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夏のボサノヴァ

もう7, 8年ほど前になるでしょうか。

夏祭りのステージイベントのファイナルに 小野リサさんの無料ライブが開催されるという情報に目が留まりました。

小野リサさんはブラジル サンパウロ生まれの日本人ボサノヴァ歌手です。
10歳までの幼少期をブラジルで過ごし、15歳からギターと歌を始め、27歳でデビュー。
日本におけるボサノヴァ音楽の第一人者として、以来 三十数年、現在でも活躍されています。

私も以前から大好きでCDをよく聴いていました。
これはなんとしても行かねばなりません。


当日は梅雨もすっかり明けてよく晴れた 猛暑日でした。
昼間はジリジリと太陽が照りつけ、熱くなって地面を跳ねた空気は熱気となり お祭りは大盛況でした。

ライブは夜だったけど、会場の広場はすぐにいっぱいになると踏んで早めに行き、お祭りのはしゃいだ雰囲気も味わいました。

子供の頃、お小遣いをもらって近所の神社のお祭りに行くのは夏の特別な楽しみでした。
暑さも人混みも苦手なのだけど、露店がずらりと並ぶ雰囲気は今でもわくわくします。

冷たいものと熱いもの、甘い香りと香ばしい香り、和太鼓の音と人のざわめき、おとなとこどもが一緒になって夢中で追いかける金魚… そんないろんなものが混ざり合ったムンムンとした賑わいはお祭りならではですね。


日が傾いて夕暮れ時になると、火照った肌を宥めるような風が ごめんねとそろりと撫でてゆきます。
ちびっこや そのパパやママたちは、もうぐったりと遊び疲れ、徐々に人が入れ替わります。

広い会場はあっという間にいっぱいになりました。芝生に腰を下ろし足を放り出す開放感。
ピンクの空がしだいに暮れていくのを眺めながらライブが始まるのを待ちました。
空が暗く低くなっていくのに逆らって、気持ちは明るく高まっていきます。
音楽は好きだけど、そのころライブに出かける余裕はなくて なかなか叶いませんでした。


ステージが照明でパッと明るく照らさると、バンドメンバーがスタンバイ。
会場は静まり観客の視線はステージへ集まります。
そしてリサさんが登場すると 大きな拍手に包まれて、後ろのほうからピュィーーッと高い指笛が響きました。

そっと優しく音楽が始まります。

いつぶりだろう、こんな時間を過ごすのは…  じーん 。

目の前のステージは確かなものなのに、夢を見ているように流れて ただうっとりと聴き惚れていました。

軽やかなリズム、囁くような歌声、心地よい演奏、溢れる笑顔、それらのハーモニーは 夏を中和してしまうほどに爽やかでした。

ときおり挟まれる 現在進行形のトークや、ステージと客席が一体となる感覚は やっぱりライブならではですね。

気がつけばいつのまにか あたりはとっぷりと暮れて星空です。
1時間半たっぷり音楽に酔いしれて、帰り道も余韻でふわふわとしていました。

なんて贅沢で平和な夜だったんだろう。

ボサノヴァを聴くと夏の香りが蘇り、
夏の気配がするとボサノヴァが聴きたくなるのです。


***


ボサノヴァ(Bossa Nova)は、
アメリカ発祥のジャズと ブラジル伝統のサンバを融合した音楽で、1950年代にブラジルで生まれ、歌の言語はブラジルの公用語であるポルトガル語です。

ゆったり寛ぎたいときや、心を落ち着けたい時、集中したいけど静かすぎてちょっと淋しいときなんかのBGMにもオススメです。

言葉がわからないせいなのか、 気持ちの邪魔をしないというか 干渉されないというか、小川のせせらぎのようにさらさらと流れてくれるので落ち着くんです。


このごろ、愛情が滲み出るような 純粋な笑顔に遭遇すると それだけでなんだか泣けてくることがあります。
そこには “ありがとう”っていう感情と、時には眩しすぎて “どうして” っていう感情がまぎれたりもして複雑です。

小野リサさんの笑顔はナチュラルでひたすらに魅力的。
人生の波を越えながら重ねられてきた笑顔は、あらゆることを受けとめて柔らかく包みこんでしまうようです。

梅雨が明け、朝から元気いっぱいの満面笑顔のような太陽。
まっすぐに見つめることができないその眩しさに くらくらとして戸惑いつつ…

ピザトーストとアイスコーヒー、そしてボサノヴァ。
そんな週末。
いよいよ夏本番ですね。

どうぞよい一日を、よい一週間を、 よい夏を!




   #29.  『 夏祭り 』

⭐︎後ろ姿 鋏を知らぬ髪柔きポニーテールとゆれる兵児帯

⭐︎帰り道きみと頬張る愉しさもまたおあずけのベビーカステラ

      ー ちる ー

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