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【医師コラム】子ども診療から大人診療へ 医療のトランジション

■15歳の子どもまでしか診ることのできない小児科医の弊害
医師になって何十年と過ぎると、病院も何度か変わっています。今回は、最近の2回の転職についてお話ししたいと思います。

私は小児科医なのですが、小児科医というのは15歳までの子どもを診察する場所と設定されています。てんかんや脳性麻痺などの特殊な病気の場合であっても、16歳になると、これまでの小児科のかかりつけ医ではなく、大人を診察している科に行かなくてはいけません。日本小児科学会でも、小児科が診療する対象年齢を、現在の「中学生まで」から「成人するまで」に引き上げるように働きかけをしていますが、現段階ではできていません。

その部分が、私は苦痛でした。そうした時に、B病院では小児科で診ていた子どもが16歳になっても、同じ小児科で診ることができるような独自のシステムを作っていました。噂では、B病院は小児科に手厚く、地域からも信頼が厚いとされていましたし、私も以前非常勤として勤務していたこともあったので、思い切って勤務場所を変えることにしました。

■思い描いていた病院とは違う実態
ですが転職をしてみると、思っていたところとは全く異なっていました。以前は小児科に手厚かった病院だったのですが、事務長が変わり小児科の規模が縮小されていたのです。また小児科医の常勤医は4人だったのですが、そのうちの2人は定年を過ぎた再任用の嘱託医、そしてもう1人は妊娠中の女医。そのため私は小児科外来を受け付けながら、入院患者に関しては1人で担当をしなくてはいけませんでした。

そんな中、病院の経営が傾きかけているということで、院長と事務長は病院スタッフ全員に人件費削減と収益増加を厳命しました。その考えに合わない医師やスタッフは、自主退職という名の解雇が行われ、人員はどんどん減っていきます。ですが、人を補充しないので、残っている人たちの負担は増えていく一方。あっという間に院内は、ギスギスした雰囲気になってしまったのです。

それは小児科内でも同じです。そんな中で、妊娠中の女医の産休が始まりました。事前にわかっていたことなので、本来であれば経営陣が新しい医師を補充するべきなのですが、人件費削減ということで誰も入れません。そのため再任用の嘱託医の勝手な判断で50代後半の女医を増員しました。それも問題があるのですが、元々は優遇されていた小児科だったため、できたことだったのかもしれません。

ですが、今は違います。近くに小児科クリニックができたことにより、患者数は減り、利益も上げられない科です。他の科からも不平不満が溢れていますし、私は私で動ける小児科医が1人だったので、完全なキャパオーバーを起こしました。満身創痍状態です。

それなのに、小児児科嘱託管理医師とその医師が独断で増員した産休代替の女小児科医が、人目をはばからず勤務時間内に医局で雑談して過ごしている様子がたびたび目撃され、小児科の非難は集中。

私はにっちもさっちも行かなくなり、B病院を退職したのです。

■転職で失敗することもあれば成功することもある
しばらくの間、私は自宅で静養をしていました。ですが、家族がいるので、ずっと静養をしているわけにも行きません。でも、だからと言ってどうしたらいいのか、もう私にはわからなくなっていました。

そんな時、知人の医師が、私をC病院に紹介してくれたのです。C病院も、小児科を手厚く行っているところだというのですが、B病院のことがあるので、本当にそうなのかわかりません。ですが、C病院の院長と面談をしてみると、そんな心配は杞憂だということがわかりました。

実際C病院に勤めてからは、私はようやく私らしく生きることが出来ました。医者として生きる道を示唆してくれる今の職場で、自分の勤務していたB病院の悪徳ぶりは異常だったなと、改めて思います。ですが、実際に働いている時は、全て自分が悪いからこうなっているんだと思っていた部分もあるので、環境に支配されている状態というのはとても怖いものです。

転職は人生の転機です。転職をすることで苦しむこともあれば、幸せになることもあります。そう思うと、やはり簡単には一歩踏み出しづらいものです。ですが、今いる場所が苦しいのであれば、それは自分が壊れてしまう前に一歩踏み出してみる方がいいのではないかと思います。転職した先で、私のように自分らしく生きることができるようになる可能性もあるのですから。

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