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【読書】 もう隠せない 真実の歴史 世界史から消された謎の日本史

出版情報

  • タイトル:もう隠せない 真実の歴史 世界史から消された謎の日本史

  • 著者:武内一忠

  • 出版社 ‏ : ‎ ‎ヒカルランド

  • 発売日 ‏ : ‎ 2023/8/17

  • 単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 368ページ

新しいペトログリフ時代の幕開け

 大人気YouTuberのTOLAND VLOG から本書にたどり着いた人も多いのではないだろうか?私は、そのひとりだ。TOLAND VLOG は、日本や世界の神話についてのエンタメ考察をおもしろおかしく話すサムと聞き手のマサキのふたり組の番組で、独特の世界観を醸し出している。サムは作家デビューもしている。みんなのよく知る日本神話をモチーフにちょっぴり情けない青年が頼もしく成長していくストーリーだ。さりげないけれどもメッセージ性のある読み応えのある小説である(古事記転生読書感想記事を書いているのでよかったら、どうぞ)。
 その二人組が、本書の著者 武内一忠からレクチャーを受けながら、阿蘇にあるペトログリフのフィールドワークを行っている。現在はサムによる考察回のみがアップされているようだ(またTOLAND VLOG のみによる笠置山ピラミッド岩フィールドワークの様子は残っている)。

 TOLAND VLOG の2人は武内から伝授された方法に沿って、ペトログリフを見つけようとフィールドワークを行っている。どうやら武内はペトログリフを見つける方法を確立しているらしい。もちろん100%見つけられるわけではないだろうが。それは地名、地形、方角などによるもののようだ。
 武内は本書で、見つけ方を明示的に開示してくれているわけではないが、見つけるための要素と、現在何が見つかっているのか、その一端を見せてくれている。

 ではでは、どんな要素を武内は本書に記載し、どんなことがわかったのだろうか?紐解いていくことにしよう。

 もちろん関心のある方は、直接、本書を手に取るのが一番だ。そんなに難しい本ではない。何よりロマンを掻き立てられる!写真も多いし。ペトログリフ入門、と言った気持ちで手に取ってみるのはいかがだろうか?
 断っておくが、本書は学術書とはいえない。「信じるか信じないかはあなた次第」の世界である。だが、「わからないことに心を開き、可能性に心を開く」ことで、さらなる探究心が生まれてくる。そしていつか「学術」になっていく時がくるかもしれない…。そしてあなたもその探究の輪の中に入っていくことができるかも…というロマン溢れる気持ちで読むことをお勧めする(私などに言われるまでもないかもしれないが)。


ペトログリフに親しみ見つけるための要素

 上にも書いたように、ペトログリフに親しみ、ペトログリフを見つけるための要素は地名、地形、方角などだ(土地の伝承、神々の名前なども関係するだろう)。しかし、イタズラに地名を眺めてみても、何もわからない。その土台となるものは、神話であり、古代シュメール語であり、古代ヘブライ語であり、古代ケルト語などの古代言語だ。武内は本書では、私たちに馴染みのないギルガメッシュの神話に相当なページ数を割いている。私は読んでも馴染めなかったが、きっと武内には日本神話に重なるものや、さまざまなものを読み解く手がかりが見えているのだろう。また古代ヘブライの言葉との対応にもかなりのページ数を割いている。これは先人から受け継いだ自負と責務からぜひ活字にしておきたかったのかもしれない。古代ヘブライ語の言葉から、日本全国の詩歌の囃し言葉を読み解いている

 日本の地名や苗字に古ヘブライ語が多い…日本語に根強く古ヘブライ語が定着していることを明治時代に気づかれいち早く研究し、当時日本では古い聖書の研究資料がないためにアメリカに赴き…『日本へブル詩歌の研究上下巻』と『日本エホバ古典』にまとめ出版され、「辞典原稿」をまとめ刊行を目前に亡くなられた川守田英二博士がいる。その辞典原稿と日本古代へブル詩歌研究の内容を抜粋して紹介しよう。

もう隠せない 真実の歴史 世界史から消された謎の日本史 p73

 著者は縁あって、ヘブライ語時点の原稿と、『日本へブル詩歌の研究上下巻』を借り受けることができたそうだ。p74-p76には木遣きやぶしなどの囃子はやしことばと古ヘブライ語として解釈した場合の意味を記載してある。こういう対応を400もの囃子詞にされたとのこと。川守田博士のご努力にも頭が下がる。巻末には川守田博士による古代ヘブライ語--日本語辞典が掲載されているp319-p349。

