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[追記]SEKAI HOTELは商店街で“何を”デザインしているのか?

※後半に追記してます。

もうすぐ海外のコンペに提出する期日。

「デザインを生かして起こすイノベーション」について資料の提出と関係者のインタビュー動画を提出する。

当然代表の僕もインタビューを受けたわけだが、「SEKAI HOTELのデザイン面で何にこだわりましたか?」と質問を受けた。

講演や取材にも慣れてきたけど、基本的に僕は台本やカンペを用意しない。

一瞬考えて、自分の口から「SEKAI HOTELでこだわったのは、“チームをデザインすること”です」と出てきて思わずテンションが上がった。


SEKAI HOTELはチームのあり方そのものをアップデートしようとしている。

デザインとは。

見た目だけがデザインの本質ではないと言われるようになって随分経った。僕はデザインを「欲しい未来のための手法」だと考えている。

つまり課題解決の設計である。

カラーコーディネートだったり、アートディレクションだったり、ハコを作ったりは課題解決においてただのディティールでしかない。

大義名分を掲げ、それに向けて知を集結し精密に具現化するところまでの全てがデザインだと思う。

社会にとって必要不可欠な不動産開発の新しい仕組みとして「まちごとホテル -SEKAI HOTEL」をリリースした時、びっくりするほど取材を受けてとても嬉しい気持ちになったが、

「空き家の新しい利活用方法」というところにフォーカスされることが多く、創業者としては「もっと大切なことを伝えなくてはいけない」と、気を引き締めたのを今でも覚えている。

旅先の日常に飛び込もう。

SEKAI HOTELでは有名観光地を推すのではなく、旅先の風土や慣習をORDINARY(日常)体験として提供している。

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多くのバックパッカーが求める魅力的体験であったこの領域は、非常に検索しづらくユーザー認知が低い。

旅先で知らない人に声をかける勇気が無い人でも、子供連れの家族でも容易に旅先の日常に飛び込めるトリガーとなれるホテルを僕らは目指すために、「観光客×地域住民×SEKAI HOTEL」が対等であるコミュニティを作ることを決意した。

だからSEKAI HOTELではホスピタリティという言葉を禁止している。三者が対等なコミュニティではフレンドシップの方が圧倒的に大切であるからだ。

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旅先での初対面を、どこか心温まる瞬間にするためにも、我々はフレンドシップ溢れる地域コミュニティを作ることに日々努めている。

ごく稀ではあるが、ホテルのカフェの一日の売上を、スタッフが地域住民やゲストにご馳走・お裾分け頂いた金額が上回ってしまう日があるほど、フレンドシップでコミュニティが回りはじめた。

この商店街に溢れる豊かさとは。

東大阪市の近鉄「布施駅」近く。みやこまち商店街にあるSEKAI HOTEL。


ここで働く一日は本当に居心地が良い。

シャッターを開ける音を合図に、商店街のテンポ感あふれる一日がスタート。季節を感じる色彩が並ぶ八百屋さんに揚げたての香りがたまらない肉屋のコロッケ。

近隣には世界に誇る技術を継承する町工場がたくさんあり、商人と職人が歴史を紡いできたまちである。

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その一方で、随分と空き家や空きテナント(シャッター商店街)が増えてきているこのまちで商売してもうすぐ丸二年。

