見出し画像

だれかの事情を知るための本、10冊。(前編)


「生きづらさ」って、なんなんだろう。
ここ数年そればっかり考えつづけている。



「生きづらさ」には、紐づけられた事情のある人たちがいる。

障害や病気、家庭環境、格差、ジェンダー、アイデンティティ…

そういった事情を知るために、本がある。

もちろん本に書いてある内容がすべてじゃない。

でも自分の歩いてきた道と、その事情を抱えて歩いてきた人の道が、あまりにも遠くかけ離れている場合、最初は想像することすら難しかったりする。


本を読んで事情を知るのは、同情するためじゃない。

話し掛けたのに、ムシされたとき。
道の真ん中に立って、通行人の邪魔になっている人がいたとき。
みんなと一緒に輪になって話していたあの子が、悲しそうに笑ったとき。

その人がどんな事情を抱えているか。
想像できるようになる。
なにかに困ってるのか、いないのか。
考えられるようになる。

だから私は今日も、本を読む。




そんな本のなかから今回は10冊のオススメを選んでみた。

分かりやすいものが多く半分はマンガなので、読んでもらえたら嬉しいな。






おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか! / 練馬ジム



以前、自分のなかに性差別があると気付いた記事を書いた。

このときも本やマンガや動画などでいろんな人の考えを聞いたけど、最近読んでいて特にオススメしたい作品がこちら。



これはLINEマンガというアプリのなかで配信中のマンガ。
「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」


主人公は、女性社員にお茶をいれさせたり、ゲイがうつるから息子に近づかないでくれと言い放ったりと典型的な堅物パパ。
だけど最初はイヤなやつとしか思えなかった主人公が、大好きな家族のことを分かりたい一心でひとつひとつ学び、気付き、大切な人たちが大切に想うものに寄り添えるようどんどん変わっていく。



コメディーだからおもしろ楽しくて、笑って読める。
登場人物たちが身近なだれかに重なってみえて、涙もでちゃう。


そしてマンガという媒体だからこその、良さもある。

主人公は今の時代でハラスメントといわれる言動を凝縮させたキャラクターだけど、ひとつひとつを見るとそれは、私たちもついやってしまいがちな考え方。
ガーンとショックを受けながら自分の非に気付いて謝ったり、また間違ったりしながらも、否定するのをやめてみんなの大切なものを知っていく主人公。

マンガが終始楽しいからこそ現実に戻ってきたとき、我に返る。

自分はどうかな、彼らを他人事のように笑っていられるのかなと考えられる。

責め立てて言及するわけじゃない。

あなたと一緒に笑いたいと言ってくれる、この作品のあたたかさがスキだ。






次にご紹介するのは、ヤングケアラーについて書かれている作品。

私だけ年を取っているみたいだ / 水谷緑



ヤングケアラー
とは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものこと。(こども家庭庁ホームページより)


主人公の母親は統合失調症。家事や炊事に弟の世話、そういったことはすべて「しっかり者」の主人公に頼りっぱなしの父親。
そうやって育ってきた主人公が大人になって、自分自身が親になるまでの道程がコミックエッセイのように描かれている。

個人が特定されないよう複数の子どもの体験を織り交ぜて書かれてはいるが、ひとつひとつは、すべて本当にあった出来事。
紹介する10冊のなかでも、私は読んでいて一番苦しくなる作品だった。

同級生に当事者がいたとしても、気付きづらいと思う。
本人にとってはそれが「ふつうの日常」で「あたりまえ」なのかもしれない。
私だったら、他人からヤングケアラーと呼ばれるのも抵抗がある。


ただこの事情は、子どものときだけの問題とはかぎらない。

大人になって、周りと同じように仕事をして家庭を築いている人たちのなかに、子どもの頃の体験によって、いまも苦しみと闘いつづけている人がいる。

その部分にもスポットライトを当てているのがこの本の凄さだとおもう。

かわいそうだと思ってほしいんじゃない。
知っていてほしいだけ。
家庭の数だけ、かたちがある。



そもそも子どもが安定して健やかに育つという状況は、奇跡にのようなもの。


次は超有名お笑いコンビEXITの、かねちーこと兼近大樹初小説。

むき出し / 兼近大樹



上京してentranceというお笑いコンビを組む石山という男の、過去と今が交差する、痛いくらいにまっすぐで、懸命なものがたり。

むき出しというこの小説には、今も日本にある貧困という事情が描かれていると、私は思う。


本当はこういう言い方をしていいものか、とても迷った。
だけどこれも、確かにそこに存在するだれかの、大きくて難しい事情だと思うから。
ひとりの人間の物語として読んでみてほしい。
著者の真摯な想いが、伝わる。

