「言葉の深み」はどこからくるのか? 工芸品職人さんとの対話から。
「後悔などあろうはずがありません」
2019年3月、既に伝説となっている元メジャーリーガー、イチロー選手が引退会見で発した言葉です。
あれほど長い現役生活、28年もの年月でした。人生のかなりの部分を占める期間の中に、普通は一つや二つ、心残りがあってもおかしくないはずです。
でも、イチロー選手の言葉を聞いて、違和感を感じる人はまずいないでしょう。その言葉が心にストンと落ちてきます。
そして、その言葉の背後から想像されるイチロー選手のひたむきな姿が私たちの心を打ち、言葉から「にじみでるもの」はじんわりとした感動をもたらします。
その「にじみでるもの」とは、言い換えれば「言葉の深み」ともいえるでしょうか。
現在、パリ五輪が開催中です。柔道や体操など、日本人選手が金メダルを獲得した競技もありますね。
メダルを獲得できた、できなかったにかかわらず、日本を代表してプレーする選手の皆さんの姿は、私たちに勇気を与えてくれます。
どんな競技でも、特に最終結果が出た試合後のインタビューでは、多くの選手たちがこみ上げてくる思いと向き合いながら、力強く実直なメッセージを発信して私たちの心を動かします。
それには、イチロー選手の言葉から出る「深み」と同様のエネルギーを感じます。
スポーツ選手と職人さんに共通すること
ちよはち商店の開業準備を進める中で、多くの職人さんや生産者さん、事業者の方々とお会いしました。
そういった方々とお話させていただいていると、言葉の節々にイチロー選手やオリンピック代表選手が発する言葉と共通したもの、つまり「言葉の深み」を感じます。
職人さんや生産者さんは、私たちに対して製品や生産物ができあがるまでの工程や特徴、今に至るまでの道のり等をざっくばらんにお話しして下さることが多いです。
私たちはその内容をしっかりお聞きするのはもちろんですが、それ以上に、発する言葉そのものが持つエネルギーを感じていまい、心をつかまれてしまいます。
単純に情報が頭に入るのではなく、心が言葉に反応しているという感覚。図らずも言葉の裏に隠された過程を想像してしまい、それに心動かされる感覚、とも言えるでしょうか。
それほど、職人さん方々の持つ言葉の深みというのは凄いものがあります。
言葉の深みをもたらすもの
では、職人さんや生産者さんの持つ「言葉の深み」はいったいどこからくるのでしょうか。
個人的には、「自分を高めるために向き合った膨大な時間」がその礎になっているように思います。
工芸品であれ特産品であれ、一つの製品を企画し、完成させて世に出すまで、何百・何千・時にはそれ以上の試行錯誤が繰り返されています。
そもそも、試行錯誤できる段階(=ベースとなる技術の習得)に至るまでに10年単位の年数を要するとお聞きしたこともありました。
「もっと良いものを作りたい」
「昨日より今日、今日より明日、より精巧なものを」
そんな思いで、日々己の技術を高めるためにものづくりに向き合ってこられた方々の品々が、私たちの地元鹿児島にはあります。
そんな品々が私たちの手元に至る背景には、血や汗や涙をともにしながら、自分と向き合ってこられた職人さんや生産者さんの果てしない試行錯誤の日々があることを、お会いさせていただく度に思い知らされます。
発せられる言葉の一言一言に、膨大な時間を礎とした自信・誇り・矜持・覚悟、他にも様々なエネルギーが掛け合わされ、それが深みとなって現れているのではないでしょうか。
己の技術を高めるために向き合い続けてこられた方々に対して、尊敬のまなざしを送らずにはいられません。
今回は、「言葉の深み」はどこからくるのか? という内容でお話いたしました。
ちよはち商店は、作り手の方々と使い手の皆さまをつなぐ存在として、私たちが感じたことや心を動かされたことも今後も紹介していければと思っています。
"日常に彩りを" ちよはち商店、ただいま開店準備中です。
ちよはち商店 代表 田中