2023年1月3日NHK-Eテレ 第65回NHKニューイヤーオペラコンサート生中継

元日のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートが、世界一有名なクラシック音楽イベントなら、日本国内で最も知名度の高い新春クラシック音楽イベントは1月3日のNHKニューイヤーオペラコンサートだろう。

「オペラ版」紅白歌合戦

1958年に第1回が行われた「NHKニューイヤーオペラコンサート」は日本のオペラ歌手が集い、毎回のテーマに沿って名作オペラのアリアやハイライトシーンを披露する。

第65回(2023年)セットリスト

勝負こそないが、暮れの紅白歌合戦のオペラ版みたいなもので、歌手たちにとって全国向け生放送に露出できる貴重な機会。
かつては紅白歌合戦の折、特に初出場者が「これで田舎の親に見てもらえる」「恩返しできる」とよくコメントしたが、本コンサートの出演者にも同様の思いを抱いたひとは数多い。
しかも、オペラ歌手の場合「歌謡コンサート」はなく、地方在住の近親者だと公演もしくはコンサートを観るチャンスも皆無だから、このコンサートの中継がある種の「生存証明」を果たしたようだ。

1990年代のコンサートでは歌の合間にバレエや朗読の企画が挟まり、黛敏郎さんなどから「演出過剰」としばしば指摘されたが、近年は感染症禍の「副産物」で幸か不幸か贅肉が落ち、歌中心の催しに戻った。

歌手の言語スキル、特にドイツ語の発音の不均衡や細かな表現力の貧しさなど突っ込みどころはあるが、毎年のお祭りを揶揄するのも野暮だろう。

森麻季の語った先人の記憶

今年心に残ったのは幕間のトークで森麻季が東敦子(1936~1999)さんの思い出に触れたこと。
特別講師として藝大を訪れた東敦子さんの面影が忘れられないと。

東敦子さんは、1960年代を中心にイタリア各地の歌劇場で燦然と輝いたプリマドンナ。
大昔、筆者の曾祖母の家(町田市つくし野)が、東敦子さんの住んだ家の近所にあり、曾祖母は御母様と時折言葉を交わした。「(娘は)ずっとイタリアに行っていて・・・」と仰っていたらしい。
そんな話を子供時代に曾祖母などから聞いたので、クラシックを聴き始める前から「東敦子」の名は頭にあった。
公演活動から退いて以降、東敦子さんは年に一度かつて自身の暮らした家の最寄り駅の前で門下生と無料の野外コンサートを行い、最後に「花」などを聴衆と合唱した。
遠くからでも顔の周りにパッと拡がる華が漂う佇まいを覚えている。
没後玉川学園で開かれた追悼展示で全盛期にイタリアで販売されたというブロマイドを見て、地に足のついた活躍ぶりを実感した。

森麻季と言えばプラシド・ドミンゴとの接点は有名だが、東敦子さんとの「縁」は初耳。懐かしい記憶が蘇り、嬉しく聞いた。

※参考※
第64回(2022年)NHKニューイヤーオペラコンサート セットリスト


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