現代日本の貧困格差は語る当事者が少ないので軽く扱われてしまうことも多いけど、それはやっぱりたくさんの理由があって、声をあげるのが難しい現状があるのだとおもう。
努力だとか責任だとか、そんな言葉だけで片付けられない。


犯罪を肯定しているわけじゃない。


例えばケーキの切れない非行少年たち、という本がある。
有名な本だからこそ、中身を読まずに雰囲気だけ知っている人が多いのかもしれないけど。

○○だから、犯罪者になる。
○○だから、ダメなんだ。
○○だから、どうせ…。

そんな言葉でまとめられたくない。
そうやって切り捨てる理由にするために、書かれたわけじゃないだろう。


そこにいるのは、確かに存在している「この世でただ1人の人間」だということをどうか忘れないでほしい。



ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー / ブレイディみかこ



次の本は、私がまたも気付けずに生きてきたことをていねいに教えてくれた。


ノンフィクション大賞受賞など、あらゆる場面で話題になったこの作品。
作者は福岡市生まれ英国在住。
人気で名門のカトリック小学校に通っていた息子が、真逆ともいえるタイプの中学校へ進学を決めるところから話ははじまり、その中学生活最初の一年半を書いたエッセイだ。


これを読むまでアイデンティティ・ポリティクスなんて言葉すらよく分からなかった。

著者の周りでは、人種、ジェンダー、性的指向などからみて、誰かを排除したり傷つけないよう言動に配慮するのが、すでにあたりまえになっているみたいだ。
自分がどれだけ無神経に生きてきたか、ガツンと思い知らされた。

いじめ、性、人種に貧富の格差、DV、子と保護者、英国、教育者、エンパシー等、切り取る場所をかえれば、数えきれないほどの事情を学ぶことができる一冊。

今回注目したいのは、出自だ。

私にとって「ハーフ」という言葉は、ほめ言葉だった。

ハーフタレントと呼ばれる枠(二等親以上の国際結婚や、日本人にみえないと言われた人も含まれる)に入れられた人たちが、メディアでキラキラ輝く姿を、子どものころから見てきた。

だからハーフは、カッコいいとか憧れという意味で使うことば。

だけどそれはあくまでも、にとっての意味だ。
呼ばれた側が、どう感じるかはわからない。

ことばはとても難しい。
送り手と受け手では、同じ単語でも解釈がまったく違ってしまうときが多々ある。

だからこそいろんな視点を想像できるように、努力しつづけたい。




そしてただいまトーチWebで連載中のこちらのマンガも、合わせて強くオススメしたい。

半分兄弟 / 藤見よいこ

「ふたりごと」「ないしょはまつげ」「こんな夜でもおなかはすくから。」などの作品を世におくりだしてきた漫画家、藤見よいこ。

本作では日本に暮らしている私たちだからこそ、視点を増やしてもっとしっかり考えなければならない事柄を深く繊細な部分まで、しかもユーモラスに伝えてくれている。
ドキッとする話もあるかもしれない。

まだ単行本にはなっていないが、Web連載は誰でも無料で読める。

この機会に、是非一緒に考えてみませんか。





5冊しか紹介できていないのに長くなりすぎた。
もしここまで目を見開いて読んでくれた人がいたら有り難う。

まだまだ勉強中だからたくさん悩みながら書いてはみたけど、至らない表現があったらごめんなさい。



もし少しでも、だれかの見えない苦しみに思いを馳せるキッカケになれば嬉しいな。

後編では精神疾患をテーマにした本などについてふれていきます。



この記事が参加している募集

わたしの本棚

スキ、フォロー有り難うございます。とっても嬉しくて励みになります!いただいたサポートで新刊の本と本棚を購入したいです。整理できない本が山積み…