【公演レビュー】2023年6月10日/髙橋望〔ピアノ〕「バッハとシューベルト第2回」

東京オペラシティリサイタルホール
髙橋望〔ピアノ〕

《プログラム》

J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ BWV.903
J.S.バッハ:パルティータ第4番 BWV.828
〜休憩(20分)〜
シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番 D.958

着実で柔軟な設えから覗いたアグレッシブさ

ピアニスト髙橋望と「バッハとシューベルト」第1回(2022年)についてはこちらを御覧下さい。

Instagram投稿や上のブログの通り、筆者はバッハとシューベルトのよい聴き手とは言えない。

そのなかでバッハの半音階的幻想曲とフーガ並びにパルティータ第4番は比較的好みの作品。
髙橋望のバッハの魅力は音楽史的様式観、師匠格のペーター・レーゼルから学んだ楽曲分析に基づきつつ、ピアノの色彩を生かした明朗闊達な息づかいの音楽運び、音と音の間のハーモニーの豊かさが展開するところ。

今回、彼には珍しく、かなり縦方向にメリハリのきいた、エッジの鋭いタッチで弾き進める。
半音階的幻想曲とフーガではこのアプローチが功を奏し、楽想の対比や興隆を強靭に抉り、印象深い内容だった。
一方、舞曲の連なるパルティータになると若干リズムのきつさが感じられ、既発のCDのしなやかな呼吸が後退していた。

もしかするとタッチの変化は意図的ではなく、演奏会の数日前にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾いた影響かも。
普段あまり手掛けないロマン派のヴィルトゥオーゾ作品のスケールを的確に表現するため、彼は相当準備したはず。その残滓が身体に残っており、演奏に出た可能性はある。

もう一つ考えられるのは後半のシューベルトの第1楽章に立ちふさがるガチャつきやすい要素を高い解像度で描くため、ここを基準に演奏会へのタッチ作りを進めたこと。
だとすれば成功だった。これまで誰の演奏を聴いても「変な曲」の第1楽章が、歌と陰影の交錯する面白い音楽だと感じる瞬間があったから。
中間楽章の弾き進め方も彫りが深く、ほどよい緊張に満たされる。
フィナーレは第1楽章同様の充実だったが、申し訳ないが作品と聴き手の相性がよろしくないようだ。

「バッハとシューベルト」は残り1度。髙橋望の確かな基盤と新しい境地の融合を聴ける機会はまた来年訪れる。

※文中敬称略※

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