絵本と音楽と映画のプレイリスト 04:旅
音楽/
椎名林檎 - JL005便で ~Flight JL005~
(B747-246 Mix by Yoshinori Sunahara)
細野晴臣 - はらいそ
https://youtu.be/d7gXDyeWwcI
小沢健二 - ぼくらが旅に出る理由
https://youtu.be/YR_2jMtBD6w
Official髭男dism - Laughter
https://youtu.be/kff_DXor7jc
旅の世界へようこそ…………。
海外をこれまで旅した順に並べると、台北(台湾) → パリ(フランス) → イスタンブール(トルコ) → ニューヨーク(アメリカ) → バンコク(タイ)。ぼくにとって「旅」とは、それまで持っていた価値観が足元から揺らぐような体験にほかならない。そして、それはやはり海外旅行につきると思う。
特に2004年に夫婦で訪れたイスタンブール。現地とその道中も含む、五感のすべてを刺激する強烈な旅の記憶を、いまだに忘れることができない。
トランジットのシンガポール空港までは日本人観光客の姿も多かったのに、目的地に近付くにつれてターバンを巻いた人々にすっかり囲まれていたことに気付いた時の、あの心細さと恐怖感。
トルコに向かう飛行機の窓から見下ろす砂上のモスクと住宅群(そこにも生活があった)。
イスタンブールのバザールでひとり道に迷った時、ふいに目に飛び込んできた色とりどりの布地の山。
マッサージのサービスがある公衆浴場のハマムでマッサージをせずに出ていこうとするぼくに、「まだ終わってないよ!」(←想像)と声をかける子どもの甲高い声。
スパイスバザールの鼻をつく香辛料の匂い。
タクシーのラジオから流れてくる、最新のトルキスタンポップス。
モスクの天井の鮮やかな色彩。
街じゅうを支配する猫、猫、猫……。
2004年のイスタンブールメモ
https://paragraph.jp/2016/08/istambul-memo-2004/
旅が、今の仕事にどう役立っているかはわからない。ただひとつ、それまで知らなかった場所に異なる人種の人々が暮らす様子を目の当たりにして、(現代のある部分を支配している)偏った物の見方から自由になれたのは、人として大きかったと思う。
できれば子どもたちにも、海外への旅を通して、未知の世界に包まれる、あの取り返しのつかない体験を味わってほしい。……と願いつつも、わが家も娘が生まれてから一度も海外旅行に行けていない。不況と円安、災害、コロナ禍の影響により、世界を自由に旅することは、今はなかなか難しい。でもそんなときこそ想像の翼を広げて、絵本の世界を好きなだけ旅してほしいと思う。いつかやってくるかもしれない、次の旅への機会に備えて。
絵本/
でんしゃにのったよ
岡本雄司/作・絵
福音館書店 (2013) 3歳から/小学低学年から
田舎のローカル線からJRの在来線へ、そこから新幹線に乗り換えて東京へ行くまでの電車の旅が、シンプルな線と構図で描かれている。小さい頃は、次々と移り変わる知らない町の風景を窓から見て、思わず胸がときめいたものだった。鉄道好きの子どもにもおすすめしたい絵本。
シェルパのポルパ エベレストにのぼる
石川直樹/文 梨木 羊/絵
岩波書店 (2020)
シェルパは、エベレスト南麓に住むネパールの少数民族で、ヒマラヤに挑戦する登山隊を道案内や荷物運びなどでサポートする。シェルパの友人を多く持つ探検家・写真家の石川直樹さんが、彼らを題材に作った絵本「シェルパのポルパ」シリーズの一冊。
ヒマラヤ登山に憧れるシェルパの少年ポルパが、テンジンおじさんに登山の基礎を教わって、初めてエベレスト登山隊に同行する。一歩足を踏み外せば下まで落ちてしまう氷河や、きびしい吹雪を乗り越えながら、ポルパ(と作者の石川さん)と一緒にエベレスト山頂を目指しているようなスリルが味わえる。絵は緻密でありながら、ほのぼのとした親しみを感じさせる。同じシリーズの『火星の山にのぼる』も面白い。
ぼくのたび
みやこしあきこ/作・絵
ブロンズ新社 (2015)
小さなホテルを経営する主人公の「ぼく」。ホテルには毎日、世界各地からいろんな宿泊客が訪れる。お客さんが話してくれる知らない国の話を聞きながら、「ぼく」はいつかこの小さな町を出て、遠くを自由に旅してみたいと夢みる。
全編リトグラフの技法で描かれた絵がとても美しく、旅への思いをかき立ててくれる。
わゴムは どのくらい のびるかしら?
