【公演レビュー】2024年2月11日 / インバル指揮、 東京都交響楽団


《プログラム》

東京都交響楽団 プロムナードコンサートNo.406
サントリーホール
指揮:エリアフ・インバル
ブラームス:大学祝典序曲
ベートーヴェン:交響曲第8番
~休憩~
ドヴォルザーク:交響曲第8番

【要約】

ほぼ満席の大盛況。
カーテンコールの画像から演奏内容もお察し頂けるだろう。
ブラームス、ベートーヴェンの2曲はガッシリした輪郭のサウンドが機敏に動き、筋肉質の音楽を展開。
ドヴォルザークは、盛り上がりや知られたメロディの出てくる前の弦のざわめきを浮上させるなど「インバル節」が随所に盛り込まれた内容。
2024年6月の東京都交響楽団第1,000回定期演奏会を指揮する予定のインバルの闊達なタクト捌きに都響がビシッと応えた公演だった。

※この公演は4月28日(日)にMXテレビ「アンコール!都響」で全曲放送予定

名曲3本真っ向勝負

ロマン派の演奏会用序曲に始まり、古典と国民楽派の大作曲家の交響曲第8番が並ぶ「遊び」なしの正攻法プログラム。
人気ソリストの協奏曲に頼らずともホールを埋められるのだから、都響リスナーにおけるエリアフ・インバル(1936~)の人気はいまだ健在。
公演の数日前に逝去した小澤征爾(1935~2024)と同世代の指揮者だが、しっかり立ち、ビュンビュンタクトを振った。元気過ぎてドヴォルザークの第1楽章の途中でタクトが手から飛んでしまうおまけつき。

活気と熟した陰影の調和

インバルといえばグイっと音楽を膨らませてスケール感たっぷりに鳴動させると思えば、一転して薄く透明な響きで暗い色彩の推移を浮き彫りにする・・・といった変幻自在のサウンドコントロールが特徴で「インバル節」と呼ばれる。
作品のネガポジ的魅力を伝えるのに長ける反面、音楽の流れがぎこちなくなるケースもみられ、しばしば当たり外れが激しいと指摘された。

本公演のインバルは前半の2曲でそうした動きは抑制し、中庸のテンポと筋肉質の響きを軸に正面から寄り切るスタイルをとった。

一方、後半のドヴォルザークはいわゆる盛り上がるポイントの手前の音の動きを強調したり、メロディの内側で動くパートをざわめかせるなど随所で独自の陰影を打ち出した。
そうした動きのなか、都響は緊密度の高いアンサンブルと各パートの機動性で音楽の流れをしっかり保ち、「インバル節」と骨格の安定感を両立させる。

長老といえる年齢になってなお活気を失わず、ときに翳も入れる指揮者とそこにしっかり応えるオーケストラの押し引きが展開された。
聴き応えのある中身ゆえか、いつの間にかドヴォルザークの終盤で「もう終わりか」と名残惜しくなったほど。
有名曲を充実の演奏で味わい、オーケストラの素晴らしさをしみじみ想った。

※文中敬称略※

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