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私は母校である金沢医科大学で医学生と研修医時代の8年間を過ごしました。金沢市は戦災にあっていないことから、昔の城下町の町並みが多く残り伝統芸能も盛んです。海も山もあるし、とくに海の幸がおいしい。東京で後期研修をし、横浜で生活していると、金沢で味わった、カニやブリの美味しさには敵わないことを思い知るのです。

東京で診療をしていると時折、「金沢出身です」というスタッフがいます。金沢医科大学出身としては、やはり気になるものです。
「へー。金沢のどこなの?」
「金沢工大の近くです」
「あー。じゃあ金沢じゃなくて野々市市だね」と言うと、むっとされます。私も金沢医科大学出身と言っていますが、大学がある場所は金沢駅から車で30分ほどかかるため、金沢駅近くではなく、実際には内灘町に大学はあります。そのため、「先生も金沢じゃないじゃん」と言われるとカチンときます。私だって同じように言っているのに、相手に言われると思うところがあります。別に自分を大きく見せようとしているわけではないのですが、内灘町だって金沢です。それなのに、内灘町が金沢じゃないと言われると嫌なものです。お互いにイライラしながら、その話は切り上げました。

さて話は変わりますが、石川県には金沢医科大学と金沢大学と医学部が2つあり、10万人当たりの医師数が284人で全国12位と言われています。

じゃあ医師不足ではないのですね、というとそうではありません。日本では地域によって限界集落などが話題に上がるように、医師も都市部に集中しているため、過疎地域ではドラマ「Dr.コト―診療所」のように高度医療が受けられない可能性があります。だから医師不足がある地域には、腕のいい素晴らしい医師が派遣されるのか、それともそのような地域だから腕のいい素晴らしい医師が生まれるのか。それはわかりません。ただ石川県では、大学病院や総合病院から転送されてくる小児患者は、素晴らしい初期治療が行われてから転送されてくることがほとんどでした。

私が非常勤勤務していた病院にも、「子どもが海で遊んでいたら気づいたら海に沈んで息をしていなかった」といった子どもや、朝に起きたら赤ちゃんが息をしていなかったといった場合でも、救急車ではなく自家用車で両親によって担ぎこまれて来ることがあります。そんな時に、適切な初期治療ができなければ、子どもたちを救えないといったことが起きるのです。心肺停止状態の子どもに初期治療を行い、1時間もしくはそれ以上の時間をかけて更なる高度医療ができる大学病院へと転送する。これができなければ、過疎地域の医師としてふさわしくありません。ですので、過疎地域の医師はのんびりしているどころか研ぎ澄まされていくわけです。自分が背負っているものが、どれだけのものなのかということを理解しているからこそ、その責任を持って患者さんを診ているのですから。責任感が強い人ほど、過疎地域の医師にふさわしいと言えるでしょう。

ただ、石川県では「だら~」という言葉があります。どういう意味だと思いますか?
私は研修医時代、麻酔科をローテートしているときに、仲良くさせていただいている先輩が、教授回診で教授に「だら~」と怒られているのを見ました。私は先輩がぶん殴られるかもしれないと思って、教授と先輩の間に身体をいれて先輩を守ったことがあります。それだけ、この石川弁の「だら~」は怖いんです。

ちなみに「だら~」とは「アホ」とか「間抜け」という意味です。金沢を離れてから、もう何十年も経っていますが、未だに「だら~」という言葉を聞くと、過剰反応してしまいます。怒られることの多かった学生時代や研修医時代を過ごした場所だからこそ、余計にその言葉が怖くなっているんだと思います。「だら~」という言葉がなければ、金沢にはいい思い出しかないんですけどね。ままならないものです。

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