ポジティブな人は「町工場」「技術」「商店街」「ラグビー」を語り、ネガティブな人は「何もない」「遊ぶところがない」「廃れている」などと言う。

しかし、外部からやってきたSEKAI HOTELスタッフからすると魅力満載である。ただ、町工場やラグビーに魅力を感じているかと言うと少し違う。

お釣りと商品の手渡しに冗談のおまけつきは当たり前。商店街にはどこか懐かしい時間が流れていると思う。

近隣の町工場に行けば、機械でできないことを人がやってなんぼの世界。渋すぎる。

でも商店街の活気も職人の技術も日本中にあって、幾度となく目にしてきたのに、これが布施の魅力の全てかと言われると違和感が残る。

地方・地域でよくあるようなキーワードを並べるだけの魅力発信ではなく、この布施の根幹的な豊かさ・居心地の良さを言語化したいと思い、僕は考え続けた。

商人の活気、職人の技術、まちの居心地の良さ。

布施というこのまちでテンションが上がる瞬間をとにかく集め続けた。スタッフからも集め続けてたどり着いたのは“粋な大人が多い”ということだった。

“粋なまち 布施“

先日僕の知り合いがSEKAI HOTELに泊まった時に、馴染みの居酒屋に連れていき楽しく食事をしていると、

「さっき日本酒が好きって言ってはりましたよね?」とマスターが可愛いデザインの日本酒を振る舞ってくれた。まるまる一本。

四人で飲み食いして会計9,800円。さすがにこれはマズいと思い「マスターこんなにサービスしてくれなくて良いよ!」と言うと、

「え?これが定価やで?」と。

そんなわけないし、なんだその何も無かったかのようなマスターの顔は。

しかし、このまちにいると押し付けがましくない、大袈裟でもない、とても心地良い“大人の振る舞い”に触れることが多々あるのだ。

町工場で、難易度の高い手作業を見せて欲しいと頼んだ時も当然僕たちは「めっちゃすごい!!」と歓声を上げるのだが、おっちゃんは得意げな顔ひとつ見せない。

初対面の人に「一杯おごったる!」と言われることもあるのだが、お金を払おうとすると「若いお兄ちゃんは小さいことは気にするな」と笑って誤魔化されてしまう。

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未来に必要なチーム。

外部から来た僕らから“粋”だと見える大人のカッコ良さが、このまちの活気も、技術も、居心地の良さも継承してきたのだと気づいた。

粋な商人、粋な職人が集まるこのまちの優しさ・豊かさを伝えていきたい。

定量的には推し量りづらいこのまちの豊かさをしっかりビジネスとして広げていくには、損得よりも大切な豊かさを最優先できるスタッフを募る必要があった。

そして、ホテル業としてホスピタリティよりもフレンドシップを大切にできるチームを作る必要があった。

資本主義に象徴される合理性によってフォーカスされる観光の魅力ではなく、

「おかげさま」とか「思いやり」というものを粋な背中で見せてくれるこのまちの魅力を地域住民に再認識してもらい、まだ見ぬ未来のゲストに認知されるべく世界中に発信している。


外に拡張していく。

ホテルスタッフ全員で、“粋なまち 布施”を共有することでSEKAI HOTELが提供するORDINARY体験の質がグッと上がった。

スタッフひとりひとりがゲストに対して自分の言葉・行動で粋な瞬間と繋ぎ、

地域住民に対しても「自分たちもこのまちの粋な大人として振る舞いたい」と言葉・行動で伝え始めた。

すると、SEKAI HOTELがこのまちの魅力を語り、まちの人々も少しずつSEKAI HOTELの魅力を語り始めた。

さらにはゲストの中にも自身の言葉で語る人たちが増えてきた。


もはやホテルスタッフかどうかは関係なく、粋の連鎖が起こり始めた。

“粋なまち 布施”の魅力を共有し、外へ、そして未来へ伝播していく人たちは全員がひとつのチームである。

SEKAI HOTELに集まる人たちが、地域住民でも観光客でも少しづつ増えてきている。そして、その人たちがまた次の新しい人たちを呼び込んでくれている。

既視感のある景色かもしれないが、感度をあげてこのまちを覗けば忘れられない居心地の良さがここにはある。

そして世界中にたくさんの魅力的なORDINARYがあるのだ。SEKAI HOTELは感度を上げるトリガーとしてホテル業をアップデートしていく。

SEKAI HOTELは何をデザインしているのか?

きっと地域に惚れ込んでいる人たち全員がひとつのチームとして“過去に立ち返って、地域が誇れる新しい未来”をデザインしているのだ。

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【追記|2022年7月】

さて、この記事を公開してから約2年が経ったが、その間にSEKAI HOTELは大きな成長を遂げたと思う。

一番大きな成長のきっかけは「“粋なまち 布施”って、言葉はいいけど何をしたら良いのかわかりづらくない?」というスタッフの一言だった。

全員がその場で納得し、まちの個性を「粋」という言葉で説明しているだけの現状から、「何をしたら良いのか?」という視点で、宿泊者や地域住民などのステークホルダーにもっとわかりやすく発信できるように議論を開始した。

