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Dark Chocolate

昔、よく冷蔵庫に母が買ってきた高カカオのそれが入っていた。

私は冷蔵庫からそっとそれを取り、匂いを嗅ぎ、パキッと一欠片を割った。

そして苦いダークチョコレートを口に含み数秒間その香りと味を感じた。

苦い、どうして大人はこんなものが好きなのか。もっと甘いチョコレートがたくさんあるのに。

大人になって思う、あの苦さはきっとあの時にはわからなかった「苦虫を噛み潰した」味なのであると。

悲しさ、苦しさ、辛さ、虚無感、絶望感
それら全てを内包し、甘い食べ物のフリをして、いつもそれらの感情を同化させ、なかったことにしてくれる魔法の食べ物なのだ。

私は大人になる毎にその味が好きになり虜になった。

母が昔、「それは苦いから食べない方がいい、こっちにしなさい」と言って渡してくれたミルクチョコレートには目もくれずに。

こうして私は大人になった。

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