【公演レビュー】2023年6月3日/井上道義指揮、東京交響楽団、上野通明〔チェロ〕

《プログラム》

東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
東京交響楽団 第133回東京オペラシティシリーズ
井上道義(指揮)
上野通明(チェロ)
武満徹:3つの映画音楽より
第1曲 映画「ホゼー・トレス」から「訓練と休息の音楽」
第3曲 映画「他人の顔」からワルツ
井上道義:交響詩「鏡の眼」
〜休憩(20分)〜
エルガー:チェロ協奏曲
エルガー:序曲「南国にて」

久々に生で聴いた東京交響楽団の地力

クラシックを聴き始めた1995年秋からの最初の数年間、東京交響楽団は近しいオーケストラだった。
当時黛敏郎が司会のテレビ朝日系「題名のない音楽会」のメインオーケストラで、音楽監督の秋山和慶共々よく姿を見たから、自然とコンサートに足が向き、中村紘子出演の毎年恒例ニューイヤーコンサートをはじめ、秋山和慶の高い対応力が生きた珍しいオペラの演奏会形式上演など聴き応えある公演をたくさん聴いた。

ただ、読響や都響に行く機会が増えると次第に東京交響楽団からは遠のき、今回12年ぶりに演奏会へ赴いた。
よく聴いた頃の記憶をたどればコンサートマスターの一点から出る印象の筋肉質の弦に、ちょっと当たりはきついもののドンと鳴る管がブレンドされ、日本のオーケストラとしてはダイレクトに飛んでくるサウンドがこの楽団の魅力。
12年を経ているので相当団員は入れ替わっているだろうが、上記の特徴は殆ど変わっていないと感じた。違いを言うなら管楽器の個人技が向上し、響きの輪郭が洗練されたこと。井上道義の交響詩やエルガー作品でその美点が際立った。

緻密な骨太さの光った上野通明

秋山和慶の師で、井上道義も十代の頃からレッスンに通った齋藤秀雄は元々チェリスト。それゆえ日本は堤剛、岩崎洸、山崎伸子、藤原真理、向山佳絵子、長谷川陽子、遠藤真理といったチェロの名人上手を多数輩出してきた。言うなれば世界との距離が最も近い楽器。
近年も佐藤晴真、岡本侑也、伊藤悠貴など「世界基準」で戦える人材が登場している。
本演奏会のソリスト上野通明も国際舞台の前面に立ちうる人材。耳に残るのは細部への配慮を注ぎつつ、剛毅で音がグイグイ前に出てくる弾きっぷり。小手先の技に寄りかからず、作品を正面から力強く寄り切れる頼もしさがあった。ソリストアンコールとしてJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第3番からジーグ。協奏曲と肌合いを変え、木質のまろやかさを漂わす。

新鮮味の裏に宿る井上道義の熟練

指揮に関してはInstagram投稿でほぼ書き切ったが、武満徹の尖鋭、「南国にて」中間部のソロがヴィオラなのに象徴されるエルガーの強靭ながらどこか不器用な話しぶり(もしR.シュトラウスならあそこはコンサートマスターのソロだろう)からじわじわ湧く寂寥、内なる熱の描出は見事。
井上道義ならではの各パートの役割分担を立体構造で明確化し、ピラミッド的にピタッと結合させる匠の技を聴かせた。

※文中敬称略※

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