。ポロネーズという舞踏は男たちの威厳に満ちた気高い仕草や勇ましくも優雅な身のこなしを引き立てることによって<華麗なる男性美>を示そうとする舞踊である。イスラムの影響も受けているらしい。

 ポロネーズが大胆さと活力を彩るのに対し、マズルカは淡く優しい繊細な陰影がある。ポーランドの女たちは、マズルカの音楽の随所から、失われた情熱の残響や優しい愛のささやきを感じることができる。マズルカを踊る婦人の頬が紅潮しているのはいつの時代も一貫してその熱烈な感情のためであり、単なる肉体的疲労のためではない。

 ポロネーズとマズルカは愛聴していますが、実際に舞踊のシーンを見たことがなく踊りにも大きな違いがあるのか大変興味深いと思いました。リストの文章は分析的というより詩的な文章で楽理がわからなくても楽しめる内容です。

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