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初任者のための地域おこし協力隊論 vol.2 ~ここがダメだよ地域おこし協力隊~


自治体と地域おこし協力隊との関係

大きなトラブルと小さな課題

自治体と地域おこし協力隊との間ではしばしばトラブルが起こっています。なかにはメディアを通して、あるいはSNSなどでその様子が広く周知されているケースもあるため、地域おこし協力隊自体にネガティブなイメージを持たれている方もいるかもしれません。
まず最初に誤解のないようにお伝えしておきたいのは、みんながみんなトラブルになっているわけではありません。自治体との良好な関係を築き、大きな成果を残している隊員も多くいます。一方で、大きなトラブルにはならなくても、自治体との関係に課題を抱えている隊員がたくさんいることもまた事実でしょう。その中の一部の事例がメディアやSNSで発信され、拡散しています。言い方を変えると、大きなトラブルは印象付けられているほど頻発してはいないけれど、表に出ていない課題は日常的にあるというのが、私の感じて現場の肌感覚です。

では、なぜそのようなトラブルが起こるのか、どこに問題があるのかを私なりに解説していきたいと思います。
課題の内容も多種多様なので一括りにして論じることは無理があるかもしれませんが、なるべく一般論としてお伝えしてみます。
また、ここは地域おこし協力隊初任者やこれから着任する方を主な読み手として書いていますので、私が地域おこし協力隊を経験したことや様々な市町村の隊員から聞いた話などを踏まえ、隊員の心構えという視点から書きたいと思います。

よく耳にする自治体に対しての不平不満

自治体とのコミュニケーションは、地域おこし協力隊にとって必要不可欠です。本来は地方移住してほしい自治体としたい隊員、地域課題にあたってほしい自治体とあたりたい隊員という、よきパートナーとして活動を進めていくのが理想的な形ではあります。ですが、現実はなかなか厳しいもので、ここで様々な摩擦が起きています。
地域おこし協力隊から聞く自治体との摩擦にはどこのようなものがあるかというと、よく耳にするのは、自由に動かせてもらえない、提案しても通してもらえない、活動に協力してもらえない、手続きが煩雑で時間がもったいない、前に聞いた話と違う、などでしょうか。体感としては表現は違えど概ねこのような内容のものが多いと思います。
一つひとつの話を聞けば、確かに言い分はよくわかるものもあります。自治体あるいは担当職員に問題があるのではないかと思えるようなケースもないことはありません。しかし、ここで見直すべきは、自治体の対応ではなく隊員自身の行動の方です。愚痴をこぼすなとは言いませんがほどほどにしておきましょう。何が原因でどのようにすればいいかを考えなければ何の解決にもなりません。

原因と対策あるいは心構え

自治体が求めるものと隊員がやりたいことのミスマッチ

では、どこに原因があるのかと言えば、私は大別して2つあると思っています。その一つがミスマッチです。

地域おこし協力隊は国の制度の中では極めて自由度が高い制度設計になっています。地域の課題が背景にあれば、およそどんなことでも活動と認められる可能性があります。柔軟な発想で自治体職員ではできなかったことに取り組める可能性があるものの、自治体としては通常の自治体職員の業務とは勝手が異なるために管理の難しさがあります。一方で、自治体の通常業務や抱えているけれども手が回っていない部分、通常は会計年度任用職員(いわゆるパート)に担ってもらっている業務を協力隊活動として当て込むこともできます。こちらは通常の業務管理とほとんど同じ形で済むため、管理の面では扱いやすいのですが、新しく何かを生み出すことには向いていません。(とても大雑把に書いていますが、実際はもう少しグラデーションがあります。)
ところが、おそらくほとんどの隊員は、後者が「地域おこし」協力隊としての活動だとは認識していません。私自身も後者のやり方ではこの制度を十分に有効活用することはできないと思っていますが、方法自体に問題があるわけではないので、自治体によってはそのような利用をしているところも多々あります。この点が最もわかりやすく、そして大きなミスマッチのポイントです。自治体が求めている役割と隊員が考えていた役割とが異なると、おそらくほとんど何をやってもうまくいかないと思います。

