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#19:極悪女王

イントロ

Netflixで『極悪女王』を見た。話題作で、リリースされて2週連続で日本のトップとなっているらしい。

本当に面白くて、見終わって数日経った今でも興奮が絶えない。この感想を複数の観点から書こうと思う。

※以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください。

各観点からの感想

キャスティングについて

決して芸能人に詳しいわけではないのだが、キャスティングがとても良かったと思う。ゆりやんレトリィバァさん、唐田えりかさん、剛力彩芽さんが主な役どころを演じていたが、良かったと思えるのはその熱演ぶりだけではない。

3人とも、何かとインターネットや週刊誌でネタにされることの多い人物だったと思う。ゆりやんレトリィバァさんは万人受けするお笑いスタイルではないし、唐田えりかさんは不倫で大バッシングを受けた(不倫のニュース自体は僕も非常に不快だった)、剛力彩芽さんも恋愛事情などノイズの多い状況だったように思える。

一方、作中のダンプ松本と長与千種は、もともとプロレスの同期生の中でも落ちこぼれ、ライオネス飛鳥は身体能力の高さはありつつも「自分の描くプロレス像」のこだわりが強く、商業的な成功を単独で収めることが疑わしいように描かれた。(現実でもそうだったのかは知らない)

そんなキャラクターが全力で成功を勝ち取りに行く、ということが、演じた俳優たちが現実で置かれた状況とリンクしたように感じた。そして見ている間はそんなバックグラウンドは感じさせないほどの素晴らしい演技で、それも奮い立たされる要因だったと感じる。

男のプライドについて

作中に登場する男性は、おおよそがプライドにまみれていた。弱い自分を隠すために酒に溺れる五郎(ダンプ松本の父)、全女の経営者である松永三兄弟。

彼らは暴力や金を用いて、周囲の女性を思い通りに操作した。五郎は家族に暴力をふるっていた。女子プロレスラーによる「都合が悪くなったら捨てられる」というセリフにも松永三兄弟の振る舞いがどう取られていたかが表れているし、実際に松永三兄弟が言うことを聞かせるために暴力をふるうシーンも描かれた。

五郎に対してはダンプ松本自身が、松永三兄弟に対しては各女子プロレスラーが最終的に鉄槌を下すことになるのだが、その爽快感たるや。男/女、という枠組みになってはいるが、弱者の立場に置かれたものが、その信念をもって最終的に強者に立ち向かう、という描かれ方だったように見える。

最初から強かったわけではないし、強くなったとしても結局は会社にいいように使われるという「立場上の弱さ」がある中で、腐らずに信念を持ち続けた女子プロレスラー達。一人ひとりの描かれ方が、どの人をとっても励まされるような、そんな気持ちだった。

金を稼ぐのが偉いのか、実力があるのが偉いのか

この対立項も『極悪女王』で描かれていたように見える。「金を稼ぐ」として描かれたのがダンプ松本、長与千種、「実力があるが金を稼げない」と描かれたのがライオネス飛鳥、ジャガー横田、だった。

最終的には「55年組のプロレスを見せてやろうぜ!」とブック破りのチーム戦をすること(詳しい言葉遣いは分からない)がフィナーレとなるのだが、これは「自分の信念を持ったものたちが本気でぶつかり合うところに価値がある」メッセージのように思えた。

「金を稼ぐ」ことも「実力がある」ことも、本来は対立項なのではなく、それ自体がまずは素晴らしいことで、自分の信念を貫いた先に輝けるということ。信念自体に正しさ/誤りをつけるものではないということが描かれたように見える。

結論

『極悪女王』を見ると爽快感があるのだが、それは激しいプロレスシーンだけではなくて、上に書いたようなことが見る側にしっかり伝わるからではないかと思った。

僕自身は80年代の女子プロレス最盛期を知らないから、懐古趣味的な楽しみはできない。それでも見ていてすごくおもしろくて、それでいて奮い立たせられるような気持ちになれたのは、不条理とも思える日々の現実(主に仕事)があるからだろう。

また、『極悪女王』のインタビュー記事や動画を見る中で、俳優たちが「プロレスも演技も、相手がいないとできない」と言っていたこともとても印象的だった。僕の生活も、仕事も、そうなのだろう。自分以外の者たちがいてくれるおかげで、僕がある。そのことも大切に思うべきなのだ。

余韻に残る作品をありがとうございました。

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