奥田義幸

小説家を目指している者です。 エンタメ系の小説を主に投稿していますので、是非読んでみて…

奥田義幸

小説家を目指している者です。 エンタメ系の小説を主に投稿していますので、是非読んでみてください。 フォロー・スキ貰うと非常に喜びます。 絵→ノーコピーライトガール

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短編|向日葵と銃弾【第一話】 

 静寂が支配する真夜中の街路。この物語の主人公であるフョードルは、硬いレンガ造りの地面から伝わってくる氷のような冷たさに辟易する。冬の寒さが苦手な人は多いことだろう。この地、モスクワではお湯を使うことができたり、暖炉を設置しているのも、一定の裕福な家庭に限られ、冬は深刻な問題なのだ。  フョードルもその一例から漏れず、悴んだ手をロングコートの腹部あたりについているポケットへと押し込む。フョードルの仕事は殺し屋だ。指先の硬直は命のやり取りをする際に障害となりえる。ポケットの中

    • 瞼の裏に見える世界【5話】

       土曜日当日、空を見上げると天気予報通りの快晴が圭人の目に入る。  扉が勢いよく開き、段差に気を付けながら電車を降りる。ホームから出て改札を抜けると、すぐのところにあるベンチに腰を下ろした。ふと、ポケットに入れていたスマホを取り出す。  集合時間は十五時だが、スマホの時刻は十四時四十五分を指している。一応、律花とは連絡先を交換していたので、集合時間と集合場所は昨日の夜に電話で決めた。スマホでゲームでもして時間を潰そうかと考えていると、ちょうどよく着信音を知らせるバイブレー

      • 瞼の裏に見える世界【4話】

        「来たよ、姉さん」 「いらっしゃい圭ちゃん。今日はいつもより早かっ――」  病室の扉を開け、部屋に入るなり弾んだ声が返ってきた。圭人にピタリと密着して入っていた人物を見て言葉が途切れたらしい。 「律花ちゃん!? なんで二人が一緒にいるの?」 「えへへ。病室で会うのは初めてですね明日香さん」  開いた口が塞がらない明日香と、どこか照れた表情の律花のやり取りは想定済みだった。やれやれと圭人は咳払いをする。 「北川とは偶然知り合ったんだ。姉さんとも知り合いなんだろ?」

        • 瞼の裏に見える世界【3話】

           一週間後。圭人は待ち合わせ場所へ向かう。約束を交わした庭園のベンチに律花の姿を確認すると、深呼吸して声をかけた。 「よお」 「あっ、圭人。明日香さん、変わりなかった?」  桜色のカーディガンを着た、いつにも増してやわらかい雰囲気の律花が振り向く。 「なんならいつもより元気そうだったよ。なんか良いことでもあったみたいだけど、秘密なんだってさ」 「良いことってなんだろうね。今度わたしからも聞いてみよっと」  律花はベンチから腰を上げると、いつも手にしている白杖を縮小

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        短編|向日葵と銃弾【第一話】 

          瞼の裏に見える世界【2話】

          「高宮さん、お待たせしました」  いつもと同じ音調と笑顔で面会許可証を差し出す受付職員に一礼して、圭人は明日香の病室を目指し、歩き出す。前回来た時には後ろでピアノの音が響いていたことを思い出し、その時に話した少女の姿を無意識で探していることに気づく。  ロビーを抜け、角を曲がろうとした時、圭人の体を衝撃が襲う。その衝撃で圭人の学生鞄からハンドクリームが落ちた。 「わっ」 一瞬何が起きたのかわからなかったが、人が倒れていることに気づき、曲がり角で衝突したのだと状況を把握

          瞼の裏に見える世界【2話】

          瞼の裏に見える世界【1話】

           音は情景をのせて、世界を映し出す。  奏でる旋律には色が生まれ、キラキラと彩り存在を主張する。洗練された音色は聴く者の脳裏で風景へと変わり世界を形作るのだ。  かつては信じていたそれが、今となっては枷となり、重石となり、圧となり、痛みとなり心を蝕んでいる。  人間とは変化を嫌う生き物であると、どこかの哲学者の言葉で聞いたことがある。だが、この言葉は真っ赤な噓だ。昔は好きだったピアノも、今、耳に届いているピアノの音でさえ煩わしく感じるほどに憎い存在へと変貌してしまった。

