【医療コラム】 当直前はまるで子どもの頃の遠足前
■医師の当直のお楽しみ
私の当直の思い出は当直の合間の休憩室。医師、看護師、そしてスタッフが集いダベる。その時間が好きです。当直予定表でメンバーを確認して、前日には子どもの頃の遠足前ぐらい寝られない。それぐらいその時間を楽しみにしていても、外来の混み具合によっては、当直メンバーで話ができる時間が少なくなることがほとんど。ですが、私が勤務していた病院では、なんだかんだ言っても23時にはある程度、休憩がとれていました。
みんなで揃って、休憩室で食事する時間は楽しかったですし、その時間が始まる前に当直メンバーを思い浮かべて、これなら喜びそうだなってものを買ってきたり、作ったりシェアしたり。当直前も、当直の時も楽しく過ごせます。そうそう、「こんなのふつう買わないよね?」と言って、「えびアボカド味」なんてフレーバーのポテトチップスを買ってくる人もいました。私は1型糖尿病ですので、栄養バランスを考えて、よく電子レンジ用のキッチングッズを持ってきて、パスタときのこにパスタソースをかけてかんたんな料理をしていました。
そんな思い出の中でも、私はなかなか味わえない、すいかの種を炒ったものや、大根とか人参の皮のきんぴらとか、かぼちゃの皮のパリパリ焼きを差し入れしてくれる人がいて、それが好きでした。余ったらタッパーに入れて家に持ち帰り、奥さんと食べることもありました。
また私は血圧が高いので、家では大好物の塩辛は禁止されていましたが、ここではこそこそ食べていたこともあります。奥さんには絶対秘密ですが……。
■いろんな話をごちゃまぜにする楽しさ
人が美味しそうに食べているのを見ると、その幸せを一緒に共有したいと思うものです。そうこうしていると、病棟から看護師が患者さんのことで相談に来たり、医事課職員も救急患者の受け入れ相談などで来ます。食事が終われば、おやつをつまみながら、TVでクイズ番組見たり、ドラマを見たり、あとはとにかくダベるだけ。
恋バナだったり、家庭の愚痴だったり。みんなが新しい話を、ぶっこんで来るのでみんなで面白く聞いています。
「うちはB型が旦那なんでさ。ほんとB型ってさー」とか、「私なんて、生まれてすぐの検査でO型って出てたのに、看護学校の実習で調べたらAB型だったのよー」とか。ある看護師が、看護師になるまで彼氏もいなくて、ずっと1人でいたから、これからもずっと1人で生きていくんだと思っていたけれども、旦那に口説かれて結婚して、「私」が結婚すると「私たち夫婦」になり、子どもができると「私たち家族」になるのよ。家族でいると相手を否定するのではなく、自分が幸せになるには隣にいる人も幸せにならなければならない。それが人として成長すると言うことなのよー。なんて言いながら、でもね。やっぱり、相手が浮気したら離婚するよねー。なんてスタッフの離婚発表があったり。オチがいいですね。
■当直前は子どもの遠足前のように楽しくなる理由
色々話しあえると、分かり合えるし。分かり合えたら、支え合おうと思うものだと思います。私もみんなも今では勤務先は変わりました。でも。休憩室にはまた来てね。来る理由なんてなくてもいいから。なんて言っていたので、プライベートでもそれぞれ会うことがあります。会うとお互いに年を取っていても、あの頃を思い出すもの。それも含めていい思い出です。
こういう時間を過ごせた当直は、私の人生で大事だったと今でも思います。ただ、当直の休憩室の雰囲気は、日によっても変わるのです。例えば私はゲームをしないので、それを知っていたみんなは、私がいる時にはゲームをしないように気を遣っていたりとか。何かが苦手な人が当直メンバーにいれば、それを避けるようにする。そんな気遣いもあっての居心地のいい休憩室だったのだと思います。
私がゲームのことを知ったのは、こんなことがあったからです。外病院から初めて当直に来た先生に、日勤の私が申し送りをしていた時のこと。
「先生の病院は当直のとき、ニンテンドーDS持ってこないといけないんですよね?」
「え? そうなの?」
「あっ。すみません。前任者からはそう聞いています」
「そうなんだ(知らなかった)」
なんて言うことがあったからです。この話は、当直の時にみんなに話そうと思ったので、その場では誰にも言いませんでした。だから、当直の前日は子どもの頃の遠足の前日みたいに興奮してしまうのです。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?