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だれかの事情を知るための本、10冊。(後編)

どこかの誰かの生きづらさに紐づく、事情。
それを知るキッカケをくれた本のなかから選んだ10冊。



※この記事は、前回の続きです。





後編1冊目は、私にとっても一番身近な事情。

Shrink~精神科医ヨワイ~ / 七海仁(原著)月子(著)



精神疾患については病気ごとにいろんな本があるけど、今回ご紹介するのはこちらのマンガ。


ほほ笑みうつ・大人の発達障害・震災PTSD・アルコール依存症・産後うつなどのテーマや、8巻では精神障害者雇用について、9巻では新型コロナと心についてが描かれている。


生きてれば誰だって、精神疾患に出会う日もある。
作中の登場人物たちもそれぞれにみんな、自分なりに普通・・に生きてきた人たち。
周囲にはイヤな上司や、理解のない血縁者がいたり、過去に受診した病院や治療への不信感をもつ人もいる。
それでも診断を受け、戸惑い葛藤しながら向き合い、治療や付き合い方を学んで、これからもつづく人生を豊かにしていく。

この作品には医師だけでなく、保健師やソーシャルワーカーたちもでてくる。
そして自助グループ、精神科デイケア、生活訓練施設や障害者職業センター、依存者家族講座など患者たちが繋がりを持てる場所を教えてくれる。

実際の現場で行われる治療の方針や内容は、本当にさまざまだ。
現実でヨワイ先生のような医師を見つけるのは、なかなか難しかったりする。
医師よりカウンセラーを頼るといい場合もある。

だからこそこうやって本で予備知識をつけておくことをオススメしたい。
複数の選択肢を考えられるようにしておこう。

苦しみ続けてやっと助けてもらえると思った瞬間、その手を振り払われるような出来事があると、人はおもっていたより深く絶望してしまうから。

出来ることなら心の支えは、いくつか持っておけるといい。

そこで終わり、にならないために。




自閉症の僕が跳びはねる理由 / 東田直樹


以前に書いた行動援護の研修で、講師のT先生に素敵な本をたくさん紹介していただいた。
こちらは、その中の一冊。


作者の東田直樹さんは、会話が難しい重度の自閉症。
パソコンや文字盤ポインティングで、コミュニケーションをとっている。
何冊もある著書のなかでも、30ヵ国以上で翻訳され、世界的ベストセラーになり映画化したのが、この作品。

どうして耳をふさぐの?
手のひらをひらひらさせるのはなぜ?
どうしてすぐ、どこかに行ってしまうの?
なぜいつも同じことを尋ねるの?
そういった質問に、作者自身がていねいに、自分の考えをつづっている。
Q&A形式で、とても読みやすい。


角川文庫版にルビはなかったが、児童文庫版も出ているので、子どもと一緒に読むのにもいいかも。

読みながら、気付けばふせんを大量に貼っていた。
そんな見え方が、苦しみが、楽しさが、受け取り方があるなんてこの本に出逢えなければ、きっと今も知らずにいた。

東田さんのみている景色や、気持ちを共有してもらえて嬉しくおもう。

この本の執筆当時13歳だった著者は、今もことばを書きつづけている。noteにもアカウントがあったので是非、彼のことばに触れてみて。



図解でわかる障害福祉サービス / 二本柳 覚(編著)


T先生に教えていただいた本でとっても役に立つ本があったので、番外編としてご紹介したい。


国などから受けられる支援や、サービス・制度って、入り組んでいてわかりにくい。当事者ですら、混乱する。

そういう時に、ものすごく有難いのが、この本だ。
そもそも障害者って?(身体障害、知的障害、精神障害、発達障害)という基本から、各サービスや制度がどのようなものでどうやって使うのか、またその実践事例や法制度の歴史まで、めちゃくちゃわかりやすく解説してくれる。まさに入門書。

この一冊だけで、大まかなことが理解できると思うので、店頭で見かけたときなど是非、手にとって体感してみてね。





俺、専用JK(びしょうじょ) / 九州男児


つづいてはちょっと、毛色が違うタイプのマンガ作品。

※こちらは青年レーベルなので、下ネタとかBLとか、その手のギャグに慣れている人に、オススメ!(苦手な人はごめんなさい)

俺だって好き好んでこうなったわけじゃない。こんな容姿でなければ、親に金があれば、受験に失敗していなければ。
そうやって、美醜や環境などのコンプレックスを、妬みや憎しみのような感情でグツグツ煮込んでいた主人公に、ある日突然、とんでもない「キッカケ」が訪れて…。


