意外にエモい? 女子学生が芸備線の旅で見つけた映える風景【前編】
秋も深まる11月のある日、女子学生2人が、広島県の北部を走る「JR芸備線」を旅しました。乗客の少ない区間の存続が危ぶまれていますが、駅がおしゃれに改装されていたり、割引切符が発売されていたりと、沿線は想像以上に魅惑的。2人は「映える風景」に心をすっかり奪われたようです。(馬場洋太)
高速バスで庄原・東城へひとっ飛び
■午前7時50分 JR広島駅北口(新幹線口)
芸備線の旅に記者を同行させてくれたのは、広島工業大4年の近藤令奈さん(21)㊧と広島修道大3年市川愛実さん(21)㊨。JR広島駅北口で庄原行きの高速バスに乗り込みます。あれ、芸備線の旅じゃなかったの? これには深~い訳が…。
11月13日に発売された「バス&レール どっちも割きっぷ」を利用するためです。この切符を使うと、通常は往復で3千円近くかかる広島―三次間がなんと、ほぼ半額の1500円で往復できてしまうのです。新型コロナウイルス禍で利用が減った芸備線や高速バスを応援しようと、三次市の支援で実現した切符です。使い方は、往路がバスで復路は芸備線、あるいはその逆もOKです。
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■午前10時、備後庄原駅
バスに揺られること約2時間。終点の備後庄原駅に着きました。「わー、おしゃれ」「もっと寂れた感があるかと思いました」と、2人は驚きの声。駅舎は2020年10月に「大正ロマン漂う」イメージに改修されたばかり。乗降客が減っても、街の玄関口として駅を大事にしようとする、庄原の人たちの熱意が伝わってきます。この駅で、次の東城行きのバスに乗り継ぐため、約10分間休憩。トイレは快適でした。
(近藤さん撮影)
駅舎の壁面には、ドライフラワーがつるされています。10月下旬に、広島駅から備後庄原駅まで直通する芸備線の臨時列車の運行が始まったのを機に、地元の人たちが飾り付けたとか。鮮やかな紫のドライフラワーは、スターチスという花だそうです。
ドライフラワーは、駅の待合室の天井にもつるされ、降り注ぐシャワーのよう。市川さんが、スマホを向けます。
備後庄原駅での小休止の後、次のバスで東城へ向かいます。高速バスですが、かわいらしい小型の車両。車内は貸し切りでした。三次から東城までは「どっちも割」切符が使えないので、広島地区の交通系ICカード「パスピー」で運賃を支払います。パスピー利用に限り、庄原でバスを乗り継いでも、三次―東城の通し運賃1450円で利用できます。イコカや現金の場合、庄原で下車すると通し運賃になりません。
東城の町並みでレトロに浸る
■午前10時44分 東城小学校前
東城は岡山県境にある人口約7千人の町。城下町として栄えた歴史を持つ、落ち着いた風情の町です。中心街の「東城小学校前」でバスを下ります。成羽川にかかる橋を渡ると、レトロな町並みが現れます
インスタ映えすると評判の店に立ち寄りました。花屋兼カフェの「HANATOJYO」という店。絵の具箱から飛び出したようなカラフルなドライフラワーが天井からつり下げられています。
(市川さん撮影⇧)
店主の山岡翼さん(35)の勧めで撮影タイムに。「どこを撮ってもカラフルでかわいい」「映えてる」。2人ともテンション爆上がり。写真を撮る旅にぴったりの店ですが、日曜は定休なので要注意です。
(市川さん撮影)
「よろしければ奧も」と、山岡さんが奥のカフェ兼バーに案内してくれました。夜は映画やサッカーの試合を上映しながらお酒を楽しめるとか。「花屋さんでバーもやってる店って、なかなかないのでは」。市川さんの問いに、山岡さんは「有名なニコライ・バーグマンさんの店とかがありますが、全国でもまだ少ないですよ」と自負をのぞかせます。
「ゆっくり東城の町を楽しんでください」。山岡さんに見送られ、東城駅のある北の方へ歩きます。道すがら、市川さんが注目したのは、民家の軒先の水路。「こういうの珍しいな、レトロでおしゃれ」。アーチ状の小さな石橋がかかっている家もありました。
「おっきい蔵だね」。造り酒屋の軒先には、杉玉が飾られています。蔵のそばには、小さなほこらが立っていました。「凝ってるね」「すごい御利益ありそう」。酒造りの神様をまつっているのでしょうか。
(市川さん撮影)
(近藤さん撮影)
こちらは、東城のシンボルとして知られる元旅館の「三楽荘」。近藤さんは、レトロな街灯に目を向けました。「鬼滅の刃とかに出てくる昔の日本みたいでワクワクする。今風にいえば、エモい」。市川さんも「和装とかしてきたら盛り上がるね」。すっかり、レトロな町に魅了されています。
東城駅からいよいよ芸備線の旅
■午前11時半、JR東城駅
急ぎ足でまち歩きを楽しみ、昼前にやっと、町外れにあるJR東城駅に着きました。窓口は既に閉じており、駅舎内は静まりかえっています。「人けがなくて、寂しいですね」。市川さんがつぶやきます。ドライフラワーで飾られた備後庄原駅を見てきただけに、ギャップがあるのは確かです。
11時33分。東城駅に1両の列車がやってきました。利用促進のため、JRが10月23日から12月5日までの土日・祝日限定で運行している臨時列車。東城の町並みの滞在タイムが約40分間と急ぎ足になってしまったのは、この列車に乗るためだったのです。二つ先の秘境駅「内名」に向かいます。
東城の市街地が途切れると、渓谷にさしかかります。車窓は黄葉まっさかり。列車は急にペースを落とし、自転車のような歩みになりました。「すごくゆっくりですね。上り坂だから?」。落石があってもすぐに止まれるように、崖のそばでは時速25キロくらいで徐行しているそうです。
この日、2人はある課題に挑戦していました。それは、庄原市が主催している「芸備線の車窓からのフォトコンテスト」に応募すること。1人でも多くの人に芸備線に乗ってもらおうと、「列車の中からしか撮れない写真」に限定した異色のコンテストです。金賞に輝けば、なんと賞金5万円! 応募は来年1月末までなので、まだ間に合います。みなさんも挑戦してみてはいかがですか。
(市川さん撮影)
2人とも、何枚もシャッターを切るうちに、みるみる腕が上達してきました。スマホを窓ガラスにぴたっとくっつけて撮影し、光の反射を抑えてきれいな写真を撮るこつもつかんだようです。市川さんは、落ち葉の降り積もった晩秋の線路を、安定感のある構図で切り取りました。
東城から列車に揺られること約20分。秘境駅として知られる「内名駅」で下車します。町の人との出会いにも恵まれた旅の続きは、後編へ。