川本千栄

「塔」編集委員。短歌と短歌評論。第20回現代短歌評論賞受賞。歌集『青い猫』(第32回現…

川本千栄

「塔」編集委員。短歌と短歌評論。第20回現代短歌評論賞受賞。歌集『青い猫』(第32回現代歌人集会賞)『日ざかり』『樹雨降る』『森へ行った日』(ながらみ書房出版賞・日本歌人クラブ近畿ブロック優良歌集賞)。評論集『深層との対話』『キマイラ文語』。第五歌集『裸眼』2024年7月刊行。

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『Lily』vol.3

とてもとてもいい色の表紙。 ①どうしてと幼い口の問いかけに二割答える皿洗いつつ 魚谷真梨子 子どもが「どうして」ばかり言う時期ってある。最初は丁寧に答えていてもだんだん付き合い切れなくなって来るのだ。「二割」というのが具体的でちょっと悲しい。十割向き合いたいのだけれど。 ②ねがいとか持たずにいると旅人になれるか夜風 背中をさらす 江戸雪 この歌での「旅人」はただ旅をしている人というだけでなく、場所や人に執着を持たない人、という印象がある。自分の人生の中をさまよっているよう

    • 『まいだーん』vol.10

      ①法律上死亡とみなす手続きを説明す その夫に、その子に 松本志李 職場詠。出奔して行方不明になった妻、母。彼女を死亡と見做す手続きを説明する主体。非情に見えても、仕事として淡々とこなすしかない。夫を子を置いて出て行った人の心情を少し思いながら。 ②夕方の色を見下ろす 十代を美化しないって心に決める 上澄眠 夕方の街ではなく、色を見下ろす、というのがいいと思った。高い所にいる印象だ。しっかり心に決めておかないと、十代をつい美化しがち。その時はそれなりに苦しかったはずなのに。

      • 『風』秋2024年9月号

        ①「島根の推し歌人」 でも、楽しかったんだよな。翅音できみを怖がらせていた頃は 田村穂隆 二人の関係性が変化した。以前はささいな事で相手を怖がらせていたが、今はそんな反応を返してくれなくなった。もう以前の二人ではない。句跨りだが、きっちり31音なのが快感。 ②「島根の推し歌人」 聞きたい音ばかり聞く耳に聞かせたり鋏の刃先の重なる音を 丸山恵子 この耳は誰の耳だろうか。誰の耳元で鋏をカチカチいわせたか。強い警告の気持ちが感じられる喩だ。聞き・聞く・聞かせの繰り返し、ハサミ・ハ

        • 『白珠』2024年9月号

          安田純生「「さす」と「さる」」 〈もともとの言い方は「理解せさす」あるいは「批評せらる」であって、「理解さす」あるいは「批評さる」といわなかった〉  これは難しい。明治の文部省告知で許容できることになってるらしいが。皆が間違って使ってたということですよね。 2024.9.11. Twitterより編集再掲

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        記事

          『方代研究』第75号

          大井学「「山崎方代」という嘘」 〈現実に存在している方代が、歌という詩の中に「方代」を歌い込む。そこにおいて現れてくるのは、方代その人ではなく、自分自身または読者の目に映る「方代」だ。〉  短歌の私性とも深く関わる問題。  自分自身をキャラクター化して「方代さん」という登場人物を作った。土屋文明にも「ツチヤクン」の歌があるが、この手法を本格的に始めたのは山崎方代だということはもっと語られてもいいと思う。 2024.9.11. Twitterより編集再掲

          『方代研究』第75号

          映画『セッションマン』

           映画『セッションマン ニッキー・ホプキンズ ローリング・ストーンズに愛された男』見て来た。有名なあの曲もこの曲もニッキーだった!本当にびっくり。しかも重い病気と闘いながらの人生だったなんて。映画は語りが多めかな。ニッキーの演奏をもっと聞きたかったよ。 2024.9.10. Twitterより編集再掲

          映画『セッションマン』

          『かりん』2024年8月号

          郡司和斗「短歌のなかの共時者性」 〈真の当事者や完全な当事者、第一の当事者を設定することには無理がある。というよりも、どのような出来事に対しても当事者性をゼロにすることのほうが難しいだろう。〉  後半、確かにその通りだと思う。  これに対して「共時者性」という語が紹介されていて興味深く思った。当事者性を重視すれば弾かれてしまうだろう社会詠も、この語で肯定することができる。例歌とその捉え方も納得がいった。題詠的社会詠に切り込んでいて、色々考えさせられる論だ。 2024.9.6

          『かりん』2024年8月号

          『白珠』2024年8月号

          安田純生「補足のようなもの」 〈尾上柴舟の歌の初句の「生き残り」には与謝野寛や金子薫園など、落合直文を知る人が次々他界していく中、自分だけは寂しく生き残っているという感慨がこもる。〉  ここにあがっている人々の交流の深さに驚く。落合直文の持つ人脈の濃さ。  同論の、金子薫園が昭和二十六年、尾上柴舟が昭和三十二年没、というのも改めて驚く。二人共、歴史上の遠い遠い昔の人物という感じなのだが、戦後まで存命だった。それもそうだ。近代短歌史は案外短いのだ。『みだれ髪』から終戦まで45年

