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意外にエモい? 女子学生が芸備線の旅で見つけた映える風景【後編】

 秋も深まる11月のある日、広島県の北部を走る「JR芸備線」を旅した女子学生の2人。といっても、朝早くJR広島駅を高速バスで出発し、列車に乗ったのは東城駅から。東城のレトロな街並みを堪能し、旅は後編へと続きます。(馬場洋太)

24くらし●旅のルート

前編はコチラから

秘境駅は癒やしスポットだった

■午前11時52分、内名駅
 東城から列車に揺られること約20分。秘境駅として知られる「内名駅」で下車します。国道沿いから外れた、民家が10軒ほどの小さな集落にあるこの駅。鉄道ファンがつくった「秘境駅ランキング」で全国19位に入るという、「その筋」では有名な駅です。

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「よう来てくれました。若い子が来てくれて元気が出るわ」。集落に住む上田ヒフミさん(80)が笑顔で迎えてくれました。通学で世話になった駅への恩返し、体力作りを兼ねて、駅の掃除を引き受けているという上田さん。この日は、住民団体が作った内名駅来訪記念の缶バッジを待合室に補充しにきたところでした。

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「うちへいらっしゃい。コーヒーでも」。上田さんが自宅に招いてくれました。突然の誘いに驚く2人。せせらぎを渡り、集落のある対岸へと歩きます。「空気がおいしい」「ほんとだ」。
「わたしは1日1万歩歩くから。駅に行ったり、お宮に行ったり。だから元気でおられるんですよ」。80歳とは思えない上田さんの軽やかな足取りに、2人は感心しきりです。「風景もだけれど、やっぱり人と会ったこと、話したことが思い出に残りますね」。そう話す市川さんに、上田さんも「そう、人に会えるのが一番楽しいよ」とほほ笑みます。

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■午後0時10分、上田さんの家
 上田さんの家には、こたつが出ていました。「私のおばあちゃんは亡くなったけれど、またおばあちゃんに会えたみたいでうれしい」。近藤さんが栗まんじゅうを頬張りながら、笑顔を見せます。「また来てくださいね、五右衛門風呂にも入れますよ。雪も多いですから、雪かきに来てくださいな」「やってみたいです。雪かきしたことないから」。再訪を期して、「秘境」の内名集落を後にします。


広島県はリンゴも取れるんです

 秘境の内名集落から、タクシーで7、8分の高原地帯にあるりんご園に向かいます。「ことしは寒い寒いいう割には、ハットージが少ないですね。ハットージいうて分かりますか」と運転手さん。知らない土地では、運転手さんとの会話も楽しみの一つです。ハットージとは「カメムシ」のことで、中国山地一帯では広く聞かれる方言です。

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 (市川さん撮影)

■午後0時40分、山上観光りんご園
 標高約500メートルの高原地帯にある小奴可(おぬか)地区は、東北地方のような涼しい気候で、りんご園がいくつもあります。この日は、帰りに芸備線の小奴可駅まで散策しようと考え、駅に近い「山上観光りんご園」(庄原市東城町加谷)を訪ねることにしました。「イチゴ狩りは行ったことあるけれど、リンゴ狩りは初めて」。近藤さんは興味津々です。
 りんご園では、まず腹ごしらえ。特産の和牛のバーベキュー(2200円)をいただきました。

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 「黄色い葉っぱが交じった木のリンゴは、蜜が入ってます」。農園のスタッフに、こつを習います。 収穫に使う棒を借り、試しに使ってみましたが、手で取った方が早いかも。「もぎたてのリンゴはみずみずしくて、おいしいですね」。近藤さんも満足そうです。

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 りんご園を後にし、最寄りの芸備線・小奴可駅までは徒歩で約20分。下り坂だから、歩くのも楽です。近藤さんは「時間の流れがゆっくり。山が大きく感じますね」。芸備線の踏切が見えてきました。

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再び芸備線に揺られ、車窓を激写

■午後2時6分、小奴可(おぬか)駅

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 レトロな木造駅舎です。「テレホンカード販売中」のさびた看板が渋い。午後2時6分発の列車に乗り込みます。車内は、鉄道ファンなど18人の先客でそこそこにぎわっています。

■午後2時27分、備後落合駅

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(市川さん撮影)

