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即決にはうまい棒。我儘には金。

車を買った。人生で初めて。
ずっとカーシェア派だった。絶対マイカーよりカーシェアの方がいいだろと居酒屋で友人に豪語してきた。そのせいだろうか。最近はカーシェアユーザーが増えすぎて予約が取れなくなった。自分の影響力に恐れ入る。

ということで、乗りたいときに乗れるようにするにはマイカーしかないと思い立ち、中古車販売店に向かった。カーセンサーで目星はつけた。

先に電話をしていたから、着くや否やその車に案内され、運転席に座ったり傷がないか確認したりした。文句なしだった。予算以内。外観も内装も綺麗。人の手に渡る前に決めたいと思った。

「これにします」

「即決ありがとうございます!」

手続きをしに店内に入ると、本日キャンペーン中と言われて駄菓子の掴み取りに参加することになった。小ぶりな紙袋を渡されて好きなだけ入れていいと。

当然悪い気はしない。子供用のビニールプールにうまい棒を中心に駄菓子が山積みに。ギリギリ恥ずかしくない程度のパンパン具合まで攻めた。

着座すると手続きに。
色々と記入していると担当が席を外した。
書き終えた僕は暇になってボケっと周りを見渡していると、奥に個室のような商談ブースが。しかめっ面のおっさんが電卓を叩きながら担当者と何か喋っている。

何を話しているか分からないが、恐らく値引き交渉中らしい。担当者が首を傾げながら退席し、オフィスに入っていった。おっさんは電卓を置き、手元にあるキャンディをイジる。手持ち無沙汰で落ち着かない様子だ。

そこに担当者が戻り、何やら見積もり書のようなものを渡すと、おっさんが再び電卓を触りだす。

僕は読唇術には通じていないが、ビギナーズラックを信じて勝手に読み取ったところによると、おっさんはまだ値引きたい様子。担当者はこれ以上厳しいという反応。

それでも担当はもう一度席を外し、オフィスに入っていく。再びおっさんは電卓を置く。外の景色を見ながらあくびをしている。

担当者戻る。見積もり書を渡す。
おっさんは首を傾げながら電卓を叩き、結局「これにするわ」的な雰囲気を出しながら担当者に紙を返した。担当者は頭を下げてオフィスに戻った。

そんなこんなで時間を潰していると、僕の担当者が戻ってきた。このまま手続きを進めますと。

あれ、俺めっちゃ損してないか。即決したせいで値引き交渉の余地が全く無くない?今さら渋るシーンが全くないんだが。

てかこんな大きな買い物を即決した俺の勇気は誰にも讃えてもらえないの?むしろ渋って渋って、計算したふりしてるあのおっさんが得をして、この勇気ある若者は損して帰るの?

商売って不公平だよなあ。
そりゃ車売りたいんだから、最初から買う奴より渋ってる奴に力注ぐよなあ。

これってあれだな。恋愛と一緒。
真面目で一途な僕より、ちょっと遊んでるキケンなあいつがモテるアレね。

あと大体キケンな男のほうが可愛い子と付き合うんだよね。自分のこと真っ直ぐ好きな奴とかいっぱい見てきてるから、絶妙に振り回される奴に惹かれていくんだよどうせ。

だから即決の僕はうまい棒を、我儘なあいつは金を手にして帰るんだ。それと一緒。

だいたい車の購入の特典が駄菓子詰め放題は割に合わんやろ。どうなってんだよ。せめて「即決した人にはもれなくプレゼント!渋ったやつは参加できません!」くらい書いてくれ。

帰り際、店の出口まで歩いていたら、あのおっさんが駄菓子詰め放題やってた。袋が張り裂けそうなくらい詰め込んで。

んだよ。

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