【公演レビュー】2024年1月3日/第66回NHKニューイヤーオペラコンサート

あけましておめでとうございます
新年早々痛ましい災害や事故が相次いだので暫く投稿を控えました
困難な状況に置かれている方々にお見舞い申し上げます
そして皆様の心に松明が燈ることを祈念します


↓テレビ視聴した昨年のコンサートについてはこちら↓

沼尻竜典指揮
東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団
二期会合唱団
びわ湖ホール声楽アンサンブル
藤原歌劇団合唱部

~曲目~

ヘンデル(吉松隆・上田素生編):「メサイアファンタジー」/ 大西宇宙(バリトン)

ヴェルディ:歌劇「アイーダ」から「清きアイーダ」/ 笛田博昭(テノール)

ヘンデル:歌劇「ジュリアス・シーザー」から「この胸に命ある限り」/ 森麻季(ソプラノ)

グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」から「なんとつらい時間」~「エウリディーチェを失って」/ 藤木大地(カウンターテナー)、砂川涼子(ソプラノ)

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」から「私の歌は君のためのもの」~「裏切り者よ出ていけ」/ 福井敬(テノール)、谷口睦美(メゾ・ソプラノ)

ヴェルディ:歌劇「オテロ」から「無慈悲な神の命ずるままに」/ 黒田博(バリトン)

プッチーニ:歌劇「トスカ」から「テ・デウム」/ 須藤慎吾(バリトン)

アルヴォ・ペルト:「鏡の中の鏡」によるコンテンポラリーダンス(大石裕香〔振付〕) / 上山榛名、水城卓哉、宮本萌(以上舞踏)、遠藤真理(チェロ)、松田華音(ピアノ)

ムソルグスキー:歌劇「ボリス・ゴドノフ」から「戴冠式の場」~「私は最高の権力を手に入れた」/ 妻屋秀和(バス)、清水徹太郎(テノール)

ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」から「ひとり寂しく眠ろう」/ ジョン・ハオ(バス)

リヒャルト・シュトラウス:歌劇「サロメ」から「どうして私を見てくれないの?」/ 森谷真理(ソプラノ)

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「優しくかすかな彼のほほえみ」〔イゾルデの愛の死〕/ 田崎尚美(ソプラノ)

モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から「食事のしたくができた」/ 大西宇宙(バリトン)、斉木健詞(バス)、青山貴(バス)、船越亜弥(ソプラノ)ほか

ヘンデル(モーツァルト編):オラトリオ「メサイア」から「ハレルヤ・コーラス」

年初のお祭りに妙な知性を持ちこむ愚かしさ

コンサートのテーマは「対の歌声、終わらない世界」。
はっきり言って頭の悪い私には何のことやらさっぱり分からない。
御覧の通り、オペラ好きでなくとも知っている「乾杯の歌」「ハバネラ」「歌に生き恋に生き」「誰も寝てはならぬ」といったナンバーは皆無。
加えて暗いもしくは血なまぐさい内容のオペラの場面で占められた。

昨年のコンサートのテレビ視聴記に書いた通り、この演奏会はオペラ版「紅白歌合戦」と言える毎年恒例の行事で三が日の掉尾を飾るもの。
クラシック音楽、オペラになじみのないひとでも知っている曲を中心に据え、最後は明るく終わる構成がコンサートの性格に合っている。

海外の例を見ても、この種のガラコンサートでは時折ピクルスを挟みつつ、基本は親しみやすい曲目が並ぶ。

変に頭よく見せようとマニアックな曲目を並べ、現代的な演出を組んだって、すれっからしのオペラファンはこんなもの見ないから。視聴層とズレた内容を組んでも後味が悪いだけ。
コンテンポラリーダンスの振付師は「難しいことは考えないで」とほざいたが、現代の音楽を使った象徴的演出の舞踏は、観る側に考えてもらうものではないのか。ある意味「難しいこと」を見せるのに「難しいことは考えないで」とは自己撞着に陥っている。

シリアス路線の結果 実力の無さが露呈する皮肉

しかも、深刻な曲目を並べた結果、オーケストラのダイナミックレンジの狭いガサガサしたサウンド、ヘタクソな管楽器、指揮者の音楽運びの浅薄さ、歌手の乏しい表現力といった演者の悪いところばかりが耳につく。
ワーグナー、リヒャルト・シュトラウスはそもそもオーケストラがまともに弾けていないし、「ドン・ジョヴァンニ」の騎士長が現れる場面もお漏らししちゃったみたいな音で迫力ゼロでガックリきた。

感染症禍が落ち着き、やりたいことができるのだから、真面目なものをやり、例年とはひと味違うところを見せるつもりが、かえって出演者のポテンシャルの低さを印象付ける何とも笑えない事態。
おかしかったのはラストはモーツァルト編のメサイアの「ハレルヤコーラス」、つまりドイツ語歌唱なのに室井尚子のプログラム解説は普通の英語版のものだった。身の丈に合わないことをやるとあちこちボロが出るのだ。
クラシック音楽を聴き始めて29年目、新年一発目で過去ワースト級のコンサートに出くわすとは。救いはタダだったことのみ。

※付言すれば元日の地震と2日の航空機事故を考慮して、曲目を変更する手もあったと思う。
例えば2001年の同時多発テロ事件の直後に行われたBBCプロムス「ラストナイト」(レナード・スラットキン指揮)は一部の曲目を変更した。
ただ、指揮者やソリスト、オーケストラ・合唱団に応用力があればこそできる話で日本の連中に望むのは無理だろう。

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