 木次線との乗り換え駅、備後落合駅に到着しました。「2時半なのに、夕方みたい」。11月の気の早い太陽は、切り立った山の向こうに沈み、駅はブルーに染まります
 備後落合駅から、2時43分発の三次行き列車に乗車。近藤さんと市川さんは再び、車窓フォトコンに応募する写真の撮影に勤しみます。近藤さんも「トンネルを通るたびにわくわくします」。

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(市川さん撮影)

 川沿いをことこと走ります。

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(近藤さん撮影)

青空と線路がすっきり撮れました!」。市川さんの自信作です。

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(市川さん撮影)

■午後3時37分、七塚駅
 午前中に立ち寄った備後庄原駅を通り過ぎ、七塚駅で下車。手を振って列車を見送ります。この駅から近い国営備北丘陵公園では、来年1月10日まで、ウインターイルミネーションが開催されています。徒歩で20分ほど。歩いてみることにします。

備北丘陵公園でイルミを満喫し、芸備線で広島に戻る

■午後4時20分、国立備北丘陵公園
 公園を散策しているうちに、午後5時半、イミネーションが点灯しました。妖怪や和のテイストなど、さまざまに趣向が凝らされていて、見飽きません。

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(市川さん撮影)

 イルミを満喫し、午後7時すぎにタクシーで七塚駅に戻ることにします。タクシー会社3社に「予約を受け付けていない」と言われ、不安がよぎりましたが、直前に電話すると迎えに来てくれました。公園から七塚駅までは、タクシーだとあっという間。初乗り料金の600円で済みました。でも学生の2人はタクシー利用に抵抗があるよう。「シャトルバスとかがあれば芸備線の利用にもつながるのに」と2人は提案します。

 2021年12月4日からは、まるで2人の願いが届いたかのように、イルミネーションを楽しんだ後に芸備線の駅まで送り届けてくれる便利なバスが走ります。備北丘陵公園を午後7時50分に出発し、三次駅に8時25分に到着。芸備線の広島行きに乗り継げます。備北丘陵公園行きは三次駅3時50分発、または備後庄原駅4時40分発、6時10分発があります。いずれも2022年1月10日までの土日・祝日限定です。

■午後7時30分、七塚駅
 七塚駅から三次行きの列車に乗ります。芸備線の利用促進のため、JRが12月5日まで臨時で走らせている列車ですが、ほかの乗客は1人だけ。芸備線を丘陵公園へのアクセス手段として機能させるには、やはりシャトルバスから列車にスムーズに乗り継げるような配慮が求められる、と感じます。

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 ほぼ貸し切りの車内。市川さんは乗車記念にと、アニメ映画「千と千尋の神隠し」で主人公がローカル列車に揺られるシーンのポーズを取り、近藤さんが撮影します。「山陽本線とかでは雰囲気が出ないけど、この列車ならできる。宮崎アニメのファンが集うイベント列車を走らせては」。2人のイメージが膨らみます。

■午後10時28分、広島駅
 三次から広島までは、午前中に使った「バス&レール どっちも割きっぷ」の出番。行きは高速バスに乗ったので、帰りは芸備線です。三次から広島までは約1時間40分ほど。「インスタ映えする撮影スポットを車内アナウンスや地図とかで教えてもらえたら、もっと楽しめそう」「一人旅 広島とかで検索したら芸備線の旅が紹介されるような仕掛けがあるといいですね」。芸備線の旅の魅力がどうやったら伝わるか、アイデアを出し合っているうち、列車は広島駅のホームに滑り込みました。

ほかのお薦めのプランは?切符は?

 高速バスと芸備線で往復するだけなら5千円以内で楽しめます。非日常を求めて、ふらりと小さな旅に出てみてはいかがでしょうか。

24くらし●お手軽コース

 芸備線の旅を促そうと、お得な切符がいろいろ出ています。うまく利用するといいですね。

■バス&レールどっちも割きっぷ
 広島―三次間でJR芸備線と高速バスを片道ずつ利用する割引切符。通常は往復2870円のところ、ほぼ半額の1500円と格安だ。三次市内のタクシー利用券(300円分)付き。来年3月末まで。広島駅北口のバスきっぷ売り場などで販売。利用当日でも購入できる。JRの窓口や広島バスセンターでは取り扱っていない。
備北交通☎0824(72)2122

■ひろしま1デイきっぷ
 インターネット予約専用で、土日・祝日だけ使える切符。購入は12月25日まで。芸備線広島―東城を含む広島県内のJR在来線が1日乗り放題で2500円。前日までに要予約。