会議を重ね、泊まり込みの合宿までやってようやく辿り着いた。まちに必要なのは、コンセプトよりも合言葉ではないだろうか。

“景気よくいこう”

これが2022年からスタートしたSEKAI HOTELが発信する、布施という大阪下町を楽しむための合言葉となった。

お客様の反応

景気よくいこう ページ_アートボード 1

チェックインの時に「このまちを楽しむための合言葉は“景気よくいこう”です。景気は悪い時代ですが、大阪下町の気前の良いコミュニケーションや、商売繁盛のえびす神社、100年を超える老舗商店などぜひ楽しんでください」と伝えるようにした。

するととにかく宿泊後のアンケートが良くなった。回収率も5割を超えるほど。

友人|3名|大阪
布施の商店街のつながり、その土地ならではのアットホームな雰囲気を楽しみながら、過ごすことができました。 とても楽しかったです!
(SEKAI PASSと地図を持って歩いていると)おもちゃ屋さんのおじさんに、楽しんでいってくださいねと声かけてもらいました!

友人|2名|東京
セカイホテルの方だけでなく、銭湯や喫茶店など街全体の温かみを感じられ、セカイホテルとの結びつきの強さが伝わったので街の顔のようなホテルに泊まれてよかったと思いました。〜〜街の日常に入り込むこと全体が宿泊体験の思い出になった。

アンケートには“モノづくり”とか“ラグビー”とかの記載は無い。「客室がオシャレ」などの感想も以前に比べて随分と減った。

「まちの雰囲気が楽しめた」

これは、お客様のスイッチが入っていないと出てこない感想だと思う。以前よりもSEKAI HOTELのお客様が布施という大阪下町の日常を楽しむ準備ができていると実感している。

それ以外にも

スタッフからの報告でこんな1シーンがあった。

一名様でご宿泊頂いた女性が、銭湯で地域住民に声をかけられたそうです。話が弾んで、少し人生相談のような内容になった時に、ある程度話をした最後に「あんたなら大丈夫やで!」と明るく太鼓判を押してもらえて、すごく喜んでらっしゃいました!

SEKAI HOTELでは無料で風呂桶をレンタルしている。それを見ての地域のおばちゃんからのアプローチだと思う。

オープンからもうすぐ4年、もはや僕らの知らない地域住民までSEKAI HOTELの体験を作っている。

そんな“励まされた”1シーンをきっかけに、2022年7月8日に医療従事者向けに感謝を伝える宿泊プランを発表することになった。

10,000円の料金で、夕食も朝食も銭湯も無料になるだけでなく、二軒目の飲食代のツケ払いも全てSEKAI HOTELが持ちます!というプラン。

Twitterでも大反響で、9割以上が「素敵!」「医療従事者にゆっくりしてほしい」などのポジティブな反響だった。

合言葉は“景気よくいこう”なので、SEKAI HOTELは採算度外視である。

もちろん地域住民の方にも「医療従事者を労う、感謝を伝えるためにやりましょう!」と声をかけている。

まだまだ世間は暗い雰囲気の中、このまちだけはみんなで景気よく盛り上げていきたい。そんなポジティブな雰囲気の中で、医療従事者の方達にもリフレッシュしてもらえたら幸いである。

みんなが共有できる合言葉。

「何をしたらいいか?」をはっきりするために思いつきで始めた合言葉。多くの人に覚えてもらうにはまだ程遠いが、この布施というまちに来て景気よく楽しめば、「験をかつげる」「気持ちが明るくなる」「縁起がいい」「何かを始める前の景気づけになる」というイメージを広く世間に知らしめたい。

日本全国に。

そして2022年の冬には初のFCとしてSEKAI HOTEL Takaokaがオープンする。

富山県高岡市でオープンするSEKAI HOTEL。もちろん高岡エリアを盛り上げる合言葉を用意している。

もう少しで合言葉やホテルデザインについてもリリースできる。

現地の人たちも含むチームで半年以上会議を重ねて、高岡の魅力を最大限に発揮できる良い合言葉ができたと全員実感している。

地域に惚れ込んでいる人たち全員がひとつのチームとして“過去に立ち返って、地域が誇れる新しい未来”をデザインをする。

地域が誇れる新しい未来をデザインするためにも、この合言葉というものが多くの人に共感されますように。





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