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ライトノベルの賞に応募する(20)

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 3人にお風呂に入るように促された。使った食器を洗おうとしたら、それも止められた。「明日から一緒にしましょう。今日はもう夜遅いから、こっちで洗って置く」と言われた。
2階の部屋に戻ると、高梨さんがミワのベットに寄り添うように、床に腰を下ろしていた。
「よく眠ってるよ。」
小さな声でそう言った。
「交代するね。」
パジャマと下着とバスタオルを僕に渡し、荒井さんが言った。
高梨さんが「じゃあ、お風呂に行こう。」と立ち上がって、部屋を出たので、後に続いた。お風呂の前にトイレに行った。トイレの前で高梨さんが待ち構えていたのでびっくりしてしまった。高梨さんが脱衣所まで入ってくる。
「ごめんね。でも決まりだから、身体を見せてくれるかな?」
「僕は、暴力なんて振るわれてません!」
「わかってる。信じてるよ。でも決まりだから…。」
僕は服を脱ぐのをためらった。
「本当に失礼だと思う。女性に見られるのは嫌だと思うから、僕がするんだ。申し訳ないけど、決まりだから、身体を見せて欲しい。」
僕は根負けして、上半身裸になった。傷なんてあるわけないのに。
「ありがとう、下もいいかな?」
「えっ? 全部ですか?」
「うん。申し訳ないけど、決まりだから…。」
僕はすごく嫌な気分になった。犯罪者にでもなった気分だった。
いつまでも高梨さんが動かないので、ズボンとパンツを一度におろした。高梨さんがしゃがんで、自分の前で裸になった僕を1回転させた。足の先から頭までじっとりと見られ、すごく嫌な気分になった。
「これはどうしたのかな?」
膝の裏と、ひじの裏を指摘された。
「僕、アトピーがあるんです。そんなに酷いわけじゃないけど、いつもすこし赤かったり黒かったりします。」
「耳の下が切れてるのもそうかな?」
「はい。」
「わかった。ありがとう。疑ってごめんね。確かに君の身体に傷はなかった。ゆっくりお風呂に入っておいで。」
そう言うと高梨さんは脱衣所からやっと出て行ってくれた。
お風呂場は、僕の家のお風呂より少し大きいくらいの普通のお風呂だった。僕は頭と体の順に、いつもの通り洗っていった。体を洗うタオルがないので、仕方なくボディソープを直接手でこすりつけた。泡を流して湯舟に浸かる。
ここの人たちは優しいけど、みんな目の奥が笑っていない。なにか別のことを考えてる。そう思った。信用していいものか、考えなければいけない。頭の奥で警鐘がなっている気がした。直感が何かを僕に知らせようとしている。いくら考えても、頭の中がまとまらなかった。僕は立ち上がってお風呂を出た。

お風呂から上がって2階の部屋に戻ると、床に座っていた荒井さんが振り向いた。2階には同じような扉がいくつも並んでいて、どの扉かわからなくなりそうだったが、一つだけほんの少し扉が開いていて、そこがミワの寝ている部屋だった。
「お風呂ゆっくりできた?」
「…。お湯を流していいのかわからなかったので、そのままにしてあります。」
「本当に、シュウ君はしっかりしてるのね…。」
「…いえ。」
ミワの脱いだ洗濯物が畳んで足元に置かれている。
「今日着ていたお洋服預かるわ。」
「…。いいです。」
「? 洗濯してちゃんと返すわよ?」
「だから、いいですって!」
そう言うと、ミワの洗濯物も拾い上げた。
荒井さんが驚いた表情をしている。
「何かあった?」
「いえ…。何も…。」
「…そう。」
心を開いてはいけない、そう思った。
「じゃあ、シュウ君もゆっくり寝てね。」
頭をポンポンと2回軽く叩かれた。馬鹿にされてるみたいで、すごく不快だった。
「明日、朝起こさないから…。今日は疲れただろうから、ゆっくり寝てちょうだい?」
「はい。」
僕は荒井さんと目を合わさず、ミワの隣のベッドに向かった。
「いつも何時頃寝てるの?」
「…12時すぎです。6時には起きます。」
「そうなのね。もう2時よ?」
「えっ?」
そう言うと、荒井さんは学習机の上にあった小さな時計に目線を移した。
時計は2時15分すぎていた。そんなに遅かったのか…。でも眠れない気がした。
「電気はいつもどうしているの?」
「…豆電球だけつけます。」
「じゃあそうしていくわね。」
そう言うと立ち上がって、リモコンを操作して、豆電球に明かりを落とした。
「とにかく今日はゆっくり休んでね。」
そう言うと、ドアをぱたんと優しく閉じて、荒井さんは出て行った。僕は抱えていた洗濯物をどこに置いていいかわからず、自分のベットの上に置いた。
後ろを振り返ると、ミワがいつものように両手を祈るみたいにして顔の下にひき、静かに寝息を立てている。僕はしゃがんでミワの輪郭にそって、優しく顔を撫でた。
ミワは僕が守らなくちゃいけない。そう思った。

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