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【医療小説】 島で自信を取り戻した発達障害の女の子  児童精神科医の小説

■学校生活


 ある島に、ワカナさんという女の子がいます。彼女は好奇心旺盛で、いつも笑顔でいるので、島の人気者です。みんなが、
「ワカナさん、おはよう!」
「ワカナちゃん、今日はどこに行くの?」
 と、外を歩けば話しかけてきます。
 そんなワカナさんですが、島に来る前は、みんなと楽しくお話をすることができませんでした。彼女自身が変わったのもありますし、彼女を取り巻く環境が変わったのもあります。
 話はさかのぼって、彼女が幼稚園の頃。幼稚園児だった彼女は、とても活発でした。よく笑う子で、太陽のような子と親からも思われるぐらい。ですが、自己主張が激しいタイプでもあり、自分の思い通りにならない時は、ほかの幼稚園のお友だちとケンカをしてしまうこともありました。
 ですが、まだまだ幼稚園児。ワカナさんのように、ちょっとばかり我儘が過ぎる子だっているものです。だから幼稚園の先生も、両親も、ワカナさんに、
「お友だちの話も聞いてあげてね」
 と優しく諭すように言っていました。するとワカナさんは、不満そうな、不機嫌そうな顔をするのですが、特に反論はせず、そのままどこかに立ち去ってしまいます。謝ってはくれませんでしたが、ケンカはとりあえず収まるので、周りの大人たちは、それで良しとしていたのです。
 ですが、ワカナさんは小学生になっても、同級生とのケンカが続きました。
「どうして、私の言うことが聞けないの!?」
「何でお前の言うことを聞かなきゃいけないんだよ。俺たちは、縄跳びがしたいんだ!」
「いやよ。鬼ごっこをしようよ」
「鬼ごっこなんて、だせぇ」
「なんだって~!?」
 小学1年生。女の子も男の子も関係なく、みんなで休み時間になれば遊びます。けれど、ワカナさんは常に自分がしたいことをしたいタイプ。そのため、他のリーダーシップをとる子とぶつかってしまうのです。そして言い合いになれば、もう止められません。ケンカを売ったのが誰なのか、ケンカを買ったのが誰なのかもわからないぐらいに、殴り合いのケンカになります。
「うわ~ん!」
「私、先生呼んでくる!」
「僕も行く!」
 ワカナさんと男の子がケンカをすると、周りも泣いたり、叫んだり、応援したり、先生を呼びに行ったりと大忙し。そして最後は、先生がワカナさんと、ケンカをしていた男の子の2人を呼び出し、こってり怒って終了。までが、一連の流れです。
 でもワカナさんの場合は、他にも問題があります。それは授業中のこと。今は、国語の授業中です。小学1年生では、ひらがなを覚えるために、同じ文字を何度も繰り返して書かなければいけません。周りの子たちは、懸命に同じ文字を10回ずつ書いていましたが、ワカナさんは同じ文字を書くことに飽きてしまいました。
「なんか面白くないなー」
 ワカナさんは鉛筆を指で回しながら、廊下を見ます。みんなが授業を受けている間、学校の中はどうなっているのでしょうか? 生徒は1年生から6年生まで教室にいます。
 ワカナさんは、だんだんと外が気になり始めてきました。
「外の方が楽しそう!」
 ワカナさんはそう言うと、先生が黒板を見ているすきに、そして他の子たちが文字を書くのに集中しているすきに、教室を飛び出しました。
 廊下に出てみると、休み時間と違って、人が歩いていません。シーンと静まり返っていますが、ところどころ教室からは声が聞こえてきます。今の時間は、運動場で体育をしているクラスもないようで、運動場もがらんとしていました。
「何かワクワクする!」
 ワカナさんは、学校内を歩き回ることにしました。ウロウロとしていたせいで、だんだん自分が何階にいるのかがわからなくなってきた時、階段の方から物音がします。
「なんだろう?」
 そう思って近づいてみると、掃除道具を持った用務員のおじさんがいました。
「おじさん、何しているの?」
「わっ! びっくりした。今は授業中じゃないのかい?」
 用務員のおじさんは、ワカナさんを診て首をかしげます。けれどワカナさんは、自分が先に質問をしたので、自分の質問に答えてもらうまでは、答える気はありません。
「おじさん、何しているの?」
 ワカナさんは、同じ言葉をもう一度繰り返しました。
「おじさんかい? おじさんはね、学校の掃除や電球の点検をしているんだよ」
「掃除と電球の点検? 点検って何?」
「えーっとね、ほら、あそこの天井に電球があるだろ?」
「長い電球だね」
「そうそう。それが壊れてないかとか、電気がつかなくなっていないかとかを確認しているんだ」
「壊れていた李、つかなくなっていたりしたらどうするの?」
「その場合は、電球の交換をするんだよ」
「本当に? でも私、電球の交換をしている所なんて、見たことないよ」
「あぁ、それは、みんなが授業を受けている時とか、学校が終わってから行っているからだよ。電球交換をしている時に、下に誰かがいたら危ないからね」
「ふーん」
 ワカナさんは、じっと電球を見てから、用務員のおじさんをみます。
「ねぇねぇ、ワカナも点検したい!」
「えぇ? 電球の点検なんて、面白くないと思うけどな」
「そんなことないよ! 見たい、見たい!」
「……電球の点検をしたら、次の授業からはちゃんと出るんだよ」
「うん、わかった!」
「じゃあ、一緒に行こうか」
「やったー!」
 ワカナさんは喜んで用務員のおじさんについていきましたが、もちろん、この後担任の先生に再び怒られたことは言うまでもありません。ですが、ワカナさんは自分の気持ちに忠実なので、これ以降、度々教室を抜け出しては、用務員のおじさんと電球の点検をしたのでした。

■クラスメイト

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