では、これを避けるためにはどうすればいいのか。
率直に言って、すでに着任してしまってからでは手遅れです。根本的な制度の使い方、求める役割について自治体の考え方を変えることは非常に難易度が高いと言わざるを得ません。ですので、本来は着任する前に確認するべきなのです。
多くの地域おこし協力隊は、自治体のホームページやJOIN、LOCAL MATCH、SMOUTなどのプラットフォームに掲載されている地域おこし協力隊の募集情報を見て申し込んでいると思います。その主な応募の流れは、プラットフォーム経由の場合、仲介する事業者による事前面談がある場合はそこで大まかな説明を聞きます。それがない場合や自治体のホームページから直接申し込む場合は、応募用紙等、必要書類を郵送します。そのあとの流れは書類選考、そして面接。これで終わりです。もちろん自治体によっては懇切丁寧に事前説明をしてくれるところもありますが、ほとんどの場合、面接の中での質疑で対応することになります。ここまでの流れの中で、どれだけ自治体の求めることや隊員の役割、制度の使い方を含めて、自分が思い描いている活動とのギャップを確かめる、あるいはすり合わせる作業をしなければなりません。自分の働き方を規定するわけですから、これは転職しようとする社会人にとって非常に重要なスキルだと思います。もしそれだけでは十分に確認できないだろうと思うなら、それ以外の手段を考えなければなりません。自分が身を置く仕事環境について事前にできる限りの情報を集めておいたほうがミスマッチは起きにくくなる、という至極当然のことです。
このような事前準備をないがしろにしたまま着任したのであれば、残念ながら今抱えている問題がこの点に帰結する可能性は高いと思います。そうだとすると問題の解決は難しいと言わざるを得ません。決められた環境の中でできることを考えるか、どうしても適応することが難しいのであれば、任期を気にせず退任するという選択も間違いではないと思います。

協力隊活動は自治体組織における仕事

もう一つは、仕事に対する考えが甘い、というパターンです。

地域おこし協力隊は、その名称や制度からどこか他の仕事と違って特別なものだと思っている隊員が少なくないように感じます。もしそう思っているのなら、それは大いなる勘違いです。確かに地域おこし協力隊は、国の制度の中では極めて自由度が高い制度となっています。しかし、自治体が予算を組み、議会の承認を得て執行し、国へ報告し、国から特別交付税措置を受けるという制度です。税金を使う事業です。まったく自治体職員と同じではありませんが、そうでなくとも税金を使っていることは極めて強く意識すべきです。まずそもそもこれをわかっていない隊員は言語道断ですが、税金を使うからこそ、ある程度手続きが厳格になるのは仕方のないことです。むしろそれが隊員本人を守ることにもなるので、それを面倒くさがるのであれば、税金を扱う仕事をするべきではありません。
また、企画・提案が通らないという嘆きは、どのように捉えたらいいのでしょうか。これはいたってシンプルで、その企画・提案がその自治体の決裁を得られるものではなかった、というだけです。これは地域おこし協力隊でなくても、自治体職員でももちろんそうですし、民間企業でも当然よくあることです。出した企画、提案が何でもかんでも通るわけではありません。それを、自治体が非協力的だとか、やりたいことをやらせてもらえないだとか、そのようなことを言うのは少々軽率かと思います。
自治体には自治体の判断基準があります。それに叶うものを企画・提案するためには、それなりの準備も必要ですし、自治体に対する理解が必要です。自分がやりたいことをやりたいときにやりたいようにやりたいのなら、個人事業として行うなり、起業して行うなりすればいいのです。そうではなく、地域おこし協力隊として活動するからには、やりたいことをやりたいのなら、それができるように自治体の判断基準に沿う形で企画を練り、提案し、理解を得る努力をしなければなりません。すんなり通ればいいですが、そうでないことの方が多いものです。それでもやりたいのなら、何度も何度も対話を繰り返す必要が出てくるかもしれませんし、提案する部署を変える必要があるかもしれません。時期を見計らう必要があるかもしれませんし、外部の協力者の力を借りることもあるかもしれません。もしかすると、企画内容を一から練り直したほうがいい場合だってありますし、時には断念してまた別のやりたいことを考えなければならないかもしれません。でも、得てして仕事とはそういうものなのです。

なぜ地域おこし協力隊にとって耳の痛いことを言うのか

協力隊OBである私は、本来なら協力隊の味方になって労いの言葉一つでもかけてみればいいのかもしれません。しかし、ここまで一貫して、自治体ではなく地域おこし協力隊にとって耳の痛いことを書き連ねてきました。なぜか。
それは、地域おこし協力隊の人生はその人のものだからです。中にはどう考えても自治体の考えがおかしいのではないか、というような事例もあると思います。ですが、そのような場合でも、外からではわからない事情がある場合がほとんどです。担当する職員自身も葛藤を抱えながら判断していることもあります。ですから、トラブルや課題の原因を自治体に向けたところで何の解決にもなりません。そうではなくて、自分ができることを考えるべきなのです。
彼らはあなたの人生の責任は取りません。取れません。自治体職員でなくてもそうです。結局のところ、あなたが選択をした地域おこし協力隊ですので、あなたの地域おこし協力隊としての活動の責任を取れるのはあなただけです。自治体職員にあなたの人生の一部を預けてはいけません。だから、課題の解決に向けてあなたができることは何かを徹底的に考え、ただそれをやればいいのです。その先にこそ、あなたにとっての素晴らしい未来が待っているだろうと、私は思います。

<つづく>


自分の真意を相手にベラベラと伝えるだけが友情の行為ではないということさ。それがわたしの提唱する真・友情パワーだ…(キン肉アタル)