          瞼の裏に見える世界【1話】

          初めましての自己紹介

          noteで執筆をしている、作家の卵です。 エンタメ系の作家を目指し、作品を投稿しているので気になった方はぜひ読んでみてください。 フォローされたら必ず返します!どんどんフォローよろしくお願いします! あと、作品を気に入ってくれたらスキもよろしくね⭐️ (好きなこと紹介) 好きなジャンル:ミステリ、ファンタジー、青春 好きな作家:知念実希人先生 好きなバンド:UVERworld 好きな食べ物:いちごパフェ 好きなゲーム:ポケモン、スマブラ

          初めましての自己紹介

          短編|向日葵と銃弾【最終話】

           ボグダーンの最後に放った言葉がどんな意味だったのか、今となっては誰にもわからない。しかし、フョードルはその言葉を何度も反芻しながら、冷たくなってゆくボグダーンを背負い、太陽が沈み始めた街路を進んでいた。  ボグダーンは向日葵の花が好きだった。なぜ好きなのか、どんなところが好きなのか、知らないし聞いたこともない。だが、フョードルに用意される部屋には、たまに向日葵にまつわるものが置かれていたのだ。花そのものが置かれていることもあったが、フョードルが一度枯らしてからは置かれたこ

          短編|向日葵と銃弾【最終話】

          短編|向日葵と銃弾【第六話】

           空気が張り詰めるような緊張の中、薄暗い路地に叫び声のような銃声が響き渡る。フョードルは吐いた白い息を見つめながら、朦朧とする意識をなんとか現世へと留める。 「これで、十二人目か……」  目の前で意識なく倒れる男を肩に担ぎ、フョードルはふらふらとしながらも路地裏を出る。太陽の光を遮ることのない街路は、今のフョードルにとっては意識を霞ませる一つの要因だ。刺客としてやってきた十二人目の男を病院へ運んでくれるように街の住人に頼み、すぐに踵を返した。ジョンソンが一人目の刺客として

          短編|向日葵と銃弾【第六話】

          短編|向日葵と銃弾【第五話】

           罅が入っているコンクリート製の古びた家屋に身を潜ませ、フョードルは少しずつ荒くなる息を抑えていた。スカラーから貰った薬の効果は凄まじく、未だに痛みが再発する気配がない。しかし、体が興奮状態に陥り、冷静な思考を妨害していることが問題だった。  スカラーの元を去り、フョードルはすぐにレーナの安否を確認しに行った。幸いにもフョードルが気を失っていた半日の間に殺し屋による襲撃はなかったらしく、レーナの美しい姿は健在だった。レーナが生きていることを確認したフョードルは、周辺を警戒し

          短編|向日葵と銃弾【第五話】

          短編|向日葵と銃弾【第四話】

           心の中は空っぽだった。体の中にあるすべての水分を涙として排出し、赤く腫れた顔を、丸めた膝の内に隠す。多くの人が街を行き交うなか、道端で蹲る子供に手を差し伸べてくれる人はいなかった。  捨てられてしまった現実は、そう易々と受け入れられるものではない。しかし、理由は単純明快だ。この時代において、孤児が道端に捨てられていることは珍しいことでは無い。戦争が続き、経済の成長は著しかったが、その成長に伴った負担を請け負うのは国民だ。やがて国の資源が消耗していき、食い扶持を増やすために

          短編|向日葵と銃弾【第四話】

          短編|向日葵と銃弾【第三話】

           朦朧とする意識を無理やり奮い立たせ、フョードルは影のかかった路地裏を鈍い足取りで進む。  決してボグダーンを舐めていたわけではない。しかし、今まで積んできた殺し屋としての経験がここまで通用しないとは思っていなかった。 「くそっ……」  全身から血が噴出し、体は火傷で燃え上がるように熱い。それに、右足は最後の爆発によって機能を失っており、使い物にならない状態だ。これで生きているだけでも、既に人間の範疇を超越していると言っていいだろう。  命の危機に反しているからなのか

          短編|向日葵と銃弾【第三話】

          短編|向日葵と銃弾【第二話】

           フョードルにとって、それは初めての感情だった。頭で思い浮かべるだけで、熱が思考を妨害し、強制的に人間本来の繁栄に基づいた本能を自覚させられる。  レーナの殺しに失敗した後、フョードルは一言も言葉を発さずにその場を後にした。単純に自分の中に芽生えた感情、それを処理しきれずの逃走である。しかし、その事実はフョードルにとって初の依頼の失敗であり、姿を見られた上に逃げるというのは殺し屋失格だ。姿を見た人物は一様に命を奪わなければならない。  フョードルは、熱が徐々に冷めてきた頭

          短編|向日葵と銃弾【第二話】