親父と姉のバージンロード ~おかしな2人と神父~
《この話は、登場人物の名前のみ「仮名」として脚色しているが、その他の部分は実話である》
親父と姉がバージンロードを歩くと聞いたとき、正直、「えっ?マジかよ?ほかの組み合わせないのか?」と思った。
私には姉がいる。
昔は顔が似ているとよく言われた。
性格は私と全く似ていない、、、と私は思っているし、向こうも思っていることだろう。
私の親父は、ホントによく喋る男であり、その上、カッとしやすく、感情の起伏が激しい人物だ。
、、、それでいて、少し外面がいい。
私の母は、大人しい人で、激怒したり、声を荒げたりしたのを見たことがない。
姉は、親父に似ていて、1年中喋り倒している。
感情の起伏も激しく、よく笑い、よく怒り、よく泣き、親父譲りの人情派だったりもする。
、、、それでいて、少し外面がいい。
テレビのお笑い芸人は、普段は大人しいとか聞くが、私は姉を見るたび「ホントに普段から宿命に基づき喋り続ける人」というのがこの世に存在するのだと感心する。
私は母に似ていて、基本的に大人しく、そして頑固である。
母に似ているので、あまり感情を爆発させるタイプではないが、親父の血が入っているため、たまに感情的になったりすることがある。
さて、親父と姉がたまに揃うと、どんちゃん騒ぎになったり、激しい喧嘩が勃発したりする(母と私が喧嘩になることは、ほとんどない)
シリアスとかロマンティックとかセンチメンタルとか、そういった言葉がホントに似合わず、1年中「赤提灯でハシゴ酒」みたいな性格の人たちである。
だから、姉の結婚式で「そんな2人」がバージンロードを歩くと聞いたとき、「できれば、ほかの組み合わせがいいのでは?」という言葉が喉を通り越し、前歯の裏側あたりまで出掛かった。
だが、親父はまだしも、姉は別の人に替わってもらう訳にもいかない。
「まあ、好きにすれば」とは思ったものの、多くの人がお祝いに来られるので、せめて喧嘩はしないように、、、と願った。
さて!
話は結婚式の当日まで飛ぶ。
式も卒なく進み、外国人の神父さんが参列者に日本語で語り掛ける。
日本に長く住まれているのだろう。
日本語も上手である。
そして、いよいよ司会者によるアナウンスが始まった。
「皆様大変お待たせいたしました。間もなくチャペル後方より新婦アキコさんが、花嫁の父、サトウミチオ様のエスコートで入場されます。ドアが開きましたら盛大な拍手をお願いいたします」
ドキドキ、、、
開かれる式場の扉!
、、、私の心配とは裏腹に、「シリアスの似合わない2人」は、何とも厳かな表情で、凛としてバージンロードを歩き、見守る一同からの盛大な拍手と祝福を受けた。
母も私も大いに感動し、、、「歩く2人」にそっくりの私の叔母が、、、私の隣で感情むき出しで泣きじゃくっていた。
そんな私も感極まって、心の中で祝福の言葉を送った。
「やれば、できるじゃねーか」
さてさて、バージンロード、指輪の交換、誓いなどをこなし、結婚披露宴へと突入した後は、姉はいつもの姉に戻った。
「祝福に駆け付けてくれた友人の誰よりも喋りまくる新婦」に母は呆れていた。。。
とにもかくにも、いい式だったようで何よりである。
さて、式が終わって数日後、ふと「シリアスにほど遠い2人」が、バージンロードを歩く直前、式場の外でどのような会話をしていたのか、少し気になった。
あの2人も感極まって、「お父さん、これまで我がままばかりだったけど、パパが一番のヒーローだニャン!」とか「おお愛しのプリンセス。お前はわしの宝物じゃ、、、」とか、気持ち悪いやり取りをしていたのだろうか?
(あー楽しい)
私の感動が冷めてしまわぬうちに、その「バージンロード直前の2人の会話」について、姉に尋ねてみたが、、、意外にも姉は少しㇺッとした表情になった。
以下は、姉から聞いた「バージンロードを歩く2人が式場に入る直前」のやり取りである。
(入場直前の2人。扉の前にて)
親父 「いや、何か緊張するな」
姉 「ホントだよね。でも、ちゃんとやらなきゃね」
そのとき、閉じられた扉の隙間から「式場の中の神父様の声」が聞こえてきた。
神父「サテ、ミナさま、ホンジツハ、シンプのゴシンゾクのサトウさんと、、、」
親父「おいおい、ちょっと待て。今、あの神父さん、オレらのことサトウさんて、言ったよな?「ト」にアクセント置いたよな」
姉「えっ? あーそうだったね。あんまり気にしてなかった」
親父 「いやいや、気にしろよ。お前は違う苗字になるかもしれんけど、オレはこれまでの人生、ずっとサトウさんでやってきてんだよ。「サ」にアクセント置かないと、別人みたいになるだろ」
姉 「まあ、そうだけどさ。今は、もうちょっと集中した方がいいかも」
親父 「そもそも、サトウさんで「ト」にアクセント置いたら、何か「お父さん」みたいで、「サトウさんのお父さん」って紛らわしいだろ」
姉 「いや、だから、神父さんも外国人だし、今はアクセントがどうのこうの言ってる場合じゃないでしょ!」
親父 「お前は、そういうとこ無頓着だよな。そう言えば、アクセントで思い出したけど、お前、いつぞやのラジオ放送のとき、『古事記』のこと「乞食」みたいに言ってたよな?」
そう、姉は当時、ラジオのキャスター(パーソナリティー)のような仕事をしていたのである。
親父 「あれは、どう考えてもコジキで「コ」にアクセントだろ。コジキで「ジキ」にアクセント置いたら、お前、物乞いみたいになんだろ」
姉 「いや、その話だったら、私も言いたいけど、あれは私は最初は「コ」にアクセントだと思ったの! 念のため、アナウンス部の一番偉い人に聞いたら、「ジキ」アクセントだって言うから、しょうがなく、物乞いみたいだなーと思いながら、「コジキ」って言ったの!」
親父「偉い人が言ったからって、お前、日本最古の歴史書を物乞いみたいに言って、おかしいとか思うだろ、普通。コジキはねーだろ。物乞いだぞ! その偉い人と『古事記』とどっちが偉いと思ってんだよ」
姉 「ちょっと、今その話する?それ、すんごい気にしてるんだけど!あの後、キャスターの先輩から電話かかってきて、『うん、あれはやっぱり古事記で「コ」にアクセントかな。でも、あんまり気にしないで』みたいなこと言われて、すんごい気にしてるんで・す・け・ど!!」
親父 「お前はそういうところが、、、」
姉 「じゃあ、お父さんだって、、、」
そこでアナウンス。
「皆様大変お待たせいたしました。間もなくチャペル後方より新婦アキコさんが、花嫁の父、サトウミチオ様のエスコートで入場されます。ドアが開きましたら盛大な拍手をお願いいたします」
外面のいい2人は、何事もなかったように、サッ!と仲良く腕を組んで、式場に入っていった。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
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