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出発の景色

 日本人からも特に愛されているパリ生まれの画家、オスカー・クロード・モネ。
 以前、「動いて見える絵画の正体」という記事を書き、そこではゴッホの作品を取り上げましたが、モネも絵画の中に動きを取り込む達人です。

 自然を愛し、産業革命が進むなかを生きた彼は、写実的な作風はカメラなどに取って代わられると予見し、光や人々の動きを描くことによって時の移ろいをも作品に込めました。

 芸術に関して初心者の私は、そんな彼の作品は川や池などの水や、草、木、花、もしくはそこに佇む二、三人の人物をモチーフにしたもののイメージしかありませんでした。しかし最近、そのほかのものを描いた作品にもコンタクトする機会があったので、一つ、鑑賞記事に起こしてみようと思います。

クロード・モネ「サン=ラザール駅」
1877年/オルセー美術館
(画像はアプリ「PINTOR」より保存)

 サン=ラザール駅は、1837年に開業したパリ最古のターミナル駅。この一作は、この駅の12点の連作のうちの一点です。有名なノルマンディー地方への旅の出発地として知られ、モネの家があるジヴェルニーの最寄り駅ヴェルノンへも繋がっているそう。

 駅舎の三角屋根にはガラスと鉄が使われ、当時の最先端をゆく特徴的なデザインは、近代化の象徴だったそうです。ガラスからは空が透けて見え、立って見上げれば風も頬を撫でて、さぞ気持ちの良い駅舎だろうなと想像できます。朝でしょうか昼でしょうか、この日もみずみずしい空が垣間見えます。

 その空よりも鮮やかな色で、もくもくと絵の中央に主役を張るかのように立ち上っているのが蒸気の煙。1860年代に産業革命を終えたフランスの蒸気機関車ですね。煙をこんなにも青々と書いてみせたのはモネらしいなと感じました。
 周囲にも蒸気のようなもやもやがありますが、こちらは雲のように白い絵の具で描かれているのを見ると、やはり今まさに駅に入ってこようとしている黒い機関車とその煙を、主役に見立てていたのかなと思いました。


 そしてそのまま視線を下におろすと、足元には線路が。線路のど真ん中に立って見ているような構図ですが、ここにイーゼルを立てて描いたのでしょうか……?
 それにしても、この線路の美しさにも目を見張ります。黄だけでなく赤やピンクやきみどりなど、いくつもの色と淡い輪郭で表現され、夢のなかのような線路。

 鉄や木や土の茶色が絵の四隅に配置されていて、ヴィネットのような効果も感じました。だから中央部分の明るい色彩が際立ち、画面に奥行きが生まれているように思います。改めて、モネの景色・空間を切り取る目は素晴らしい。グッと画面に引き寄せられていた顔身体を一歩引いて眺めてみると、奥行きと臨場感がどっと押し寄せてくるようです。


 私には、「さあ、出発だ。」という一言を体現している絵に見えました。
 明るく、爽やかに、潔く。まるで祝福されているような、元気に背中を押される感触のある一枚。モネ自身にも、なにか出発の時のような心意気があったのでしょうか。

 まばゆい外の光と波音のような人々のさざめき、そして駅を出入りする蒸気機関車の音が、見る者の心に一気に歓声となって届いてくる。光と風とその空気を、さあ、思いきり胸に吸い込みたい。そんなふうに、心に焼きついた一作でした。


 ◯


 いつか、モネの住んだジヴェルニーへ行ってみたいな。長いこと出発の景色を眺めていたら、より一層その思いが膨らみました。


最後まで読んで下さり、ありがとうございました!
⛅️🪷

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