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フランスでショコラトリー店員になる#12 夢叶う

季節はハロウィン。

昔、フランスではハロウィンはお祝いしない。アメリカの文化だから。と聞いたことがあった。

時代が変わったのか、フランスでも、ハロウィンのお祝いをすることがわかった。夫の弟夫婦は、毎年派手に自宅で仮装パーティをしている。

黒いテーブルクロスに、マジパンで作った目玉がころり…手作りチョコレートケーキの上には骸骨やお化けのデコレーション…カラスの置物にカボチャのランタン…本人たちも、しっかりメイクをし、仮装している。かなり本気のハロウィンだ。そんな様子がSNSの写真に並び…全力で楽しんでいる感が凄い。我が家はそういう感じでは全くないが、お家で楽しくパーティをするのはとても楽しそうだと思う。羨ましいっ!


さて、時は変わって2007年の10月。


サロン・デュ・ショコラ パリに弾丸日帰りで出掛けた翌日、私は履歴書を渡したショコラトリーで面接をした。驚いたのは、面接をした時点でもう既に内定していて、いつから働くか…等そちらの話をしたことだった。

つまり…ショコラトリーで働けることになってしまったのだ。


しかも、販売スタッフとして!


厨房には日本人スタッフがいたが、販売スタッフは今まで日本人を雇ったことがないとのことだった。11月から仕事が始まる。1週間程後のことだった。私は、慌てて仕事用の靴や、化粧品を買いに行った。渡仏して間もない頃は、毎日しっかりメイクもしていたが、あまりしっかりメイクをしている人が周りにいなかった為、そのうち化粧をしなくなってしまった。大体、ついこの前まで、畑で土まみれになって葡萄を摘んでいたのだから。


しかし、接客の仕事となったら話は違う。大慌てで買い出しに出かけた。仕事用の黒い靴、張り切って買ったDiorのアイシャドウ…全部レピュブリック通りで買った。賑やかなこの通りに来れば、大体のものが揃う気がしたのだ。

そして、仕事が始まる前に、ショコラを一通り買いに行った。ここの店は、チョコレート、焼菓子、ケーキ、総菜等、商品が豊富だった為、一度に食べられないので、全種類制覇までは長い道のりだった。

…が、食べられる範囲で購入…それを毎日!

↑ めちゃ美味しいやつ

このように、一つ一つ断面も撮りながら、食べ続けた…何種類食べただろうか。以前にも書いたが、私はこういうことが苦にならない。むしろちょっとしたお楽しみでもある。

そして迎えた初日…。

緊張しながら、メトロを乗り継ぎ、ついにやって来た。久し振りに味わう緊張感だった。ロッカールームを案内され、シックな黒い制服に着替えると、真新しい靴を履いた。なんだかデキる女風になり、気持ちもキリっと引き締まる。制服の魔法は凄いと思う。緊張とワクワクが止まらなかった。

しかし、困ったことに制服がおしゃれ過ぎて、メモ帳を持参したのに入れるところがない…!メモがすぐ取れないというだけで、こんなにも心細いものなのか。取り敢えずそのままメモを手に持ち、売り場に降りて行った。

売り場に着き、スタッフ達に挨拶をすると、早々にショーケース越しにお客様が。

どうしよう…!と思った瞬間、

「Vas-y(いいよ、いって!)」

笑顔で後ろから声を掛けたスタッフがいた。…後ろで見守っていてくれるのは解ったが、

え、いきなり?!

と私は戸惑った。何がどこにあるかもよくわからないまま、ぶっつけ本番の接客がスタートした。

結局、何が何だか解らず、すぐに助けてもらった。そのスタッフは、私より少しだけ年が下の、明るい女性だった。私達は、すぐに打ち解けた。

ショコラの販売経験は日本でもあったが、販売方法は日本とは大きく異なった為、今までの経験はあまり活かされていなかったような気がする…。いや、少しはやったことあるぞ、という気持ちの面では支えになった。

フランスは、ちょっとしたお使い物にもチョコレートをよく持って行く。例えば週末、お呼ばれした時…花束・ワイン・チョコレート等がお使い物の定番だと習った。(アリアンスフランセーズ情報)…余談だが、ちょっと遅れて行くのが礼儀らしい。招いた方が、バタバタと用意をしているのに、早めに着いたら焦ってしまうから、とのことだった。

…というわけで、ざっくりまとめると、フランス人のチョコレート消費量は凄い。

昔、一年間の消費量を聞いたことがあったのだが、忘れてしまったので、もう一度調べてみた。

しかし、サイトや年代によって、一人当たりの消費量が4.3㎏だったり、6.4㎏だったり様々だった。そんなにバラつきがあるものなのか、知りたくなり、フランスのサイトでも調査した。

すると、チョコレート協会なるものがあり、そこがより信頼できると思ったので、これを元に発表すると…

2020年のフランスのチョコレート売上高は354,935t…金額にして33億2900万ユーロだという。そして、一人当たりの消費量は…6.4㎏!…ということは、日本によくあるサイズの板チョコは1枚約50gなので、板チョコ128枚分だ。

…あれ?128枚だけか…と、思ってしまった自分がいる。3日に一度のペースで板チョコを食べればそのくらいになるのだ。私も、結構食べているので、来年はチョコレートの消費量をnoteに綴りながら、実際に計算していこうか…。もちろん、やるなら背伸びして買い過ぎない、いつも通りの消費量で勝負したい。(誰と?)

ちなみに、日本は年間2.2㎏(2017年)。板チョコにして44枚と、控えめな印象だ。チョコレート大国・スイスは、コロナ禍の影響で2020年の消費量がここ40年で最低レベルの9.9㎏だそう。いつもは1人当たり10㎏以上いっているらしい。


大分話が脱線したところで、仕事の話に戻すと…とにかく、日本で売られているボンボンショコラは、高価なものということもあるのか、一つずつ小さな茶色の紙(パウチ)に乗っていたり、仕切りのあるトレーに一つずつ入れたものがアソートで売られていたりして、一箱に入る量も4粒だったり、9粒だったりと控えめな印象だ。しかし、フランスだと一つ一つ仕切りのついたトレーには乗っておらず、簡単な包みで良ければ、セロファン袋にポンポンと入れていくし、ちょっとしたお使い物なら、バロタンという深さのある四角い箱にぎっしり入れ、2段、3段と重ねて入れていく。もちろん、豪華な化粧箱もあり、美しく並べリボンも派手に掛けるので、迫力がある。

という訳で、お客様がいらしたら、ご注文承り時に袋なのか、バロタンなのか、包装形態を先に伺い、それから詰めていく流れだった。しかし、対面式でお客様に言われた通り詰めていく時、ある現象が起きる。

ショーケースの背が高く、奥行きがあるので、ご年配の方や、お声の小さいお客様等、よく聞こえない時があるのだ。それで、私は(外側から見たら判らないが)バレリーナの様に背伸びをしてご注文を承っていた。いくらなんでも志村けんのように「あんだって?!」と聞き返すことはできないので、確認の復唱はしっかりすることにした。復唱のポイントは、同義語を使うこと。同じ言葉を繰り返すより、確認がより確実なものになる気がした。

最初の一週間、つけようとしていた日記が、日にちのみになっていた。それほどまでに、いっぱいいっぱいで、帰宅後はどっと疲れていたのだ。


こうして、私の販売員としての生活が始まったのだった…。

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