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「蠱峯神」(やねがみ)



<ツボ1> バックヤードの話の続きが気になる


建築工法のひとつに「曳家」(ひきや)という建物ごと移動させる工法があります。
ちょうど、青森県の弘前城が石垣の大修繕のため、天守閣を「曳家」で移動していますね。

この「曳家」という生業を通して、様々な物件に関わりながらお話は進みます。

ただ、このシリーズに登場する「曳家」は普通の物件とは違って、因縁がらみのもので、怨念が絡んでいたり、神が宿っていたりと、深いいわく尽きの物件ばかりなのです。

その「曳家」を執り行う、特別な流派・隠温羅流(おうらりゅう)の鐘鋳建設の社長・仙龍と広告代理店・営業の高沢春奈(はな)が中心になって、数々の因縁物件に取り組んでいきます。

特別な流派の仙龍導師といわれる立場でもあり、因縁物件を曳家す時に指揮して先導する役目にありますが、なぜか、隠温羅流(おうらりゅう)の導師の寿命は厄年の42歳までなのです。

春奈サニワと言われる霊や神などと交信できる特殊な能力をもち、本人はまったくその能力に気づいてなかったのに、仙龍と出会って、特殊な仕事に関わっていく中で、否応なしに、それに目覚めさせられてもゆきます。

なぜ、隠温羅流導師の寿命は42歳なのか?
仙龍春奈、二人の関係はどうなる?


おおまかにこの2点が、シリーズを通して少しずつ進展してゆき、その先が気なって仕方がないのです。

タイトルごとのメインストーリーは完結していきますが、バックヤードに続く話にも確実な進展があり、続きを読まずにはいられなくなります。

ついに、この巻ではその核心を突くまでになりました。

ホント、読んでて良かった!
ていうか。夢中になってあっという間に読んでしまったのですけどね。




<ツボ2>土地の伝承に触れて民俗学の域にまで及ぶ

お話しの中心は信州・長野県ではありますが、この巻においては、遠く岡山や島根にまでおよび、地理的にも歴史的にも壮大な規模になってきました。

全編を通して、その土地に根付く霊や神様に起因があり、歴史を大きくさかのぼるという所に醍醐味があります。

例えば、私が小さい頃から、祖母によく言われていた事があります。

「霊柩車出会ったら、親指を隠せ」

親が早く死んでしまったり、親の死に目に会えない、縁起が悪いとか
いわれる迷信



「来年の事を言うと鬼が笑う」

将来のことはわからないのだから、あれこれ言っても意味がない。 予測できない未来のことを言うと、鬼がバカにして笑う

「夜に新しい履物を下すな」

夜に新しい靴をおろすのはお通夜や旅立ちを連想させてしまい、縁起が悪いとされていました。


ぶっちゃけ全て迷信かとは思うのですが、慣用句などもそうですが、必ず最もな理由はあるはずで、その先の災いを避けるために必要だから、私たちの先祖が脈々と子孫に言い伝えてきた伝承なのです。

これらの伝承は、どこでいつ生まれたか?
必ず起因があって、場合によってはそこから派生して別の伝承になったりして、だから今こうなのか!
といった、もし掘り下げて調べたら面白い発見があるかもしれません。

このシリーズはこういったところを、毎回、掘り下げて調べて起因を突き止めて、伏線を回収しています。




<ツボ3>たたら製鉄を神事としている

たたら製鉄は、ジブリ作品の「もののけ姫」にも登場シーンがありましたが、日本で古代から近世にかけて発達した製鉄方法です。

私が興味を持ったきっかけは、15年ほど前に、司馬遼太郎「街道をゆく」ー砂鉄のみちーを読んだ時からです。

島根県を訪れた司馬さんが、たたら遺跡にて、日本古来の製法や日本刀などに見られる、純度の高い良質な鉄を作るにあたり、どれだけの知恵と苦労があったかを辿ります。

最後には、遺跡の地層に残る当時の人々の営みを目の当たりにして、深く感動した様子が、これまた見事な筆致力で表現されています。

製鉄のためには「」がいる。それを起こすためには「」がいる。燃やすための材料として「」がいる。その原材料の「」がいる。

たたらを生業とする者は、住み着いた地域の山を丸裸にした後、原材料のを求めて森林地帯を転々としました。
幸いなことに日本は、気候がら約30年ほどで森林は復活すると言いますので、生態系が崩れない限り、その原材料は無限なのです。

たたら製鉄の民たちは、まさしく日本の大自然と密接に関係していて、何よりも大切に守り、古来より、山、風、水、火など、自然の成り立ちの中にはが宿ると信じられてきました。

で、本題に戻りますが、この巻では、私にとって大好物の「たたら製鉄」に触れていて、それは神と一体になった神事であるという、これまた大きなロマンある話になっています。

そう!
バックヤードの骨子がたたら製鉄に繋がってゆくのです。




<ツボ4>今考えるべき”真に大切”な事に触れている

大ヒットしコミック&アニメ鬼滅の刃も、「ナルト」や「ブリーチ」など見てみると、所詮マンガですから、と侮れない深い所を突いています。

鬼、神、霊なども元々は人であったし、どうしてそのようになってしまったかを悲哀のこもった起因で描かれています。

という事は、人が持つ”業”とか”願い”とか”信念”とかが、向く方向によっては禍々しいものになったり、静謐なものになったりするわけです。

それぞれを深読みすると、生き方そのものによって、死後の姿は変わるという所に面白みがあります。
ちょっと宗教っぽいジャンルになってしまいますが…

このシリーズの各タイトルのメインストーリーも、最初の1巻の冒頭から、エグイ残酷シーンが描写されて、なおかつ、とても恐ろしい心霊現象もも重なり、思わず眉をひそめてしまうほどです。

「エグ過ぎるから、この1冊だけでやめよう」

と、思ったものの、やめられなかった。
その理由としては上に挙げた3つのツボと、もひとつは全編を通しての深い”悲哀”です。

それはもしかしたら、誰にもあり得るちょっとした運命のいたずらであって、自分の人生にもカスっているかも?とさえ思えるのです。

だから余計に、その者たちの哀しさや無念さを身近に感じ取り、ざわつくような感動を覚えてしまいます。

人は人生を、どのような信念を持って、何を求めて進むのかという生き方の核心を突いているのです。

筆者の内藤了さん、すごいとこ突いてきたなと感心してしまいました。
次回は最終巻という事で、初冬に発売予定らしいですが、今から待ち遠しくてたまりません。


以下、過去のタイトルの一言感想です。

よろず建物因縁帳シリーズ 過去の全タイトル (2021.8月現在)

(1)鬼の蔵 【かくれんぼが怖い!】
(2)首洗い滝 【深い夫婦愛が成した恐ろしい事実】
(3)憑き御寮 【怨霊となったあまりにも辛い理由】
(4)犬神の杜 【逃れられなかった宿命を断ち切った姿に泣ける】
(5)魍魎桜 【一途な思いが恐ろしい怨霊となる】
(6)堕天使堂 【海外の悪魔VS日本の神】
(7)怨毒草紙 【業を込めて血で書かれた絵の祟りは恐ろし過ぎる】
(8)畏修羅 【いよいよ核心に触れる行動を起こす】


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