ここからは軽いネタバレになってしまいます、申し訳ない。
ネタバレなしで作品を読みたい人は、次の作品紹介へ飛んでね。

この作品からみえるのは「若い女」というラベルを張られた人たちの事情だ。

展開はギャグだけど、ギャグなんだけどこれは表紙からは想像のつかないストーリー。

「搾取される」現実が、コメディーで淡々と語られてるので、重く感じない。

ハラハラドキドキする展開は心が弱ってしまうから、重い内容の漫画は避けがちな私でも、しっかり読めた。
腐女子たちのアシストも最高だ。


そしてこの作品の良さはそれだけでなく、法律上で「男」と定義される人たちの事情についても、あわせて知れるところ。

女なんだから。男だったら。
全人類をたった2つの記号で分けてしまうから、うまれるツラさがある。


タイトルや表紙絵は「エロコンテンツ」を求めてこの作品に辿りついた人に、あえて読ませるためなのかな。
そんな風に考えたら、その想いに、勝手になにかを感じてしまう。

「エロ」が悪いんじゃないとおもう。
作品はあくまで作品だから。
エンタメと、目の前で生きてそこにいる存在を、ごちゃまぜにしてはいけない。

記号や数字やラベルは関係ない。
目の前にいるのはただ、その人なのに。
私たちはつい、それを忘れてしまう時がある。



そしてまたちがう角度からの事情を示しているのが、こちら。

正欲 / 朝井リョウ


直木賞受賞作家、浅井リョウの小説。今秋映画も公開予定の、話題作だ。

この本が様々な賞を受賞し絶賛されるたび、私は少し悲しくなる。
もちろん作品自体は素晴らしい。
でも世の中はまだ、それ・・をも受け入れられてなかったのかと、驚いてしまった。
(小説の大きなネタバレになってしまうので、それ・・が何を示すのかは、考えていただけると嬉しい)

私は性に対する制限を設けられずに育ったのかもしれない。
猥談で爆笑できるし。ブラックでお下劣なマンガも好きだし。同人誌の幅の広さに感動するし。
そういえば、生理は隠すものという感覚もない。

だからか、それ・・も「あたりまえ」だと思ってた。
綺麗なだけの人間なんて、存在しない。
自覚があるかないかの違いで、誰もがみんななにかしら持ってる。
多様性という言葉は当然、それ・・も含んでいるんだと、勝手に思い込んでいた。それが私にとっての普通・・だったから。

でも、この本を読んで「どうか死を選ばないでほしい」という、強い想いを受けとった。
ということは実際に、それ・・に悩み苦しみ続け、絶望している人たちがいる。

きっと私は、彼らの絶望を小さくみていた。
ここからみえるものだけで、判断して。
その場所に立つ、想像もせずに。

自分が気持ち悪い。申し訳ない。独りという世界。
同じレールを歩けなきゃ、正しい生き物として、許されない。


自分にとっての普通や正解が、誰かを排除してるのかもしれない。
考えるキッカケを与えてくれる、この小説は、やっぱりすごい。



だれかの事情を知るために、最後に、ご紹介する本はこちら。

ヤンキー君と白杖ガール / うおやま


恋です ~ヤンキーくんと白杖ガール~ という実写ドラマを、知っている人もいるかもしれない。
ドラマを否定はしない。だけどできれば原作であるこちらの本をちゃんと読んでほしい。


弱視の主人公のラブストーリー作品、と思われているかもしれない。
だけど実は、この作品は全8巻を通して、本当にたくさんの人が事情を抱えながら生きている様子が描かれている。
作者のTwitterからも、それがうかがえる。


7年引きこもっていて、踏みだしはじめた人。
向けられる悪意を受け止めようと頑張って、歪んでしまった人。
ひとりで抱えこむ人、社会から必要とされないと感じる人。
いろんなかたちの加害者。
高齢者。レッテル。特別な人の障害。だれかの障害。

そして、
まっすぐ・・・・な人間で居続ける、難しさ。
愛されることに、臆病になってしまう心。
全盲の青野くんが本当はなにを考えて、どんな思いで色を覚えたのか。
ドラマとは少し違うイズミとシシオ達の、名前のつけられない関係。



だれかの「事情」を知りたいと私が強く考えるようになったのは、このマンガの影響がとても大きい。

知らないと、気付けないから。
知らないと、想像できないから。

視野が広がれば広がるほど、みえる世界は変わっていく。
ずっとそこにあったはずなのに、知って初めてみえるものがたくさんある。

この作品から気付ける「事情」は、きっと読み手ごとに異なるだろう。
だって本来事情なんて、誰にだってあるものだから。


だから同情してほしいわけじゃない。

事情があるんだから、どうか怒りや感情は押し殺して!なんて言いたいわけじゃない。

悪意を向けられたり、こわい思いをした経験があるのなら、それはその人にとっての確かな事実だ。

できれば世界中の誰にも傷つかないでいてほしいし、傷つけたくない。
相手にそんなつもりはなくても受け取り方や捉え方で、自分で自分を傷つけている場合だってある。

だからこそ、想像するちからを持ちたい。

背景を想像する。
ワケを想像する。
見えづらい「なにか」がある、かもしれない。

ご紹介した以外にももちろん、素晴らしい書籍がたくさんある。

世界は、だれかの想いをいっぱい詰め込んだ本で溢れている。

だから今日も、本を読む。


考えて、考えても、こたえはでないのかもしれないけど。
それでも私は考えることをやめたくない。

大切な誰か、まだ見ぬ誰かや
あなたと、互いが楽しく生きていくために。


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