          『白珠』2024年8月号

          角川『短歌』8月号に『裸眼』広告

           現在発売中の角川『短歌』9月号にも川本千栄『裸眼』の広告を載せていただきました。ありがとうございます!カドカワストアHP、Amazonでお求めください。よろしくお願いします。 2024.9.9. Twitterより編集再掲

          角川『短歌』8月号に『裸眼』広告

          『うた新聞』9月号にて

           現在発売中の『うた新聞』9月号に「作品時評 記憶だけではなく」を寄稿しています。同紙8月号の横山季由、東直子、菅原百合絵ら十氏の作品について論じています。ぜひお読み下さい。6ヶ月の連載の最終回です。6ヶ月間ありがとうございました。 2024.9.9. Twitterより編集再掲

          『うた新聞』9月号にて

          映画「ビートルズの軌跡」「OneLove」

          映画「ザ・ビートルズの軌跡 リバプールから世界へ」   京都でも上映していたのに見逃して宝塚近辺まで行った。レビューに「よほどのマニアでなければ面白くない」と書かれていたので、「それなら私が…」と謎の使命感に駆られて行ってきた。  結論を言えば、これはこれで良かった。というか、わたし的には好きなタイプの映画。嫌いな人がいるのも分かる。こういう作りのドキュメンタリー映画ってあるね。タイトルの本人は出て来ず、周辺の人の後日のインタビューが中心。この映画ではピート・ベストの哀愁が沁

          映画「ビートルズの軌跡」「OneLove」

          ニコ・ニコルソン『呪文よ世界を覆せ 1 』(講談社)

           売れない芸人が短歌で人生の逆転を目指す、そんな帯の裏の引用作者名を見ると、好きな歌人である前田透の名前があり驚いた。まさにイマな漫画の中に戦後活躍した歌人の作品が引かれているなんて。  そう思って読み始めたが、何とストーリーの中で、一番最初に引かれている歌は 手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が 河野裕子  だった!出会いの場面に引かれたこの歌はやはり美しく、絵とも調和してお互いに引き立て合っている。どんどん引き込まれて読んでいった。この1巻に引用さ

          ニコ・ニコルソン『呪文よ世界を覆せ 1 』(講談社)

          『水甕』2024年8月号

          前田宏「前田夕暮の足跡 第一回」 〈諸家により書かれてきた様々な夕暮論考では未だ触れられていない事柄についても、積極的に取り上げていく。〉  前田夕暮の作品はもっと読まれてもいい。常々そう思っていたのだが、このたび孫の前田宏による連載が始まった。 〈幼い夕暮に「鉈」が現れた最初の出来事であったろう。〉  夕暮の祖父・父・本人の性格を表す「鉈」というキーワード。とても面白い。また、明治の文学青年に新派和歌がどのように受容されたかについても丁寧に描き出されている。これからの連載が

          『水甕』2024年8月号

          『うた新聞』2024年8月号

          ①田中拓也「読み方を教える」 〈私も短歌の創作を主にした授業を行ったことは何度もある。だが、創作した作品を相互鑑賞する場を設けても、短歌の完成度より共感を集める作品の方が生徒間で高く評価される傾向が強かったのも事実である。〉  中学二年生の国語の授業で短歌の「読み方」を教えた、という話。この創作した作品の相互鑑賞の話は、短歌の授業を受けた中二の生徒だけの話ではないと思った。私自身も含めた歌人の相互鑑賞の時にも同じことが起こっているのではないか?  著者が「読み方」を教えた後、

          『うた新聞』2024年8月号

          『現代短歌新聞』2024年8月号

          ①「入場」が唐突に来て少し焦る卒業式は急に始まる 川上まなみ 生徒が廊下に並んで、前のクラスから順に体育館に入って行くのだが、後のクラスほど急に詰めなければならなくなって、突然入場することになる…という場面かと思う。心の準備が出来る前なのに。 ②一人ずつ流れるように壇上へゆけば眩しい弥生のひかり 川上まなみ 教え子たちが事前練習通りに流れるように壇上へ上がって行く。それを教師として下から見上げている主体。ありきたりな言い方のようだが「眩しい」としか言えない「弥生のひかり」な

          『現代短歌新聞』2024年8月号

          角川『短歌』2024年8月号

          ①雨を見ているときだけ雨の音がする雨はいつでもここを降るのに 川上まなみ 認識のあり方の歌。雨を見ている時、つまり雨を意識している時は雨音が聞こえるが、それ以外の時には聞こえない。「ここを」の「を」の使い方に工夫がある。 ②宗教も風土の歴史もしらぬわれを子供の泣き顔ぐわんぐわん叩く 米川千嘉子 欧米人のガザへの対応と日本人のそれとの違いが自分を通して詠われる。自分の身についたものも、存在を賭けるものも、何も無く、ただ子供の泣き顔に感情を揺さぶられているという解釈だ。 ③た

          角川『短歌』2024年8月号