マガジンのカバー画像

短歌結社誌『塔』感想文

166
自分の所属する、短歌結社誌『塔』を読んで、好きな歌の一首評をしたり、気になった記事の感想を書いたりしています。
運営しているクリエイター

記事一覧

『塔』2024年7月号(3)

⑭じゃあちょっとアンパンマンを呼びますと駅のトイレに冷静な声 黒澤沙都子 絶賛イヤイヤ期…

川本千栄
1か月前
5

『塔』2024年7月号(2)

⑦笑みよりも涙の方が守備範囲広いってことこの歳で気づく 落合優子 うれしい時も悲しい時も…

川本千栄
1か月前
4

『塔』2024年7月号(1)

①花山多佳子「今月の歌」 人生百年と言へば聞こえはよけれども老年が長くなるだけのこと 石…

川本千栄
1か月前
8

『塔』2024年6月号(2)

⑫壊れたとわかるくらいに壊れたし川の水位を戻しゆく雨 吉田典 晴れ続きで下がっていた川の…

川本千栄
2か月前
7

『塔』2024年6月号(1)

①お互いが思いやりを持つテーブルはどうして少し寸劇のよう toron*  普段の何気ない時と違…

川本千栄
2か月前
6

『塔』2024年5月号(2)

⑨遅れいるバスを待ちつつひとびとは雪降る街に晩年を待つ 松本志李 雪の中、バスを待ってい…

川本千栄
2か月前
5

『塔』2024年5月号(1)

①思ひ出なんかぢやないもつと大切なもの諸共に家が倒れる 山下好美 思い出という言葉は記憶の一部、良い記憶を表している。今、地震と共に倒れていくのは、記憶ではなく、今の生活、日常そのもの。大切なものとしか言いようのないもの。それと共に家が倒れていくのだ。 ②今朝のバスに乗り込む人ら髪に服に雪の骸をまとはせ光る 加茂直樹 朝、バスに乗り込んでくる人の髪や服に雪がついている。その雪はしばらくすれば溶けてしまう。そんな今にも消えそうな雪を「雪の骸」と表現した。骸は不吉な語だが、結句

『塔』2024年4月号創刊70周年記念号(3)

⑭きんのゆげ 臓器をこぽこぽあたためるために冬のむアップルティーの 上澄眠 初句の平仮名…

川本千栄
3か月前
8

『塔』2024年4月号創刊70周年記念号(2)

⑥飛行機はこれほど燃えるか燃えるだらう夜空にのぼる炎見るのみ/使命帯び被災地へ飛ぶ五人(…

川本千栄
3か月前
5

『塔』2024年4月号創刊70周年記念号(1)

①特集:座談会「百葉集を読む 2019-2023」) 「死にたい」とツイートしてから消した人がヤギ…

川本千栄
3か月前
5

『塔』2024年3月号(3)

⑰動物と触れ合うカフェとう風俗がある 今、どこ?今、もう原宿駅 丸山恵子 5/8/5/8/8。四…

川本千栄
4か月前
5

『塔』2024年3月号(2)

⑧夢の中で不誠実だと責めていたあの日笑って許したひとを 田宮智美 自己を殺して無理に許し…

川本千栄
4か月前
10

『塔』2024年3月号(1)

①内臓のいちばんちかく似たやうなくちびるの色ばかり購う 藤田ゆき乃 内臓は口から一本の管…

川本千栄
4か月前
9

『塔』2024年2月号(3)

⑯中本久美子「私の先生」 〈「なんで辞退するんだ。君に入れた後輩の気持ちはどうなるんだ。」と。「私なんかとてもとても」と言うと「どうして自分のことをなんかって言うんだ?失礼だろ。自分に対しても。」〉  著者が部長を辞退すると言った時の先生の反応。とても響く文。 〈音符と音を一致させていく。楽器の音が読めるようになる。表情を読む。(…)指揮する時自分は何を感じ、どう表したいかを持つことだと。音は自分の中で映像になる。〉  ここも良かった。著者は吹奏楽部の部長になり、指揮を先生か