 そして本書の冒頭では、まるで著書 武内が語り部であるかのように古代海洋民族(武内はラピュタと名付けている)と古代シュメール人、古代ヘブライ人、古代フェニキア人、古代ケルト人そして縄文の人々の関わりのエッセンスを語っている。時に日本の神話も交えながら。驚いたことに、武内によると古代海洋民族ラピュタは世界中を航海して回っていた、というのだ。

古代海洋民族ラピュタ

 武内は古代海洋民族ラピュタが世界中を旅して回っていて、天変地異や地球の寒冷化などによって何度も地球上の各地域に閉じ込められ現地に同化し、さらに別民族と同化した海洋民族が新しい技術を携えて、何度も縄文日本に渡来したり、弥生稲作、鉄器の技術を持ってやってきていると提唱している。

 ペトログリフに関して海外での先行研究があり、いくつかは日本語訳もあるので、それを確かめることで武内の主張がする古代海洋民族ラピュタについてさらによく理解できるのかもしれない。あるいはTOLAND VLOG の動画によくまとめられているのでそちらを参照されたい。

 では古代海洋民族ラピュタとはどのような人々だろう?

 本書によれば、1万5000年前ごろスンダ大陸に住んでいた人々は、日本の沖縄で人骨が発見されている港川人と同系統の人々であろうことp36-p37。そして地球の温暖化につれてスンダ大陸は沈没し、アウトリガー帆船の技術を持つマオリの人々の助けを借り、古代海洋民族ラピュタとなっていった、とp37。彼らは太陽崇拝と巨石信仰を持って移動を開始したp37。

スンダランド wiki
作者 Maximilian Dörrbecker (Chumwa)
CC 表示-継承 3.0

 7300年前ごろ、世界的な異常気象や温暖化が続いた。さらに日本の鹿児島沖合の硫黄島付近の鬼界カルデラが爆発し、何十年もの間降灰が続いて、西日本に人が住めない時代を作ったp37。

 ラピュタは本拠地を失い拠点を北方、東北に移していく。温暖化は最盛期を迎える。すると北海に氷のないことを知った彼らは本能のごとく新天地へと船団を走らせた。
 当時、北海を越えるとバルト海は海峡となっていて、スカンジナビアは半島ではなくスカンジナビア島であった。
 ラピュタは水の島日本を中心に、北海を越えバルト海、ブリトン島まで航行、北欧ではフンネルビーカーピープル(F・B・P)といわれ、東洋から巨石文化と土器を伝えたデンマークやドイツの文化庁では定説となっている。
 その足跡はラピュタ土器と呼ばれるチェコの曽畑式土器の流行に見られる。
 また、東北の火炎式土器の文様がアイルランドに代表されるニューグレンジ古墳の文様になっている。ソールズベリーのストーンサークルも約5000年前北方より侵入したFBPらによって初期のサークルは築かれたとされている。

もう隠せない 真実の歴史 世界史から消された謎の日本史 p38

 文字通り世界を股にかけた古代海洋民族ラピュタ。著者 武内は海幸彦、山幸彦の話は、海洋民族ラピュタと森の縄文人との交流の話と解釈しているようだ。
 また、ソールズベリー土器、チェコのラピュタ土器、曽畑式土器の類似性、三内丸山遺跡のロングハウスと6500年前のオランダ線紋土器時代のロングハウスの類似性を挙げている。それがそのまま古代海洋民族ラピュタの存在を裏付けるわけではないが、類似性に注目して研究することも案外意義のあることなのではないだろうか?

もう隠せない 真実の歴史 世界史から消された謎の日本史 p45 と
曽畑式土器 wiki より 曽畑式土器宇土市立図書館郷土資料室展示(右下)。
もう隠せない 真実の歴史 世界史から消された謎の日本史 p133

 以前【動画】バイキングの千年前のおうちという記事の中で、バイキングの一千年前の家と縄文時代の竪穴式住居の類似性について書いたが、もしかしたら、あながち的外れでもなかったのかもしれない。類似性に飛びついてバイキングが日本人だったなどといえばトンデモ説だが、その類似性、相違点、時代による変遷などを調べることで、新たにわかることがあるかもしれない、とも改めて思った次第である。

