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〔公開記事〕藤島眞喜子『じゃじゃ馬馴らし』(典々堂)

優しいふりして

 第一歌集。約三十年間の三九一首を収める。仕事、家族、趣味と詠われる素材は幅広いが、特に心の機微を植物に託した歌に心を惹かれた。
二人いてなお寂しかり道端の柚子ひと盛りを購(か)いて帰りぬ
とめどなく散りゆくさくら手に受くる失いしものかぎりなけれど
百合の花みな向きむきに咲き盛り己ひとりの香を放つなり
 これらの歌には作者の深い孤独感が滲む。一首目、一人の孤独は二人になっても癒されない。ひと盛りの柚子は心の空洞を埋めてくれるかのようだ。二首目、失ったものは散っていく桜の花びらのようなもので、手に受けても持ち続けることはできなかった。三首目、百合の花がそれぞれの向きに香を放つさまに人の孤独と矜持を重ねる。
海桐花(とべら)咲く荒崎海岸刻まれし乙女らの名を指にてなぞる
 重いテーマの歌も花の名で始まり、声高ではない。沖縄で戦争に命を奪われた若い女性達を思う。彫られた名前を目で見るのではなく、指でなぞるところに実感がある。
水鳥が動けば光も動くなり年のはじめの小池めぐれば
としどしに祭りの賑わい失せてゆく築四十年の限界マンション
カシミヤのストール纏い心まで優しいふりして逢いにゆくなり
 知的な把握の歌も光る。水鳥と光の呼応が美しい一首目。祭りの衰退から「限界集落」ならぬ「限界マンション」という語を導き出す二首目。カシミヤの優しい肌触りを描く三首目。自分の心は優しい「ふり」をしていると詠うが、それが積み重なり本当の優しさになるのではないだろうか。

典々堂 2022.7.     2500円+税

『うた新聞』2022年12月号 公開記事

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