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マブ Love is...
2024年1月24日 00:06
悲劇の刻は訪れました。何の変哲も無いただいつもと同じ夕刻の事でした。これが残陽という物語です。この話の主人公は紫乃です。武家の娘としての謹みを持つが故に紫乃の表現はこうでありました。作者も信幸には共感を持っていませんでした。だから何処か淡々と書いていきました。紫乃の中にあった思考が次作の「痛快アクション時代劇」である筈の「まほろば隠れ人」の裏にあるテーマと重なります。
2024年1月23日 00:03
「赤い、、、」紫乃はただ、それだけを感じていた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー兄•慎之介はきっと信幸が好きではなかった。だが!武家に生まれた事を宿命と思っていた。だから!武士である事を諦め無かった。嘆かなかった。妹の身を案じていた。武士である以上、その命は果てしも無く軽い。残された妹がせめて幸せに暮らせる事を望んだ。紫乃はそんな兄•慎之介を好い
2024年1月22日 00:14
「自分は幸せだ。」珍しく声に出た。うどんの仕込みを終えもう初夏の熱を帯びた空気に肌が焼ける。井戸の水を目一杯に浴び身体を拭く。己が内にある熱が外に逃げていく様だ。その熱が空気を更に揺らがせるのだろう。夏の夕。その赤き陽が世を等しく染め上げる。自分もまだあの赤の中に居たのかもしれない。武士である事を捨てなければ慎之介の喉から溢れた赤を自分は見続けていたに違いない。信幸
2024年1月21日 00:02
信幸は刀を鞘に戻した。その傍に紫乃がふらりと寄り添ってきた。「紫乃、、この刀は何故?」「勇也さんから預かりました。」「勇さんが? しかし、この刀は屋台の金に。」紫乃が薄っすらと笑った。「屋台のお金は勇也さんが立て替えてくれていたので す。お金は少しずつ私が返しておりました。」「勇也殿、、」「この刀は何やら思い入れがあるようだ。 目を見ていれば分かる。 ただ、
2024年1月20日 00:15
薄っすらと雲を突き抜け世を照らしていた月がゆっくりと顔を出した。信幸の頬に初夏にしては冷たい風が当たる。「お前の剣を使うのは、今だ。」常世に眠る慎之介の声が聞こえた。「あなた! あなたの剣を使うは、今です!」同じ言葉を兄妹が言う。「堀出殿、良いか。」「ふむ。任せる。」信幸が実に数年ぶりに刀を抜いた。その刃に月光が跳ねる。ーーーーーーーーーーーーーーーーー
2024年1月18日 00:01
「北方殿、引かれよ! このうどん屋の気持ちが分からぬか?」「止められぬのだ、堀出殿。 この親父も儂と同じ咎を背負うておる。 守れなかった咎、殺してしもうた咎 戦さ場にてとは言え それは身内の死を近くでこの目で見、 救えなんだ咎なのだ。」「馬鹿な! それが戦さじゃ!北方殿! その御覚悟も持たなかったのか!」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー信幸は頭を木刀
2024年1月17日 00:02
「この老ぼれに他に何が出来ると言うのか。 無意味?無意味であろうや。 されど他に何がある。 命を賭け、命を捨て、命を狩ろうとせねば、 儂にはあの世にも居場所が無いわ。 これを笑わず、何と為すや!」「無意味は明白! されどこれ程までに愚弄され 茶番に巻き込まれたとあっては 無意味と済ます謂れもなかろう!」「御両人!まずは聞かれよ! 俺もあの関ヶ原の先陣に居た! 俺はそこで
2024年1月16日 00:22
「来ぬのか?ならば参る。」北方新兵衛の剣は堀出葉蔵には緩やかに見えた。さして武に優れた人生では無かったのだろう。それなのに自分を仇と求めたのか。この男の気持ちが分からなくもない。恵まれなかった想いを息子に託したか。自分に比べて武の才がある息子に己の無念を託したのだろうか?いずれにしても馬鹿げた事だ。託された方は命のやり取りを定められただけの事。それは見事に死ねと言われただけ
2024年1月15日 03:16
「良くぞ来て下さった。 感謝する。 では、宜しいか。」北方新兵衛は言うとするりと刀を抜いた。「北方殿、本当に宜しいのか? 拙者は戦さに敗れた側とは言え 剣の腕には自信がある。」「分かっておる。 あの戦さ場にて正確に喉を下から斬り裂いた 其方の剣技、しかと目に残っておる。」「それでもと申されるか?」「儂とて武士の端くれよ。 抜いた刀は引けぬもの。」堀出葉蔵は溜息を吐
2024年1月13日 00:03
「気になるんですね?」屋台を終え床に着いたが、一向に眠れずにいた。そんな信幸を察して紫乃の声がした。「いや、、俺には関係の無い話だ、、」「でも、考えてらっしゃる。」「もう武士では無いのだ。 武士の有り様の話なぞ、、」「それで宜しいのですよね?」信幸は深く息を吐いた。「気にはなっている。 が、それは店の常連客としての話だ。」「そうですね。 毎夜通って頂きましたもの。」
2024年1月9日 01:52
堀出葉蔵は冷や酒を一気に煽った。喉が渇いていたのだろう。それで一息がつけた面持ちに見えた。「愚かしい、、」改めて呟く。「戦さ場であるなら分かるのだ。 我らは戦さ場でのみ人を殺める。 それが武士であるのだ。 それが務めではないか? そこに私怨なぞは無い。」長く降った雨の季節が終わり空気はからりとしてきたが夏を迎える熱の起こりは堀出の虚しき憤りにも連鎖したかの様だ。
2024年1月7日 00:03
「そうだ!筋違いだ!」語る北方新兵衛と信幸、紫乃に不意に声が掛かる。「捜したぞ、北方殿。」「ほう。藩邸に伺われたか。」藩邸と言っても立派な物ではない。江戸はまだ埋め立てによりその姿を広げている途中なのだ。徳川家康に従う意も込めこの大工事には各藩から人手が送られていた。中には藩士として、その人足たちをまとめ上げる者たちがいる。北方新兵衛はそういう立ち位置であろう。
2024年1月6日 00:11
屋台のうどん屋が馴染みとなり常連の客も増えた頃にこの騒動が起きた。もうすぐ仕舞いにしようかという夜も更けた時分に来る老武士がいた。いつの間にか一言二言と交わす様にはなる。何やら昼は人足を見回り夜には人を捜しているらしかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「この店の切り麦、いや、うどんでしたか。 本当に美味い。美味かった。 だが、これが最後となるやもしれぬ
2023年12月26日 00:00
あれから随分と時が過ぎた。信幸と紫乃は切り麦の屋台に追われ気付いたら時が過ぎたと感じていた。最初から上手くはゆくまいと懸念していたがそれは杞憂に終わった。毎夜の様に勇也や仲間たちが客を連れてきていた。毎日が忙しい中で終わる。用意する切り麦の量も日に日に増えた。信幸にはそれはあまりにも幸せだった。段々と江戸が開けていく。色々と便利な町に変わっていく。下り醤油に鰹節が手に