神功皇后の謎解き

 みなさんは、神功皇后をご存知だろうか?私の記事の読者ならよく知っておられるかもしれない。戦前はおさつにまでなって日本国民は全員知っていた。江戸時代にもかなり人気のあったとも。そして江戸時代以前は天皇陛下の扱いであったらしい。明治になって皇后陛下になられた、ちょっと複雑な人物である。
 簡単に説明すると…熊襲征伐をしようと、夫の仲哀天皇と九州まできたが、突然神功皇后が神がかりになって、「熊襲じゃなくて新羅を撃ちましょう」とのご神託が降りてきた。仲哀天皇は取り合わなかったが突然亡くなってしまった!神功皇后はその時妊娠していたが、股に石を入れて!?出産を遅らせて、みんなを引き連れて出陣。戦わずしてその威光で百済、高麗も服属させ三韓征伐が成った、というお話だ。
 いろいろなんじゃそりゃ、なのだが、彼女はその後70年間、摂政として政治を掌握した。その時の子どもが応神天皇で、彼女の補佐は武内宿禰である。
 本書の著者 武内は、そもそも神功皇后は熊襲に親和性があったという。討伐なんてとんでもない、熊襲に鉄器による武器も人員も頼ったに違いない、と。熊襲は鉄器製造の技術をケルト族から受け継いでいた。そして神功皇后はシュメール系フェニキアの女神イナンナに自分を重ねていたと推測するp183-p194。シュメール人やフェニキア人にとって、数字は神を暗示するものだった。雄牛の神バール神は50によって象徴され、女神イナンナは15によって象徴される。例えば五十嵐いがらしという名字。祖先はバール神にちなんで名字をつけたのだろう。あるいは五十猛いそたけるという名前も雄牛のように猛々しい、という意味だったのかもしれない。あるいは出自はシュメールである、という宣言だったのかもしれない。こういうことには「証拠」はない。が、そう類推することで、神話や民族同士のつながりを推定できる。仮説の仮説のためのある種のツールであり、「信じるか信じないかはあなた次第」の世界ではある。だが好きな人にはたまらない仮説なのだろう。

 神功皇后は恵我の一族、シュメール系フェニキアの女神に匹敵する。それはシュメールでは十五の数詞を持つイナンナ姫、イシュタル女神ともいった。神功皇后はギルガメッシュ王に因んで、わが子は最高の王を産みたいと考えた。そして自分がなれなかった15代天皇にわが子を据える。それは執念のようなものであったと推測する。

もう隠せない 真実の歴史 世界史から消された謎の日本史 p190

 また百済の使いが献上した七枝刀は、シュメールの豊穣を約束する宇宙樹「七枝樹」と関わりがあるとも。古代日本にはギルガメッシュ王信仰があり、「ギルガメッシュが生まれますように」という祈願と関わりがある、というp189-p190。

 そのほかにも、著者 武内一忠は丁寧にラピュタにまつわる世界を描いている。情報がありすぎていろいろ追いつかない感じもあるが、とにかく情報は満載なので、ご興味のある方はぜひ、本書を読んで欲しい。

先行研究+アルファ

 ここから先は、少し私が調べた日本のペトログリフの先行研究について述べてみる。関心のない人は、どうぞ読み飛ばしてください。あるいは離脱していただいても大丈夫です。

  国内のペトログリフの報告は、「彦島杉田岩刻画が注目を浴びたのは、大正13年(1924)「考古学雑誌14巻4号」に上代の絵画であると思われると報告された」と山口県下関市にある彦島八幡宮のHPにある。どうやらこれが一番早いもののようだ。

 その後、学術的に調査研究されることはなかったようだ。昭和の高度成長期から平成にかけて非常に熱心に取り組んだのは、市井の研究家たちだった。中でも吉田信啓氏と川崎真治氏は有名だった。吉田氏は海外のペトログリフ学者や国内の古代言語学者たちとコネクションがあり、自身の研究について頻繁に連絡をしたり、吉田自身も日本ペトログリフ協会という研究会を立ち上げ、文部省を巻き込んだ調査研究をしていた川崎氏は学術的な学会とは距離を置いていたようだ。
 
 西日本を中心に全国に70ヶ所で400個ものペトログリフが刻まれた岩が見つかっているという。一刻も早く、調査研究をし、必要であれば保護をすべきなのではと思うのだが、1991年の吉田の著作によると、ペトログリフのある場所の地権者の問題、また地元での祭祀のことなど、調査研究するにも一筋縄ではいかなさそうな様子ではあった(ペトログリフの内容と関係なく地元で信仰の対象になっている場合もあるようだ)。よく知られている彦島杉田岩刻画にしても、何やらオカルトめいた伝承もある。海外では年代測定されているペトログリフもあるようだが、日本のものにはなされていない。さらに今までに「イタズラ」されて本来の線刻が汚染や破壊されている可能性すらある…というのが、日本のペトログリフの現状だ。神社なり自治体なり、あるいは国のレベルで保護の対象にして欲しいと願うのは思い入れが強すぎるのだろうか?

