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江部航平
2024年9月26日 11:04
石ころまどうは桃を流した川の色に似ていてきれい。晴れた日の昼の光に照らされて、光の屈折には濁りがなく、敷かれた雲の白さに透明な影が揺れる。「一言余計だったんじゃない」とつづらおばけが云った。「余計なお世話だよ」と私は返した。つづらおばけのいう通りだったのだけれど、それを認めることにむかついていた。僕は道の真ん中に捨てられた花束のことを思い出していた。誰もいない公園の赤錆た手摺り、猫、何かを咥
2024年9月26日 11:10
繁栄が向かう先も、地球最後の人の死に方もきっとわからない。外はもう暗くて、窓越しの空に見えたのは金の大弓を構えた狩人の姿だった。 狩人は夜の支配者だった。星も、背の高い草木も、窓を揺らす風も、一様に彼の僕のように見えた。窓の枠に切り取られた月の光が床に青白く伸びてそこだけ濡れたように見える。部屋の中は暗い。家族はもうみんな寝てしまって、静かな夜に私は身を浸していた。 もう誰もいないようだった
2024年9月26日 10:52
雲が過ぎ、晴れた空には白い星が現れた。辺りにはほとんどなんにもなかった。どこまでも続く真っ青な地平に建つ一軒の白い箱のような建物と、塩の柱が建つのみだった。「もう誰もいない」とミスタ・スーツサットは云った。ほんとうに誰もいなかったのだ。僕らは建物の方へ向かった。
2024年9月19日 12:33
愛は劇物です。分量を間違えたら取り返しがつかなくなる。公園のひまわりはみんないじけたみたいに俯いて、暗く、悲しい陰のところで咲いております。 二月にわたしは身籠りました。この子は彼の子。彼は、わたしを好きと云ってくれました。右の目の下の泣きぼくろも、肘のあざも、背中の傷も、彼は綺麗と云ってくれました。 初めて遊んだ日、彼は真っ白なリネンのシャツを着てやって来た。待ち合わせ場所の黄色いカフェで
2024年9月13日 07:49
暗がりから急に照明をつけたところでちょうど目を閉じちゃって、瞼の裏の血管の赤さが目にしみて痛む。 部屋は散らかって足の踏み場もない。照明に照らされたポテチの袋の銀色がキラキラしてやかましく、そのキラキラに紐付いた記憶の砂がちょっとだけ動くさまに気を取られていた。 救急車! 早く救急車呼んで! とトラックの運転手らしい男の叫ぶのが聞こえて、事態の処理に追いついた脳が目の前の状況に震えていた。