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【医療コラム】医学生と短大生の彼女との結婚

■男性の役割と女性の役割

私の生活の質を上げた「医師のライフハック術」は彼女との結婚です。Jennifer Ervinらの家事や育児、介護などの無給労働に関する2023年のコホート研究では、男女ともに家事の負担がメンタルヘルスに悪影響をすることが明らかになっています。

(参照:Jennifer Ervin,Yamna Taouk,Belinda Hewitt,et.al.The association between unpaid labour and mental health in working-age adults in Australia from 2002 to 2020: a longitudinal population-based cohort study.Lancet Public Health.2023;8:e276-e285. doi: 10.1016/S2468-2667(23)00030-0.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36965982/)


今の時代に、男性が外で仕事をする、女性が家で家事をするのが当たり前と言いたいわけではありません。人には向き不向きがあるからです。私の母校である地方医科大学は、ほぼ全員が親元を離れて1人暮らしで医学生時代を過ごしています。食事は外食にして、洗濯はコインランドリーかクリーニング店に任せる。掃除はハウスキーパーに……なんて暮らしをしていた医学生は1人もいませんでした。私も当然、医学生そして研修医時代、1人で家事をすべてやっていました。


■苦手な家事があると、こんなに辛いことはない

大学の講義や仕事が終わって、自宅に帰る。1人だったら食事も簡単に済ませたいので、コンビニ飯にしたり、インスタントや冷凍食品を選ぶことがほとんどです。ですが、そんなことしていたら健康にも悪いし、お金もあっという間になくなってしまいます。


幸い、私は買い物と料理は好きでした。両親からも「食事はしっかりしないとだめだ」と育てられたからでしょうか。閉店間際のスーパーに行って、値札シールの貼られた食材を買って、そこから料理を創作するのが好きでした。豚の角煮やサバの味噌煮を作ることもありましたし、食材が余れば冷凍にして、別の日に食べる。ご飯だけは、毎朝炊いていましたし、食べきれなかった分は冷凍し、別のタイミングで解凍して食べていました。


こういったことは、特に苦にはなっていませんでしたし、それが当たり前のことだと思えば壁でした。しかし……洗濯だけは別です。洗濯と言っても洗濯機がやってくれるのですが、洗い終わったものを干す。そして、取り込んで畳んでタンスに入れる。時には、アイロンをかける……この終わりのない作業が苦痛でした。


しかし、私はきっちりしているのが好きなので、この作業は避けられません。いっそ、ずぼらな性格であればよかったのに……と思うこともありました。とくに研修医のときには、夜にカンファレンスがあれば、家に着くのは22時頃です。そこから洗濯機を回し……ということを、帰り道に考えるのは、憂鬱で仕方ありませんでした。気を紛らわそうとしたり、今日じゃなくてもいいのではないかと無理やり思ったりするのですが、どうしてもその日に洗濯をしないといけないこともあり、ため息とともに帰宅したことが何度あったでしょうか。


■彼女のおかげで変わったこと

それが大学6年生になる頃、私は彼女と付き合うようになり、彼女が洗濯を私の代わりにしてくれる日も出てきました。家に帰れば彼女と会える。しかも家のことを彼女がしてくれている。そう考えると、仕事帰りは解放感に包まれるのでした。


家出の家事を考えずに済めば、仕事に集中できます。これこそが私の「医師のライフハック術」です。結婚して主婦をなった奥さんが家事をしてくれなければ、私はてんやわんやです。子どもが4人もいる我が家は、奥さんが実家に里帰り出産をしているときや、遊びに行っているときもあるので、私が家事を担当することもあります。しかしそういう時は、家はとんでもない有様になっていました。


でも、すべての人に結婚が「医師のライフハック術」かと言えば、医局の上司の医師夫婦はそうではないようです。

「あいつさー。全然家事しないわけ。2人とも仕事しているのにさー。ゴミ出しをやっていると言うけれども、ゴミを捨てるだけじゃなくて、ゴミをまとめたり、ペットボトルのラベルはがしたりとかさー。ねぇ、あんたからもあいつに行ってくれない?」

「いや、先輩に家事をしろなんて言えませんよ」

「あー。あいつ仕事できるじゃん。そこがよかったんだけど。これなら、医学生のときに部活と勉強と両立できていた彼と結婚した方がよっぽどよかった」

ノロケかと思えば、本気のダメ出し。関わってもいいことはないので、私はそういう時に口を閉じてだんまりを決めています。


うちの奥さんも口が悪いときもあるのですが、私が言いたくても言えないようなことを代わりに言ってくれるときもあります。

「そんな院長と事務長と上司なんかさ、ぶん殴っちゃえばいいじゃん!」

「できるわけないだろ」

そんな風に否定はするものの、勇ましい奥さんの言葉に私は笑い、心が軽くなるということもよくあります。やはり私にとっては、奥さんの存在自体が医師のライフハックです。

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