ペトログリフとペトログラフ

 ペトログリフペトログラフ。それぞれ線刻画岩絵という意味になる。ペトロが石+グリフが掘る=線刻画。ペトロが石+グラフが絵=岩絵吉田信啓氏は意図してペトログラフという言い方をしていたようだが、現在はペトログリフという言い方が主流な印象である。実際、彩色されたり、面が重要になる岩絵というよりは、線刻された広い意味での文字を対象に研究している。

私的ペトログリフ体験(どうでもいいことですが💦)

 実際に見たわけではないです。先に言っておきます。ごめんなさい。テレビ番組を見た体験。私が一番初めにペトログリフ(あるいはペトログラフ)という名を聞いたのは90年代初頭のニュース番組だったと思う。驚いたことにその番組のそのコーナーがYouTubeに残っていた!リアルタイムで見ていた番組と32年ぶりのご対面だ。広島の宮島のペトログラフについての映像(久米宏アナわっか〜い。そして隣にいるのは若き小池百合子東京都知事…ではなく小宮悦子アナだ)。去年宮島に行った時に気づいていれば…と、今頃気づいて、ちょっと残念な気分だ(チャンスがあれば、また訪れる機会があるかもしれないのだが)。
 それからまた別の機会にペトログラフ研究の本を購入したことがあったが、まったくもって歯が立たなかった。具体的にペトログラフに触れる環境になかったので、興味は長く続かず、早々に処分してしまった。

1992年のテレビ番組で表示された世界中のペトログラフの分布(YouTube)

終わりに

 武内は、日本中にあるに違いないペトログリフを関心のあるみなにも見つけて欲しい、それが何かに?歴史的な真実に?たどり着く近道だ、とも思っているようだ。それが「盃状穴(はいじょうけつ)探索ガイドブック 発見して保存しよう」という2024年4月に出版された新刊本だ。ペトログリフは経験がないと、単なる「模様」や「岩の割れ目」と見分けがつかない。だが盃状穴であれば、話は別だ。盃状穴は文字通り石に彫られた盃状の穴で、古代の儀式に使われたと目されている。奈良にある酒船石もその一種かもしれない。もっとたくさんボコボコ穴が穿たれているものもある。いずれにせよペトログリフよりは見つけやすい。そして盃状穴のあるところにはペトログリフも近くにあるようなのだ。関心のある方はこの新刊も手に取ってみるのは、いかがだろうか?

 信憑性を超えたところにある何か。それこそ都市伝説として楽しみながら、自分もペトログリフ探しに参加したり、あるいはペトログリフ研究に心を寄せる。そうすることで、硬直からはずれ、古代に世界中を人々が飛び回っていた可能性に心を開いて、古代へのそして人間への理解が深まっていく。もしかしたら、それが世界の平和にもどこかでつながっているのかも、と夢想しながら…。


引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。


おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。

著者 武内一忠の本

著者 武内一忠のレクチャー付き フィールドワーク


先行研究

ハーバード大学 バリー・フェル教授 Ancient One World 巨石文明について

ドイツの学者 ゲルハルト・ヘルム

谷川健一
日本地名研究所の所長。1987年から1996年まで、近畿大学教授・同大学民俗学研究所長を務めたwiki)。
地名は民族の出自を表す、そして5000年のすり替わりを見る。また、嘘をつかない」p25。とのこと。現在のどんどん地名を変える風潮はどうなのだろうか?大事な日本文明の痕跡を消そうとはしていないだろうか?

川崎真治

大昔買ったけど、さっぱりわからなかった。↓ やっぱり現場に行かないと、なのかな?

吉田信啓

1992年のテレビ番組 吉田信敬氏が出てきてる!

須田郡司

岩田明

YouTubeでコラボしたTOLAND VLOGの本

TOLAND VLOGの動画の再生リスト:ペトログリフシリーズ

ペトログリフとペトログラフの違い

線刻画と岩絵ってことっす。


ペトログリフたち


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