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スカートをはけなくなった。

スカートを、はけなくなった。

学生の頃、制服にはスカートとスラックスがあって、少数派だったけれど私はスラックスで毎日学校に通っていた。あれはどういう気持ちで選んでたんだっけ。今はもう、覚えていない。

大学生の頃と、社会人になってからはずーっと。
10年もの間、私はほぼスカートしかはかなくなっていた。
特にオフィスカジュアルでは、それが「普通」だと思っていたから。

足の太さは元々コンプレックスで、むくんでいる日なんかは特にとても凄く嫌だったのだけれど、それでも自分の中で選択肢にスカートしかなかったから。
毎日当たり前のように、でもなるべく裾が長めのやつにしたりして隠しながら、「スカートをはく私」を生きた。

なんとなく。何かきっかけがあったのか無かったのか、ふと。
世の中を見渡すと、あれ?結構パンツスタイルも多い…というか寧ろその方が流行ってない??
そんな気が付き。
どちらが多数派なのか本当のところ分からないのだけれど、意識の方向が傾くと途端にそれが目に入るようになってくる。
ちょうどその頃に、会社で使うタイプの良いパンツスーツに出会えたりもした。

ロングだった髪を突然ショートにしたり。
いつもはコンタクトなのに、ちょっと眼鏡にしてみたり。それで「えっ、なんで!?!?」となる雰囲気が苦手だ。

同じように、スカートからパンツスタイルへ…という切り替えは、意外とハードルが高くて。だからこそ、職場の異動というタイミングで、それを実行した。

似合っているかはまあ別として、でもスカートよりも少し、かっこいい雰囲気は出るのでは?…やめろ、短足に見えるとか言うな。
でも毎日じわじわと嫌だった、太く見える憂鬱からはわりと凄く開放された感じがあった。

それから。
本当は、スカートの日も、パンツスタイルの日も、上手く使い分けていれば毎日の服選びで全体コーディネートの幅は広がっていたことだろう。
けれど私はかの憂鬱から逃げる道を選んで、選び続けて、ずっと共に生きてきたスカートたちに身勝手な申し訳なさも覚えつつ、目を背けた。

とはいえ、そろそろ全く使わないというのも…捨てる勇気まではないしさ。
せめて休日くらいは、はいてみようかな…なんて。

久々にスカートをはいた。
外に出て、あぁ、ちょっとドキドキする……マンションのエレベーターに付いている鏡で自分の全身をちらっと見て、…少しだけそのまま歩いて、駅に向かって…。
あれ…え……。
足が、止まった。そのまま引き返した。

「気持ち悪い」と。
スカートをはいた自分が気持ち悪いと、恥ずかしいと、そう思ってしまった。
気持ち悪い。
私にとっての呪いの言葉だ。それを自分に向けた。
「そのスカート似合うよ」と褒めてくれたあの人の言葉が罪悪感に形を変えて、前に進む足に絡みついた。

家に帰って、スカートを仕舞いこんで。いつもの慣れたパンツスタイルに戻して、少し泣いて。それからいつも通り、何事も無かったように、外に出た。

スカートをはいて外に出る。
たったそれだけのことが、出来なくなっていた。

下を向いて歩いていたら、ちょっと地面が可愛いなとか…そうやって、心が少し軽くなる。
別に無理して上を向いて歩かなくたって良いのかもね。


カフェに行く。背伸びをしたお店のドキドキ感も素敵だけれど、何度も行ったお気に入りの大好きな気持ちもまた、いつの間にかすり減っていた心を回復させるのに必要なことだ。


フロムトップ
いちじくと三河みりんのガトーショコラ

全てが可愛いの権化過ぎて心が癒される。
シンプルながら均等なヒラヒラ感とか愛おしさしかないこのお皿…お店の雰囲気とか、机、それにカップなんかも…これ以外の正解が分からないってくらい一体化してる。好きだ……。花も、映えている。

「みりん」って書いてあるのがまた謎で。興味が引かれる。そして…食べても謎!!!おもしろっ!!

コク旨というのか…私の知っているガトーショコラとは確かに何か凄く決定的に異なる。見た目から連想されるねっとり感とは違って、大きくホロッと、そして滑らか。重厚感があるけど、甘さの重みとはまた違って、濃い旨みがしつこくない。

中に入ったいちじくが、その個性に非常によく合う。結婚しろってくらい合う。何言ってるか本当に訳が分からないけど、摩訶不思議な美味しさに対面した時って脳内でそのくらいの叫びが響きあうものだからね?多分みんなそうでしょう???

完璧に美し過ぎる。
構図も何も無視して、美味しいをドドンと中心に添えるのが好きだ。必ず1枚はこういうのを撮る。

大好きなお店の、どんなところが好きですか?
フロムトップは、メニューの独自性も内装の可愛らしさも、あれもそれも、色々な全部が私にとっての癒し。絶対的に回復力の高いお店だから、時々足を運ぶ。


スカートをはけなくなった。

なんだ、そんなこと。今ある在庫がちょっと勿体ないだけで、他になんら実害は無い。これからの人生を、パンツスタイルで貫けば良いよ。
なんてさ、思うけれど…。

でもきっとそうじゃない。

友達と会う時に、「私を見れば優越感で自分を騙せるから誘ってくれたのかな」とか考えてみたり。
SNSで書かれた悪口の多くが私宛てみたいに思えてきたり。
静寂からの贈り物。自分の意識内で蔓延る葛藤に息が出来なくて、イヤホンを外せなかったり。

無限ループ。
明日が来るのが怖くて、今日が去るのが恐ろしくて。
多分、そういうことに、全部繋がっている。

スカートをはけなくなった。

それは私にとって、多分きっと凄く、…いつかは向き合わなきゃいけない問題だよね。

あぁ、それでも、大好きなカフェに行って、ちゃんと感動できる心を持ってる。持ててる。
今はそれで良きにしよう。

私は好きを、好きと言える。
スカートをはけなくても、私はまだ「好き」で武装できる。


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