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「イタリア全20州、マンマを訪ねて3000里」第13州:ヴェネト州

「イタリア全20州、マンマを訪ねて3000里」No.13 ヴェネト州

「イタリア全20州、マンマを訪ねて3000里」、第13州はヴェネト州の家庭へ。

今回は、また一段と深い旅でした。

何が深いかというと、マンマの料理の一皿の奥にそれぞれ「Vita(生活・人生)」がありありと存在するからです。

サルサ・ペアラ

例えば「Salsa pearà」。

これはVerona周辺の特有のソース。古くなったパンを擦り、ボリートのブロードと沢山の胡椒を混ぜ、弱火で長い時間をかけて作ります。

ボリートはこれまた、お肉と野菜をひたすら長い時間茹でる。お肉は当然良い部位ではなく、家畜を屠殺する農民が余り物を腸詰にしたコテキーノやリングア(舌)など。

寒い冬、薪ストーブで部屋を暖めながら、ストーブの上の鍋も温める。

子供たちが古くなった1週間分のパンを擦る(パンを買うのは1週間に1回)。

お肉も野菜もホロホロになった頃に、お皿にたっぷりのペアラ・ソースと盛り付けて、日曜日のランチを頂く。

美味しい。長い時間と受け継がれた知恵がなす、優しい家庭の味。みんなが笑顔になる食卓。

こうして心も体も温まるうちに、日曜日の午後が過ぎていく。

そんな情景がここにあるのです。


ルイザおばあちゃんのクレープ・スープ

それから「クレープ・スープ」。

クレープを焼き、タリアテッレのように切り、丁寧に作ったブロードに入れたら完成。滋味深い味わいが身に染みます。

これは、訪ねた家族の父・ピエロのおばあちゃんの料理。1800年代生まれなので100年以上の歴史を持ちます。

ルイザおばあちゃんは、男兄弟4人、女姉妹4人、父と母で合計10人の家族で育ちました。ところが、第一次世界大戦で、父と男兄弟たちは皆、戦争に徴収されてしまいました。残された母と姉妹は、教会に行き「もし我が家の男たちが全員無事に帰還したならば、私たちは結婚しません。どうか、無事に帰してください」と祈り続けました。戦争が終わると、父と兄弟は全員無事に帰ってきました。そこで、女性たちは自分の持つ全ての財産を譲り、当時姉はボローニャに弁護士事務所を構えていましたがそれも全て譲り、教会に入ります。

ところが、ある日、物静かな男性が教会に祈りにきます。夫を戦争で亡くした未亡人と結婚し、彼女の子供たちも我が子のように育てていた矢先、その妻をスペイン風邪で亡くしてしまいます。妻の子供たちがどうか安らかに育ちますように、とお祈りに来ていた時に出会ったのが、当時20歳のエリザでした。二人は恋に落ち、結婚します。そうして生まれたのがピエロのお父さんであり、彼は立派に大理石の事業を作ります。その息子のピエロは今、父から受け継いだ大理石事業の社長として、地元の雄として尽くしています。

そんなピエロのエリザおばあちゃんが、小さい頃に祖母と母から学んでいた料理がこのクレープのスープ。名前もない料理だけれども、幼い彼が大好きだった料理だそう。

滋味深いスープに浮かぶクレープは、家族を何度和ませたことでしょう。


ビゴロット

最後は、ルイザ叔母さんのビゴロット。

この地域の特産のリンゴ、卵、小麦粉、砂糖だけの素朴なタルト。ほんわりと甘さが広がる瞬間は、どこか懐かしさを感じます。

ルイザ叔母さんは、3歳の時に母を亡くし、姉をはじめ親戚みんなの手で育てられましたが、14歳の時に地元にバールを持つ家庭の養子になりました。この養父・養母はルイザを我が子のように大切に育てましたが、地元の貴族の息子と結婚させるつもりでした。しかし、ルイザはこの相手を好きになれず、バスの運転手に恋をします。5年間、バールの2階の窓からバスが通る時間になると下を覗いていました。ある日、友人に彼が自分のバールに来るようしむけ、彼がビリヤードをしに来ると、彼の周りを歩き回り、ついに二人は知り合います。

その後、結婚相手を巡り養父・養母と対立します。泣いているルイザを見た姉の旦那は、自分の家に彼女を住まわせます。20歳になった日、ルイザはついに養父・養母と縁を切り、バスの運転手セルジョと結婚します。貯蓄もなく、暮らし向きは厳しくも、愛に溢れた日々でした。ヴェネト地方の言い伝え「non c’è di cibo, vivono d’amore(食べ物はない。愛で生きている)」という言葉の通りの日々を送りました。子供が生まれ、学校に通うようになった時、材料は質素でも美味しいものをと思って彼女が作っていたのがこのタルト。

ヴェネトらしく、リキュールを効かせて召し上がり下さい。


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