2本目パフェは常識である〜L'atelier à ma façon〜
同じ日に同じ店でパフェを2本以上食べること。
多くの人にとって、それは異常なことかもしれない。
そんなこと考えもしない、という人がきっと大半だ。
けれど一部の食いしん坊は思うのだ。
「美味しいな…まだ、お腹に余裕はあるんだよな。もう一本、食べたいんだよな」
けれど、その気持ちを我慢する。
恥ずかしいから。普通じゃないから。
だから、お店がちょっと後押ししてくれたなら。
「2本目の注文も全然OKですよ」と言ってくれたのなら――。
さて、昨日はパフェの凄過ぎるお店L'atelier à ma façonのことを書いた。
で。語り切れないから3本仕立てにするね、と。
本日はその2本目。
L'atelier à ma façonでは、「2本目以降限定」というパフェが存在する。
凄ぇ…「食べてもOK」を飛び越えて、「このパフェは2本目からじゃないと駄目!」と、もはや2本食べることを常識としている。
強気すぎる。
世界がひっくり返って、同じ世界なのに全然違う世界になってしまったような気持ちになる。
つまり、凄い。
以前にも一度、2本目限定をいただいたことがあって、それがこちら。
春を告げる苺と桜と蓬のグラスデザート
まさに桜餅を想起させる始まり。
春の塩味。春の甘さ。
今度は同じグラスを使って、共通した軸を持ちつつも全く違う題目を演出する。
黒胡麻の小さなモンブランと黒胡麻プリン
強そう。
硬質というか、質実剛健なパフェ。
ちょこっと話が脱線するけど、少し似た雰囲気のカッコイイパフェを思い出す。「JOTARO SAITO 」という着物ブランド?の運営するカフェ。
かっこええ。
どうして黒ってやつはこう……。
薄いパリパリは――、なんだ…これは。
薄い!!どうやったらこんなに薄いものが出来上がるんだ!!
薄く塗り広げた糊をぺリぺリと剥がすと、こんな感じだ、多分。
そして、アマファソンらしいメレンゲの味わい。
ここのメレンゲって、なんだか不思議で独特。
そもそもメレンゲって、柔らかい甘さがホロシュワッと口の中でほどけるように消えていくお菓子で、小さな子からお年寄りまで幅広く楽しめるお菓子だと思う。
これも、まあ食感とか大まかなところはその通りなのだけれど。
もっとセクシュアルというか。
小さな子供や、スイーツにあまり食べ慣れていない人は、「ん...?食べ慣れた知ってるメレンゲとは、違う」と戸惑うのではないだろうか。
だから万人受けとも言い難いかもしれないけれど、その分一層、好きな人を深く強く魅了する。
パリパリ&サクサクな鎧をまとって、タイトルにもなっている「モンブラン」らしきものを発見する。
黒胡麻のペースト。
ギュウッと甘さが詰まっていてモッチリで、中には…なんだ?
黄緑色の、何か。君は誰だ。
その下のパリパリは、なんだ。
説明分に「焦がしきなこ」って書いてあるけれど、お前がそうなのか???
頭の中が?????で埋まっていく。
毎日こうして偉そうにスイーツのことを語っているくせに、全っっっ然、理解が追いつかない。なんだこれ、凄い、これほどに「分からない」に溢れた、それでいてバッチリ美味しいスイーツ、なかなか出会えないよ。
人は「全てを知り尽くしたい」という欲求と同時に「分からない」ことへの強い憧れもある。人生経験が中途半端に豊富になると、何でも分かって気になって、とてもツマラナイに満ちてしまうから。
この「分からない」にはとても価値がある。
いや~・・・でもやっぱり知りたい、教えて、シェフ!!!
さらに分からないが続く。
この真っ白な泡。
ただの味気ない泡にさ、見えるじゃん。
超、超!味が!!濃い!!!
鋭い、キレッキレの酸味。柚子。
泡をフワリとすくって口の中に放り込んだ瞬間にはその存在はもう消えているのに、電撃のような爽やかな酸味の刺激の名残がファッと広がっているのだ。意味が分からない。
フッと、透明だった世界に色がつき始める。
新しい甘さがやってきた。これは少し懐かしい。甘甘しょっぱいみたらしだ。
そういえば、みたらしを使ったパフェなんて食べたことがない。黒胡麻とみたらしのコンボだって、合いそうで、でもそれほど定番の組み合わせではないと思う。
どちらもお団子を想起するけれど、それは別の味として存在する。「黒胡麻&みたらし」ではなく、「黒胡麻」と「みたらし」なのだ。
既存から生まれる新しさ。
一体どれほどのインプットとアウトプットを研鑽すれば、こういうことが実現できるのか。
そして今度はまた、黒胡麻。その濃いなめらかさはプリンというよりも、ババロアとかパンナコッタに近いかもしれない。
冒頭では、あまりに出会ったことのない、未知に満ち過ぎた黒胡麻の連投でドギマギしつつスプーンを進めていたのだけれど。
今度の登場では、シンプルに黒胡麻。
どっしりと構えている。
あぁ、ああ。
軸のしっかりとした、己が生み出すのはこういう物語だとハッキリと伝えてくれるパフェ。
すばらしい。
「パフェを1日2本食べるなんて常識はずれだ」なんて凝り固まったくだらない常識に囚われてこんな芸術を逃すなんて、とても愚かだ。
スターバックスやタリーズなど、色々なチェーン店で、「本日中にもう一度来てくれたらドリップコーヒーはお得だよ」みたいなサービスが採用されている。
それがあるから、例えば朝に珈琲を飲んで、お昼にも…というルーティーンをもつことは普通になった。そうでなければ、「さっきも行ったのに…また行ったりしたら恥ずかしいかな」なんて。私なら、思う。
とある工夫が人々の生活行動を変え、日常を変え、常識を変え、文化を創造してきた。
そういうことに想いを馳せてパフェに臨んでみるのもまた一興。
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