想いを集める。未来を繋ぐ。大学生の瀬戸芸創造プロジェクト。絵描きのノクマン前編
※この小説を読む前に
こちらの記事でこのSFができるまでの過程が描かれているので、ぜひ読んでください！読んでいただくとより作品が楽しめるかと思います！
また、今回の挿絵は、AI画像生成サービスのMidjourneyで作成しているので、そこもぜひ楽しんでください。
小説「絵描きのノクマン」
2025年、新たに「データ収集学」という学問分野が成立した。
この学問では歴史的な建造物や芸術作品などの有形文化財の詳細なデータを収集する。これによって災害や気候変動、戦争、犯罪などによって文化財が汚染、破壊された場合にデータをもとに復元することが可能となった。データ収集学の第一人者である永井ナウア―は、既に国内外のあらゆる文化財のデータを収集しメタバースで再現することに成功した。
そんな中、2040年11月に南海トラフ巨大地震が発生。香川県においても地震、津波、 液状化現象などによって大きな被害が出た。それは瀬戸内国際芸術祭の作品においても例外ではなかった。
Midjourneyで作成
永井ナウアーの孫ピーターは、事故により昏睡状態に陥ることになった。2043年の瀬戸芸はメタバースでの開催となった。香川大学創造工学部が収集した瀬戸芸の作品のデータをもとに香川大学と永井は四か月という短い期間でメタバースでの作品の展示に成功した。
2043年の瀬戸芸は成功、世界中に大きな反響を呼んだ。次の2046年度では現実世界での再現を目指した。
永井らは収集したデータをロボットに読み込ませ、現実世界に存在する物体として復元することに成功した。この技術を応用した新たな作品制作を瀬戸芸の実行委員から依頼されたが作業は難航していた。
同じ頃、AIの研究者である風呂井 一昌は世界中の天才と呼ばれた芸術家や研究者たちの作品や論文のデータを収集し、彼らの思考を持ったAIを作成していた。
永井が物体そのもののデータを収集していたのに対し、風呂井は制作の思考プロセスのデータを収集していた。風呂井の技術に興味を持ち、永井は風呂井に研究協力を依頼した。風呂井は猪熊弦一郎の思考回路を持つAIを制作し、それを搭載したロボット、ノクマンを開発した。ノクマンは永井の収集したデータを参考にして新しい作品を制作するロボットである。ノクマンによる作品で2046年の瀬戸芸への出展を目指した。
ノクマンはとてもクオリティの高い作品を制作するが、ただ綺麗なだけで心に響くような作品は作ることができなかった。それはノクマンの感情が一部欠落していたためだった。ノクマンは弦一郎の思考を受け継いでおり、そのおかげで弦一郎が持つ発想で絵を描くことができるようになっていた。
しかし、感情だけはどうしようもできなかった。
永井は「人の思考回路をロボットに移植するなど、やはり無理だった。」という意見だったが風呂井は「まだ結果を出すのは早い」とこれを否定。
その口論する様子を見たノクマンは、きょとんとしていた。とくに何も感じていないようだ。
Midjourneyで作成
そこで、ノクマンには何か思うことはないか聞いてみた。するとノクマンは言った。
「私は絵を描きたいです。それだけです。」
ノクマンはそう言うとまた絵を描き始めた。
彼は自分がなぜ絵を描くのか分かっていなかった。だがそれが自分のしたいことなのだということだけ理解していた。そしてその感情だけが彼に残っていたものだった。
そんな時永井は、実際に生きている人間の記憶を移植することで、感情ももたせられるのでないか、という考えに至った。永井は昏睡状態の孫の記憶を移植することを、風呂井に秘密で計画し始める。そして、風呂井に気づかれないように秘密裏に孫の記憶をノクマンに移そうとするのであった…
瀬戸芸を勝手に宣伝
今回は、小説にも登場し、瀬戸芸にも作品が展示されている画家「猪熊弦一郎」について紹介！
猪熊弦一郎は、香川県高松市生まれの洋画家です。フランスでアンリ・マティスに学んだのち、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を開館、そして、所有する1000点の作品をすべて丸亀市に寄贈し、その死後から今でも同博物館で展示がなされています。
このように、瀬戸芸の展示は島だけでなく香川県本土の方にもあるので、ぜひ訪れてみてください！
次回予告
次回は、SF作品の小説の後編をお届けしたいと思います！
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