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金髪のエメラルド#12 銀河鉄道を見た


--8:00起床。今日は法事なのだ。だが喪服を用意していない。昨日まで会食するだけだと思っていた不謹慎な、私。

喪服はGUで買ったスーツに黒いTシャツで恰好がついた。
後は黒い靴下が必要、黒い靴下、片方しかないがな。
仕方ないので親父のくたびれた黒靴下を拝借して履いた。



寺に着くと若い僧侶がホウキで掃除をしておったわい。

カメムシ大発生しておる。廊下に30匹程。そうだった、田舎はカメムシの量が尋常じゃない。一匹二匹のカメムシで大騒ぎしている場合ではないのだ。僧侶がホウキで一掃しておった。入室した時はカメムシ臭が鼻についたが、しばらくすると鼻が慣れて気にならなくなった。



親戚一同が次々と到着、椅子に着席し、近況を語り合っている。春だから今はワラビ採りが旬。採取場所情報が飛び交う。それからお互いの孫の学年を確認。干支は何か、早生まれだから一年上だとか。毎回大きくなったなあ、こんな背が高かったっけ。という感想。身長何㎝?という質問。会うたび同じ話を繰り返す。


5cmや10cmの違いなんて大差ないだろ。宇宙人からしたらどんぐりの背比べだろ。目くそ鼻くそだろ。全く、わしの周りには最新テクノロジーやイーロンマスクやビルゲイツの話をする奴はおらんのかね。太陽・月・火星・宇宙・星座の話をする奴はおらのかね。

山菜採りの話。孫の学年の確認。人のうわさ。早速カキコばあさんが口火を切った。「職場に変わった人がいてねえ。」ほらやっぱり身内でも変わった人を息を吐くよに面白可笑しく話題にしてる。
途中から笑えなかった。人間ストレスで一時的にそうなることもあるもんな、生い立ちや環境でそうなってしまうこともあるもんな。どうすることもできない。転々として合う環境に身を置ければよいのだけれど。言いたかったがクソ真面目と言われそうなので黙って聴いていた。

どいつもこいつも。

背が高いからいいねえー。お返しに背が低いねえという感想言ったらどんな顔するかな。
背が高い=重い物もてる。高いところの物が取れる。
背が低い=か弱い、守られるべきという図式が定着しているから、こちとら力仕事ばかり押し付けられる、同じ給料なのに。ついでにリウマチなのに。誰も知らないから仕方ないけど、言ったところで理解不能ということもあるから仕方ないけど。

とにかくもう本当、女に背が高いねという感想言わないで欲しい。背が低い女は背が高い女に「背が高いね、私チビだから」ということによって自分のか弱さを回りにアピールし、それとなく重い仕事を私ばっかりに押し付けないで欲しい。

でもそういうアピール上手な人は口うまくて世渡り上手だから笑顔で「ありがとう」と言われて「まあいっか」と思ってしまう。畜生。コミュ力たかし。



つるっとした頭の若い僧侶が挨拶をすると、後から老僧がゆっくりと登場した。金色の刺繍の袈裟がまぶしいぜ。
親戚連中は喋るのをやめた。会場は緊張感に包まれ法事が厳かに始まった。


メインの老僧がホーミーのような声で唱え始めるとそれに合わせてサブの若僧がでかい木魚をぽくぽくぽくぽく。

2人の僧侶がお経デュオ。
羯諦羯諦波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶

「どうぞご一緒に」
デュオに合わせて私らはお経を合唱した。


急に腰が痛くなった。奥地は平地より気温が低い。それに加えて後ろからエアコンの風が吹いてきて首筋を冷やす。


♬ぎゃーてーぎゃーてーはーらーぎゃーてー

おばあちゃんー、寒いよぎゃーてー

早く家帰って腰をカイロで温めてえーぎゃー。

♬ぎゃーてーぎゃーてー昨日店で床に落ちてた商品を拾って棚に戻してあげたから徳を積んだはずぎゃーてー

ぎゃーてーぎゃーてー痛みはすぐ取れるずぎゃーてー

ぎゃーてーぎゃーてーリウマチも治してくだせえお願いしますー。


やれやれ、お経合唱参加のコーナーがあったので何とか気を紛らわすことができたぜ。



お経の合唱が終わると開山堂へ移動する。
ここがまた一段と寒い。底冷えするのだ。
年寄りには冷えは禁物なのに、もしやこれは寺側の策略か?
いや違う違う。

老僧侶がキャンドルに火をつけた。何か呪文を唱え始めたなと思ったらまたお経が始まった。すると開山堂では姿が見えなかったサブ僧侶が脇から物まねのご本人登場のごとく歩きながら唄い登場。また2人でお経をデュオし始めた。

長い。これは修行なのか?

気を紛らわすために「おばあさん、おばあさん、次の日仕事だから今日中に腰の痛みをとってください」と祈っていた。何て不謹慎な。


寒い。早く日の当たる場所へ行きたいよー。これは修行なのか?お寺には布施明を上納しなければならない。ああああああああーおばあさーん!!


開山堂の儀式が終わると僧侶とはここで解散。
山の上にある墓へそぞろ歩き。
急こう配だから水を汲んだバケツやら荷物を持って歩くの年寄りにはしんどい。次はもうここまで来れんわ、と毎回言い合ってる。


でも上るといい景色。
山間を走る鉄道が上から見えるのだ。
ちょうどガタンゴトンという列車の音が聴こえてきた。

銀河だ!WEST EXPRESS 銀河だ!
かっこいいね、テンション上がるね。乗りたいね。

銀河鉄道に乗車して彦星さまに会いたいね。



「彦星さまに会いたいよ」




つづく



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