マイク・サーラー/文 ジェリー・ジョイナー/絵 岸田衿子/訳
ほるぷ出版 (1978) 2・3歳から
わゴムがどのくらいのびるか試してみたくなったぼうやは、ベッドの枠に輪ゴムをひっかけて、部屋の外に出てみることにした。自転車にのって、バスにのり、きしゃで飛行場へ。わゴムは海を越え、砂漠を越えて、どんどんどんどん遠くまでのびていく……。
アメリカの有名なデザインスタジオ「プッシュ・ピン・スタジオ」出身のデザイナー&イラストレーターが描く、グラフィカルな絵のおかげで、ページを次々とめくりたくなる。
ヨハンナの電車のたび
カトリーン・シェーラー/作・絵 松永美穂/訳
西村書店 (2014)
主人公のヨハンナが白紙のページに描く、電車の絵。だれが電車の座席にすわっていて、乗客はどんな服を着ているのか。電車はどこへ向かい、これからどんな出来事が待ち受けているのか。それは、絵本が進むにつれてペンを動かす、ヨハンナだけが知っている。
ちょっと変わった「旅」の絵本。途中にはしかけのページも。先行きが予想できないことは、旅の魅力でもある。
白い馬
東山魁夷/絵 松本 猛/文・構成
講談社 (2012)
画家・東山魁夷がドイツ〜オーストリアへの旅で描いた絵を含む約20点に、幻想的な物語を添えた絵本。美しい絵が横型のページに大きくレイアウトされた作品集としても、とても見応えがある。
魁夷の作品では有名な「白い馬」が、主人公の「ぼく」を世界中のいろんな場所へと連れて行くお話を、ちひろ美術館の設立にも携わった絵本・美術評論家の松本猛が手がけている。
世界はこんなに美しい
アンヌとバイクの20,000キロ
エイミー・ノヴェスキー/文 ジュリー・モースタッド/絵 横山和江/訳
工学図書 (2022) 7・8歳から
フランスの女性ジャーナリスト、アンヌ=フランス・ドートヴィルが、1973年、バイクによる単独世界一周を成し遂げた話をモチーフにした絵本。
アンヌは故郷のパリを出発して、キャンプをしながらいろんな国をめぐり、旅先で出会う人々や子どもたちの好奇の眼差しと優しさに触れ、美しい景色を視界いっぱいに見ながら、ひたすらバイクを西へ走らせる。訪れた町は、戦争など様々な理由により今では見られなくなってしまったところも多い。しかし、アンヌが見た世界がこうして絵本の形になることで、いつか子どもたちの心を大きく揺り動かすかもしれない。
今回「旅」というテーマでいちばん紹介したかった絵本。作者によるあとがきの結末に書かれた言葉は、今回のぼくのこのテキストを通して伝えたかったこととも重なっている。
──世界はこんなに美しい アンヌとバイクの20,000キロ|山烋のえほん
他にも……
(今回、手にとって読んだ絵本)
MAPS(マップス) 新・世界図絵
アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ/作・絵
徳間書店児童書編集部/訳 徳間書店
たまこおばあちゃん たびにでる
ませぎりえこ/作・絵 偕成社
エマのたび
クレール・フロッサール /作・絵 エティエンヌ・フロッサール/写真
木坂 涼/訳 福音館書店
旅の絵本 Ⅳ
安野光雅/作・絵 福音館書店
映画/
2001年宇宙の旅
スタンリー・キューブリック/監督 (1968、アメリカ)
旅についての映画がたくさんある中で、今回は1968年制作の、人類未踏の壮大な宇宙への旅を描いたこの作品を選んだ。ちなみに、初めて見た時は全く理解できなかった。
数百万年前、類人猿を人類へと進化させた謎の物体「モノリス」が、開発中の月面基地で再び発見された。発見者の一人であるボーマン博士は科学者たちとともに、モノリスの電波が指し示す木星へと向かった。そこで彼を待ち受けていたものは……。
重力に反して宇宙船内を歩くキャビンアテンダント、宇宙食、地球と宇宙をつなぐテレビ電話、コンピュータのUIなど、1968年の時点で想像される先進的な未来に今もなおワクワクさせられる。人工知能(AI)HALの "反抗" など、旅につきものの「取り返しがつかない」怖い展開もある。
2018年に4Kリマスター/IMAX化されて各配信サイトでも見られるようになった。もう一度ちゃんと映画館で見てみたい。
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